似顔絵を描いてもらった。

 何をしているんですかと、落ち着き払った声音が尋ねる。
 その声の調子は少々呆れをはらんで、それでいて馬鹿にしたような響きはない。弾んだ声で、灰原さんが声の主を振り返った。

「あ! 七海! 任務お疲れ様」
「お疲れ様です。……そこの椅子におばけさんがいるんですか?」
「そうだよ。あ、何してるかって言うと、似顔絵を描いてるんだ」

 七海さんがわたしのいる方向に視線を向けて問う。
 なんとなく、年代の近い女子の頭があるであろう位置に視線を留めようとしているのを感じ、優しい人だなぁと心の中で呟いた。
 涼やかな目元とその視線は、あまり穏やかな印象とは言えない。だが数日観察するうち、七海さんの、聡明で思いやりのある人間性を知った。

「……あまり彼女に迷惑をかけないように」
「えっ。七海が言ったんじゃないか、おばけさんがどんな見た目かわからないって」
「きみの説明でわかる人がいたらここに連れてきてください」

 七海さんの表情がわたしを気遣うようなものへ変化したので、わたしは眉尻を下げてくすくすと笑った。
 わたしは今、灰原さんの指示で、彼の用意したパイプ椅子に座って、彼らに相対している。その目的は、灰原さんがわたしの姿をスケッチブックに描くことだ。
 七海さんはわたしの姿が視認できないので、灰原さんが以前説明をしようとした。わたしの姿をまじまじと見つめ、少し考えてからこう言った。

「身長は七海の肩くらい。目が大きくて、髪が赤い!」

 七海さんは一瞬動きを止めた後、「私が知っていて、似ている人物は? 芸能人とか」と聞き返したが、灰原さんはうーんと唸った後、わかんない!と元気に言い放った。その反応にわたしは肩を落とし、七海さんは大きなため息をついた。
 翌日の今日、灰原さんはわたしの姿を見つけると、名案を思いついたように嬉しそうな表情で、絵のモデルになってと提案してきたのだった。
 灰原さんが差し出したスケッチブックを受け取った七海さんは、無言で視線を落とす。事前に聞いていた情報と、頭の中で照合しているのだろう。

「……まぁ、なんとなくわかりました」
「ほんと!? あんまり上手く描けなかったけど」
「それはそうでしょうね」
「七海はハッキリ言うなぁ」

 顔を上げた灰原さんは、わたしの目をまっすぐ見つめた後、おいでと手招きをした。
 わたしは彼らの後ろに回って、共にキャンバスを覗き見た。そこには小学校で「絵が上手い」と評される子が描いたような出来栄えの、可愛らしい女の子の絵があった。
 七海さんはああ言ったが、結構上手だ。わたし、こんな風に見えているのか。ふと、灰原さんがわたしを振り返って笑った。

「ごめんね。おばけさんは本当はもっとかわいいのに、僕が下手くそだから」

 一ミリも悪びれずにそう言った後、灰原さんは視線を正面に戻した。
 彼の背後で、わたしは急に熱くなってしまった頭を抱えた。わたしの姿が見えていないはずの七海さんが同情的なため息を漏らすと、灰原、そういうところですよと呟いた。



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