「うおおぉぉ―――!!」

神童の悔しさで叫びと共にフィールドに二体目の化身が出現した。勿論、その事にはこの場に居た全員は目をこれでもかというくらいに見開かせており、化身を出した本人ですら気付いているのかどうかも分からない。この化身は悔しいと本気で思った神童の想いが形となって現れたのだ。化身が現れたと同時に強風が吹き、神童の目から出ていた涙はいつの間にか乾いていた。

「キャプテンの…化身!?」

周りの皆、つまりチームメイト達を見て目を見開いている所を見ると、これは初めてそれを見るように見ていた。どうやら神童は一度も化身を出した事、使った事が無かったらしい。化身を出す時、剣城はその名前を叫んでいたが、神童はその素振りさえなかった。
皆が唖然とする中、神童は化身を出した所為か、どこか様子がおかしくなりだしていた。

「おおー…」
『…?』

先程前半が始まる前に黒木と名乗った相手チームの監督が帽子の下からでも分かる驚き、そして感動さえも見える表情をして神童の化身を見ていた。そして、口を開き零すかのように言葉を繋げた。

「素晴らしい!これぞ“化身の共鳴”…!!」
「(化身の共鳴…?)」
『(なにそれ…?)』

と、天馬にもその声が聞こえていたらしく、冷や汗を垂らしながらも疑問符を浮かべていた。
黒木が言うには剣城のランスロットが、神童の心の奥に眠る資質を呼び覚ましたとの事。正直、今一何を言っているのかが分からなかった。化身とか、フィフスセクターとか何を考えてるのか全く分からない。

剣城は「おもしれえ…」と言い、出していた化身を収縮していく。
目はお互い見えていないが、睨み合う化身と化身。そして、剣城と神童もまた睨み合っていた。誰もこの二人の間に入れない状態となっていた。

「雷門を守るのは…この俺だあ―――!!」
「!?」

神童の今の叫びに漸く様子がおかしい事に気付いた。だが、それはもう既に遅かった。
「キャプテン…!」と狼狽える天馬を突き飛ばし、剣城へと歩み寄る神童は誰にも止められないのだ。突き飛ばされ倒れた天馬を心配しながら起こす悠那。天馬はその拍子にどこかをぶつけたのか、そこを抑えて痛そうに顔を少しだけ歪めていた。

「いてて…」
『大丈夫?』
「うん…」

そう返事をして、苦笑気味に悠那に心配かけまいと笑った。それを見て悠那も困ったように笑いながらも頷き、視線を剣城へと近付く神童に移した。

「…今の先輩、混乱してるね…」
「え…?」

神童に目を向けている悠那の顔は先程の心配そうな表情とは違い、顔を曇らせていた。それを見た天馬もまた神童に目を向けた。
藍色の靄が神童の背中から出ており、9という背番号を隠していた。靄の風圧で、ユニフォームや髪が揺れ、少しだけ見えた神童の表情は剣城への怒りが込められていた。
自分の思ってた混乱より少しだけ落ち着いているが、あの様子で本当に混乱をしているのだろうか?と、天馬は感じた。

混乱とは、物事が入り乱れて、秩序を無くす事。色々な物が入り混じって、整理が付かなくなる事を指すが、あのキャプテンもそんな状態なのだろうか…?自分にはどうしようもない、或いはどうしようも出来ない状態に、キャプテンが?

『プレッシャーじゃないかな…』

サッカー部やチームメイトを守りたい気持ち、そして剣城への怒りがごちゃごちゃになってしまった。そこで言うと、天馬も納得した様子で悠那から神童へと視線を戻した。
もし、そうだとしたらキャプテンだけの所為じゃない。そうは感じたが、それと同時にキャプテンだからこそなのでは?と思えてくる。責任感が強く、仲間思いの優しいキャプテン。それは悠那にも感じていたのか、悠那は神童から天馬にまた移した。

『私達さ、良いサッカー部に入れるかもね』
「うん、そうだね!」

だが、そうも笑ってはいられなかった。良いサッカー部、サッカー部でないの前に、神童がもしその混乱状態だとしたら、今きっと危険な状態に違いない。不意に視線を神童に移せば少しだけだが、息が上がっているように見えた。その証拠に神童の肩は上下に揺れていた。

「俺はキャプテンなんだ!サッカー部を守らなくちゃならないんだ!!」
「キャプテン…」

余程責任感が強いのか、彼から出た言葉は聞いていたこっちまで心を針で刺されるような痛みが来た。
仲間がその叫びに辛そうに顔を歪める中、騎士団のメンバー達はそれをおかしそうに笑って見ているのだ。そしてそれは剣城も同じようで、吼える神童を鼻で笑った。

「出来るかな。潰してやる、この俺がな!!」
『…京介、』

キミは、どうしてサッカーを潰すのさ…
悠那が剣城に目を向けたと同時、靄になっていたランスロットが再び姿を現した。剣城の蹴る勢いと共に、ランスロットは剣を振りかざした。化身が動作をする度、ガチャッと金属と金属の擦れる音がした。ヤバい…そう本能が叫んだ時だった。

「っ!、うおおお―――!!」

神童の化身はタクトのような杖で円状の光りを出した。そして、ランスロットの剣をその光りで受け止めた。化身と化身の激突が今目の前で行われた。ぶつかった衝撃で波紋がフィールドに広がっていく。それと同時に強い風が吹き、近くに居た天馬と悠那の神はその風の所為で激しく揺れ出した。あまりの風に自分の髪を抑えながら目を固く瞑る悠那。

ボールは化身同士の力に耐えきれなかったのか、高く上がり二人は力を出すのを止め、そのボールを取りに行く為に走り出す。が、その時だった。

「そこまでです!!」

不意に騎士団の監督、黒木がこの試合を終わらせると言わんばかりに止めた。何だ何だ、と自然と目が黒木の方へと向かれた。
そして自然と、剣城と神童の動きも止まった。その為、ボールは神童の足まで転がってきて、またどこかにとんで行った。

「何故です…!」

その黒木の判断に剣城も納得出来なかったのか、眉間に皺を寄せていた。先程まで春奈が試合を止めろと言ったのにも関わらず止めさせてくれなかった黒木。なのに今度は自分が止めろと言い始めた。それでは剣城も納得出来ない。

「試合はここまでです」

と、黒木は念を押して、もう一度言う。
だが、ここで両者共「はいそうですか」なんて言う人物は居ないだろう。勝手に勝負を仕掛けて来て、勝手に退散。それにはこちらもちゃんとした理由が無いと納得も出来ない。だが、それと同時に安堵の息を吐く者も居た。、相手は知らないが、自分達の体力が残り僅か。
都合が良いと言えば都合が良いのだろう。

「撤収します」
『……』

本当に彼等は勝負を仕掛けて来たのだろうか…?と悠那は思い始めて来た。事実を言えばもう戦わなくて良い。もう皆の傷付く所を見なくて済む、というのはあった。悔しそうに拳を握り締める剣城。渋々彼は「はい…」と聞こえるか聞こえないくらいの声で返事をして、踵を返した。その姿に思わず自分の天馬を支えている手に力が篭もった。

「ユナ…?」



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