昔の夢を見た――…

ポーンッ…

日が暮れ、夕陽が自分達と自分の見る景色を赤一色にした頃、公園でサッカーをするのを止めて、自分の家に帰って来た時だった。力無く自分の手から僅か3歳の自分の頭より大きいボールがこぼれ落ちた。目を見開くのは自分の母親に映る自分と5歳年上の自分の兄。信じられないと言わんばかりに口をOの字にして耳に入って来た言葉をひたすらリピートした。
告げられたのは自分の幼馴染の悠那がどこか遠くに行ってしまった事。別に死んだ訳じゃない。どこか遠い国に行った。ただそれだけ。

だけど、それでも3歳しかない少年にとっては、どこか寂しい所があった。嘘だ!と母親に向かって言ったけど、悠那が居ないのは事実。だけど自分はその事実がどうしても受け入れられなくて、その場から逃げるように出てっ行った。


「京介…」

悠那が遠い国へ行って、あれから二年の月日が経った。僕は5歳になって兄ちゃんは10歳になった。言葉だってそれなりにちゃんと話せるようになったし、サッカーだって上手くボールを蹴れるようになった。そんな今日この頃、僕は珍しく公園に行かず、家の中に居た。自分の床下には歪な形ながらもちゃんと分かるような紙飛行機達。全部全部失敗。
そして、今自分の手元にはまた新しくも歪な紙飛行機。兄ちゃんはそれを見て困ったように笑った。

「これは…?」

歪な形をした紙飛行機達の中から一つだけ取り上げ、ジッと見る兄ちゃん。それと同時に紙飛行機の間から色んな物達が落ちて来て、自分の目の前に姿を現した。

「僕の想い」

会いたくて会いたくて仕方が無いあの子に届けたい僕の二年間の想い。全てガラクタみたいに落ちて来るけど、これは全て僕の想い。本当は、鶴みたいな物を折りたかったけど、作り方が分からないし、自分の手はそんな細かい所まで折れないし器用でもない。だから誰でも折れるような紙飛行機を折った。
紙飛行機が出来上がればその想いを乗せて飛ばすんだ。そう僕が言えば兄ちゃんはまた笑った。

「紙飛行機は重さがあると上手く飛べないんだ」

だから、と兄ちゃんはそこで僕の作った紙飛行機を取り上げて、紙飛行機の端っこを折り曲げ、兄ちゃんは目をつぶりだした。

「兄ちゃん?」
「これは俺の想い」

そうは言うけど、紙飛行機の上には何も乗っていない。何も乗ってないし、何も書いていなかった。それを僕は意味が分からないと言わんばかりに首を傾げれば頭に手を乗せられた。

「何も書いてないけど、何も無いけど、これが俺の想いなんだ」

そこまで言った兄ちゃんは窓に向かって、その紙飛行機を放った。放たれた紙飛行機は若干揺れながらも空に向かって大きく弧を描いて風に揺られ、静かに飛んだ。自分が今まで放って来た中で兄ちゃんが放った紙飛行機が一番綺麗に飛んでいた。形は歪だけどちゃんと飛んでいる。思わず口を間抜けながらも開いていた。

「京介もやってみろ」

きっと今度は上手くいく。兄ちゃんはそう言って、自分に置いてあった紙飛行機を渡した。多分この中では一番綺麗に出来たやつ。
渡された紙飛行機を丁寧に形を兄ちゃんと一緒に直して、目を閉じて想いを念じかけた。

「ユナまで届け!!」

だけど、自分の力任せで宙に浮いた紙飛行機は窓から出た途端、ゆるりと弧を描いた。そしてそれは、すぐに傾いてしまい、ぽたりと床に落ちてきた。兄ちゃんと同じ事をしたのに、自分のは上手く飛んではくれない。僕はただ、その歪な紙飛行機を見るしかなかった。

「……」
「京介…」

兄ちゃんが何を言いたいかは大体分かっている。だって、兄ちゃんがそうさせたんだから。僕の力で紙飛行機はそんな遠い国には行かないし、それに形が歪だ。飛ばせてもそれは絶対にユナまでは届かない。
言われなくてもはじめらからこんなもの(紙飛行機)じゃ届く筈無い事知ってたんだ。
それだけ遠く、それだけ遠く、キミが行ってしまっただけ。それだけなんだ。
それだけでも、

――それでも僕は…

俺は…

『なーにしてんの、京介』
「ユナ…」

それでも、俺は…

『早く来ないと練習始まるよ?』

あの時の想いをどうしてもこいつに、届けたかったんだ。

「ああ、今行く」

――また、会ったらサッカーやりたいね!


end

***

ちょっとした剣城兄弟と夢主の昔話。
紙飛行機の意味が伝わってくれれば嬉しいです。


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