後半戦のスタートのホイッスルが鳴り響き、試合が開始される。今の所同点の域。そのまま勢いに乗りたいと思っていた矢先、相手のメンバーが変わり、また戦略を始めから立て直す事になった。
相手がどう出るのか、雷門の皆が構えた瞬間だった。

バシッ!!

ホイッスルが鳴り響いたと同時に後藤がボールを大きく蹴り上げ、誰も居ない前線へとパスを繰り出す。一見これはミスキックだと思われた。ボールは真っ直ぐ霧野の方へ向かっていっており、霧野は半信半疑になりながらもボールをトラップ。
それを見た後藤と伍代は自分のポジションへと戻って行った。相手は、同点にも関わらず守備を固める気なのだろうか。何はともあれ、良い気はしないものの、雷門にボールは渡った。

「コイツら…」
「何を考えている?」
「ちゅーか、行くしかないっしょ!」

聖堂山より何を考えているのか分からなくなってしまう剣城と倉間。だが、こちらは動かなければ始まらない。浜野は困惑の笑みを浮かべつつ上がり始めた。それを見て天馬は霧野に浜野へとパスをするように指示を出した。
霧野からパスを貰った浜野は剣城と錦と共に陣内へと走って行った。

「(なんか不気味〜…)」
「浜野!!」
「!…おう!」

ふと、上がっている途中に浜野がドラゴンリンクのメンバーの一人へと目をやった。不敵な笑みを浮かばせながらこちらを試しているような目と視線が混じり、思わずこちらも良い気がせずに困惑した表情をする。そんな彼に錦がこちらへ渡せと言わんばかりに名前を呼びかけ錦にパスを出した。

「おし、勝ち越しの一点はわしが決めるぜよ!」
「ここは通さない…

……うおぉおおおおおお!!」
「「「うおおおおお!!!」」」

錦にパスが回るのと同時に前衛に居たドラゴンリンクのメンバー達の背後から大量の藍色の靄が一気に放出された。それらがどういう意味を示しているのか、空気がその時張りつめた。

「「「「“精鋭兵ポーン”!!」」」」

「やはりか…!」
「「「「っ!!」」」」

ドラゴンリンク…いや、聖堂山は交代して僅か開始数分でいきなり四体ものの化身を出してきた。まさに壮観と言った所か。どこから攻められる、という面ではこの聖堂山も同じという事か。剣城はこう来ると予想していたのだろうが、僅かに困惑の表情を見せている。そして、まさか四体を一気に出してくるとは思ってなかった雷門のメンバーもまた困惑した。

「フォワードの四人全員が化身を…っ」

そう、つまりフォワードの四人が化身使いなら、他の選手達もまた化身使いだと予測しても驚きはしない。ポーンはチェスでは前にしか進めない。つまりフォワードの人達はひたすらゴールを目指せという意味で彼等はこのポーンを手に入れたのだろう。全く姿形似ているポーンは腕を組むと雷門のフォワードを静かに兜の中から見定めていた。

ふと、悠那はポーンを見た後、裕弥が居るであろう方向に目線を移した。不敵に笑って見せる裕也の姿。彼との目線は試合前から全く合わない。
もし、もしこの聖堂山の選手全員が化身を使えるのだとしたら…裕弥もまた使ってくるかもしれない、という事になる。

――止められるだろうか、自分に…

サッカーの経験も、化身を持って使っている経験も、体力も、才能も、裕弥とは全く違う。圧倒的に自分の方がまず勝てない。ごり押しでやっと彼を止められるまで行くかいかないか。だけど、その前に化身は体力をかなり消耗する。裕弥がもし、病気はまだ治っていなくてサッカーをやっているのだとしたら、化身との衝突でもし、彼の病気が悪化する事があったとしたら――…
彼は二度とサッカーが出来なくなる…?

『っぁ……』

怖い…。一度足を失いそうになった時、もうサッカーが出来なくなるのではないかと悟ったあの時、自分はとてつもない恐怖と悲しさを覚えた。皆とサッカーが出来ない。足を失ってしまう。その恐怖を経験した悠那だからこそ思う所があった。そして、太陽と神童が倒れたあの時、自分の体を誰かが拘束したのではないか、と思うくらいに寒気を感じ動かなくなった。
ダメだ、そんな事があっては…絶対にダメだ。止めなきゃ…裕弥を、止めなくては…

『止めなきゃ…止めなきゃ…止めなきゃ…』

顔を青ざめながらひたすら呪文のように呟く少女。その声は誰に届く訳でもなく客の歓声や爆風に掻き消されていく。そんな中、そんな彼女の様子に気付きジッと見つめる人物が居た。

「(悠那…)」

――もっと、もっと周りをよく見るんだ。そして、自分の気持ちを忘れるな…


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