委員長と愉快な仲間達 | ナノ
1



春。それは別れと出会いの季節。

新たな歩みに、新入生である私達は不安と期待でいっぱいです。
薔薇色の高校生活を歩めるかどうか…分かれ道は今まさに迫っています。


ですが、先に言っておきましょう。


私は今すぐ登校拒否したいです。


委員長と入学式




「何なの?あの挨拶」



式が終わり、自分の教室に帰る途中、臨也は慣れた様子で少女に声をかけた。
中学からの同級生である少女…──頼子は進めている足を止める。



「君が新入生代表なだけでも驚きなのにあの挨拶は無いよね」

『…うるさいなあ!ありのままを話しただけでしょ!』



新入生代表、山田頼子。
彼女は来神学園高校 入学式で、先程 新入生の挨拶を済ましたばかりだった。



「不登校になりたいですってアレ、先生達ざわついてたけど」

『進路の個人懇談で校長先生に土下座されて仕方なく来神に残ったのよ 私は。
誰かさん達がいるせいでね!」



臨也、新羅、そして頼子は来神学園中学出身者である。
本来、あまり噂の良くない来神学園の高等部に残る者は少ないが、臨也と新羅の進学は前から決まっていたようで。
二人揃って高等部へ進学する。それが決まった日、学校では職員会議が開かれ大騒ぎ。
会議は長時間にわたり、そこで出た結論が「山田頼子に残ってもらうしかない」だった。
中等部でも変わり者の極みだった二人。その二人と不本意にも辛うじて渡りあえるのは彼女だけであった。
学校側から見てもそれは明らかであり、中等部の頃から臨也達と先生の通気口的役割を果たしていたのだ。
それまで頼子は別の私立に入学する気満々だったが、個人懇談でまさかの校長先生の本気。
いくら変わり者と一緒にいた頼子でもしばらく開いた口が塞がらなかった。



「人のせいにしないで欲しいなあ。委員長が勉強 面倒だっただけだろ?」

『違うわよ!大体その短ラン何なの?格好良いと思ってんの?』

「君こそ、高校に上がった途端 髪切ってコンタクトにしてイメチェンのつもり?」

『何ですって!?…よし、分かった。喧嘩しよう喧嘩。
……おっと、』



ファイティングポーズとろうとした頼子に何かがぶつかる。
振り向くと、長身にオールバックの男子が一人。



『……ツッパリ?』

「は?」

『あ、いや何でも。ごめんね』



彼は不思議そうに臨也と頼子を見た後、自分の教室に戻って行った。



『ちょっと今の見た?イケメンだったよ。喧嘩強そう』

「彼は確かうちのクラスの門田京平だったかな」

『何、もうクラスメイトの名前覚えたの?』

「出席番号が近いんだよ。
委員長もさっさと名前覚えて友達作れば?」

『あんたにだけは言われたくない』

「どうかな、寂しくなってうちのクラスに来ることだけはやめてほしいね」



バチッ

二人の間に火花が散った。
周りの廊下を行き来する新入生はチラチラと心配そうにそれを見ている。
が、今すぐにでも殴り合いしそうな二人を和やかに見る人間が一人。



「やあ二人とも!元気そうだね!」



岸谷新羅。頼子が高等部に入学することになったもう一つの原因である。



『本当、唯一臨也とクラスが離れたことが救いだわ』

「私とは同じだけどね」

『新羅、あんた絶対私に話しかけてこないでね。話しかけてきても無視するから』

「善処するよ」



それにしても。と頼子は周りを見渡す。



『何で廊下にドラム缶が転がってんのよ』

「さあ?」

「噂には聞いてたけど相当荒れてるみたいだね。またセルティに心配されてしまう」

『…あのさ、ずっと思ってたんだけどセルティって誰なわけ?』

「新羅曰く恋人らしいけど?」

『とうとう妄想と現実の区別もつかなくなったか…』



頼子が新羅に向かって合掌をする。
新羅は「本当だよ」と返すが、頼子のまるで可哀想な子を見るような目は変わらなかった。


[ 18/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]