正反対


私は昔から素直じゃない、そう言われることが多かった。

自分でも自覚はあった。思っていても口から出るのは正反対の言葉ばかり。

そんな自分が昔から嫌で、大嫌いだった。

だからこれは、そんな私に対する天罰なんだ。









「今日こそは…!ラピード!触らせてください!」



旅の途中、もはや恒例と化したエステルの頼み。

しかしラピードはそんなエステルを無視して先へと歩いていってしまう。

先を歩くラピードを見て肩を落とすエステル。



「どうして触らせてくれないんでしょう…?」

「そんな落ち込むなって。あいつはからかってるだけだろ」

「本当でしょうか?わたし、自信がなくなってきました…」



眉を下げるエステルに、やれやれといった様子でため息を吐くユーリ。

この光景もいつもと同じ風景。

そしてそんな光景に苛々する私も、いつもと同じ。



「はぁ…」



私はユーリが好き。

いつからとか、そういう正確な時間がわからないくらいずっと好き。

でも私は、戦闘で守ってもらった時でもお礼が言えず、

むしろどうしてそんなことをしたのかと怒鳴ってしまうほど素直じゃない。

だからこそ、素直すぎるエステルに苛々してしまう。

正反対なエステルに嫉妬してしまうんだ。



「(そんな資格なんてないのにね)」



ユーリの恋人でもない私に、嫉妬する資格なんてあるはずもない。



「はぁ…」



だから私は、今日もこうやってため息を零すんだ。



「グルルルルルルル」



ラピードの唸り声でふと思考が現実に引き戻される。

前を見ると、大きな魔物が私たちを睨み付けていた。

すぐに武器を構え、戦闘準備に入る。



「(大きすぎる…!ギガントモンスターね)」



明らかに普通の魔物と雰囲気が違いすぎる。

みんなにも緊張が走る。

戦闘が始まりを告げたのは、敵の攻撃だった。








「はぁ、はぁ」



どのくらい戦ったのだろうか。

あまりの長く、激しい戦闘に敵も私たちも疲労していた。

目の前の敵を睨み付けていると、ふと横にいたユーリが口を開いた。



「ったく、しぶてぇな。おいセピア。大丈夫か?」

「そこらの貧弱な人と一緒にしないで」

「へーへー。いらない心配してすいませんね、と!」



ああもう。だからなんで私はそんな言葉ばかりなの。

ユーリが心配してくれて嬉しい、のに。

こんな自分、大嫌い。



「グルル…」



ふと、目の前の魔物が視線を外す。

その視線の先にいたのは…。


怪我をしたラピードの傷を癒していて、魔物の視線に気づいていないエステルだった。



「エステル!」



叫んだのは私か、それともユーリだったのか。

魔物がエステルに向かい走り出すのと同時に私は駆け出していて。

そこから先は、何も覚えていない。








「…ごめ……なさい…!ごめんなさい…!」

「エステルのせいじゃねぇよ」



ああ、何か声が聞こえる。

目の前は真っ暗だけど、意識は戻った。



「(あれ?)」



私、どうなったんだっけ?

確か、魔物がエステルの方に向かって言って…。

私も同時に走りだして…、それから……それから?

それからどうなったんだっけ?



「セピア!本当にごめんなさい…」



なんでエステルが謝ってるの?

みんな無事だったからいいじゃない。

そう、みんな無事。



「(私以外、ね)」



どうやら私は目をやられたらしい。

道理で真っ暗なはずだ。

この絶望的な現実を私は冷静に受け止めていた。



「セピア!しっかりしろ!」

「ゆー、り?」

「ああ、オレだ!悪い、守ってやれなくて…!」

「何、言ってるの?エステルを守った私を守れるわけないでしょう。少し考えたらわかるじゃない。

 それに、あなたに守ってもらうほど弱くは無い」



目が見えなくても私の言葉は変わらなかった。

ああ、やっぱり私の言葉は正反対だった。



「…そうかよ」



ユーリが低い声で呟く。

どうやらこの様子だと、私の視覚がなくなったことに気付いていないらしい。

これはチャンスだと、私は口を開く。



「やっぱり人と行動を一緒にするものじゃないわね」

「は…?」

「邪魔だったのよ。やりたいこともできないし。

 これを機に私は抜けるわ」

「ちょ、おい!」

「じゃあね、さよなら」



見えもしない道を直観に従い歩く。

真っ直ぐ歩けているかもわからないが、ひたすら歩いた。

彼らから逃げるように。


もし私の目が見えないことを知ったら、あなたたちは私を離さないでしょう。

でも、見えない私はあなたたちの迷惑になるの。

戦うこともできず、守ってもらうだけの人間。

あなたたちに…、ユーリに迷惑をかけるくらいならここで魔物に食べられたほうがマシ。



だから、さよなら。








(初めて心から話せた言葉がさよならなんて)
(今まで正反対な言葉しか出せなかった私には丁度いいのかしら)





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