委員長と愉快な仲間達 | ナノ
3



『ちょっと、何す「勝負しようか」

『……は?』



唐突な申し出に目を丸くする頼子。
臨也はコテを頼子の方へ向けて再び笑う。



「今回の中間テストの順位を争うのさ。もちろん総合得点のね」

『はあ〜?何でそんな面倒なこと…』



無理。やる気出ない。
そう言って頬杖をついた。
そんな頼子の態度は想定内だったため、臨也はたいして慌ててはいなかった。



「…もし俺に勝ったら好きな物買ってあげるよ」



ぴく、

頼子の眉が微かに動いた。



「最近 臨時収入があったからねえ」



臨也の収入源は主に"賭博"だ。
中学の頃、生物室で行っていた野球賭博。高校に入学してからは野球に限らず、色々なものに手を出していた。
そして初めは臨也一人でやりくりしていたが、やがて仲間が増え、"組織"として成長したのだ。



『マジ?じゃあ露西亜寿司の大トロ食べたい』

「いいよ」

『うっそ!本気!?高いよ!?』

「………」



話を進める臨也と頼子。
門田は静雄と新羅のテーブルに行くべきだったと後悔した。



「大トロくらい食べさせてやるよ。嫌というほどね」



話がまとまったところで臨也が席を立つ。



「じゃあ俺は早速勉強することにしよう。君達はそこで呑気にお好み焼きでも食べているがいいさ」



睨む静雄を無視して、そう捨て台詞をはいて臨也は店から出た。
残された四人はしばらく店の扉を見つめる。



『何なのあいつ。急にやる気になっちゃって…変なの』

「確かに…珍しく燃えてるな」

「真剣に相手することねえぞ 委員長。ノミ蟲のことなんかほっとけ」

「あはは、臨也は負けず嫌いだからね」

『どういう意味?』



臨也と一番付き合いが長い新羅は彼の真意を見抜いていたらしい。
頼子は笑っている新羅を見た。



「今まで散々馬鹿にしてきた委員長が自分より上回ってるかもしれないって気付いたんだよ。だから委員長の"本気"と勝負したいんじゃない?」

『どんだけ馬鹿にされてたのよ私』



つーか 負けず嫌いにもほどがあるでしょ。
頼子は面倒なことになったな〜 と頭をかき、門田は溜息。静雄は臨也ぶっ飛ばすとコテを曲げ、新羅はテスト当日を楽しみにしたのだった。










翌日。
門田がいつも通り教室に入ると、頼子が教科書を広げていた。



「コンタクトはどうしたんだ?」



いつもはコンタクトだが、今日の頼子は眼鏡姿だ。
気になったので聞くと、頼子は眼鏡を上げながら言った。



『私、物事はカタチからはいるタイプなの。あ、因みにこれは伊達でコンタクトはちゃんとしてるわよ』

「なんだ、臨也と勝負する気になったのか?」

『まぁね〜。さすがにこれ以上なめられたくないし。それに静雄も一緒に勉強することになったの』

「ふぅん、キズの舐め合いでもするつもり?」



どこからともなくやって来た臨也は見下しモード全開だった。
そして門田は思う。お前もか、と。



『ちょっと、何これ見よがしに眼鏡なんてしちゃってんの?馬鹿なの?』

「委員長こそ外面だけで終わるようなことはやめておきなよ」

『それは私の台詞よ。つーか短ランに眼鏡って真面目か不真面目かハッキリしなさいよね!』

「吠えたいだけ吠えなよ。元気があるうちにね」



じゃ、俺は帰るから。とスタスタと教室を出て行った。
廊下で「いぃぃざぁぁやぁあああ!!」と静雄といつもの声が聞こえる。



『くそ、家で勉強する作戦か…てか何しに学校来たのよ』

「挑発しに来ただけだな」

『あいつは私を苛立たせる名人か!!』



絶対寿司奢らせる…!と意気込む頼子に、門田は昨日振りの溜息をついた。











そしてテスト結果発表の日。










第一位   平和島静雄



『えぇぇえええ!?!?!!?』



廊下に張り出された順位表は、確かに"平和島静雄"と書かれていた。
そして学校中に頼子の声が響く。



「こんな点数 初めてだ。委員長のおかげだな!」

『ほんと?じゃあ私と付き合っ「それは勘弁してくれ」

『チッ』

「いやぁ〜、静雄に一本取られたね 臨也」

「………化け物のくせに」

「あ?」



ザザッ

順位表を眺めていた生徒達が一斉にその場から逃げる。
静雄と臨也はしばらく睨み合い、臨也がナイフを取り出したと同時に追いかけっこが始まった。



「死ね臨也ぁああああああっ!!」

「はは、シズちゃんこそ!」



二階の校舎の窓から飛び出た二人を見て、頼子はため息をつく。
そんな頼子に、隣にいた門田が口を開いた。



「止めなくてもいいのか?」

『…今日くらい、いいんじゃない?』



お前も相当負けず嫌いだな。という言葉を飲み込んで、門田は改めて順位表を見る。
平和島静雄の次にあるのは同着二位の臨也と彼女の名前。きっとこの三人が並ぶことは二度とないだろう。



「まさに奇跡だな」



門田のそんな呟きは、遠くから響くパトカーのサイレンで消えた。





(二度と勉強なんかしない!)(お前な…)


[ 23/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]