「ぅっ…!」

痛みがまだ治まらないのか、三国は痛そうな声を出す。石を見ていた円堂、鬼道、吹雪はその声で三国を見た。

「三国、交代だ」
「大丈夫です、やれます!」
「その状態では無理だ」
「でも、俺の他にGKはいないんです!」
「そうだ雷門のGKはお前しかいない。これからもな」
「だったら…!」

三国は円堂の言葉に悔しそうにするが、やはり自分しかいないという現実。ポジションで一人しかいないと言うのは時に厳しいモノだった。

「ホーリーロード優勝まで、まだまだ戦いは続く。
そのゴールを守る為に、今は無理をするな」
『(…あ、)』

何でだろうな。
今のは三国先輩に向けての言葉なのに、私の中に響いていた気がする。
足を壊すのが、怖い――…

「分かったな?」
「…はい」

三国は円堂の納得のいく説得に渋々頷くしかなかった。肩を落として悔しそうにする三国を見た円堂は次に天馬へと視線を移した。
天馬は三国の傍で腑に落ちなさそうな表情をしている。まるで三国の気持ちを理解するかのように。

「天馬、キーパーのユニフォームを着ろ」
「え…?」
「キーパー経験者はお前だけだ。頼んだぞ」

天馬は円堂の指示に戸惑いの表情を浮かべる。だが、何故自分を選んだ理由を聞いた瞬間、直ぐに立ち上がった。

「はい…」
「天馬ならやれる!頑張れ!!」

信助の言葉に、浜野、倉間、天城は頷いて見せる。
確かに天馬は自分の化身を目覚めさせる為、一度はキーパーになった。MFがGKを完璧に成し遂げられる筈がないが、状況が状況なだけにやらなければならない。

「そうだ、俺達も全力で守るからな!」
「はい」

天馬は他の仲間からの信頼の言葉を信じ、また力強く応えた。

「OK、よくやった」
「うス」
「何が良いもんか」

一方、計画通りに成し遂げた白恋中。白咲の言葉に石は雷門ベンチを見ながら楽しそうに答えた。それを聞いていた雪村達は石達を睨むように見やる。

「避けられた筈だぞ」
「命令だ。
“潰せ”ってな」
「何?!」

低く響く彼の言葉に雪村達は驚愕を顔に出した。

「フッ、フィフスのサッカーをやると言う事は、こういう事だ」
「「「「?!」」」」

白咲の自信に満ち溢れる顔に白恋の皆は驚くばかりだった。どうやら、彼等の様子を見る限りフィフスの事は詳しく知らされていないらしい。潰すという事はサッカーが出来ないような状態にする事を言う。
そこで雪村は先程の石の行動と悠那の様子を思い出した。石は確かにあの悠那という選手の足を思い切り踏んでいた筈。

「Σ!…もしかして、あの谷宮って子の足も…!」
「あの子は運が悪かったな〜
試合が始まる前に監督が誰かの足を潰して来いって言ったらしい。
そうして、石は適当な奴を標的にし、細工されたスパイクでその足を踏んだ」

その相手があの谷宮ちゃんだったって事。
と白咲は呆れながら言ってみせるが、どことなく楽しそうに見える限り罪悪感というものを完全に感じていない。
雪村は自分の眉間に皺が寄るのが分かった。三国の怪我すら酷そうなのに、悠那という選手はかなりの重傷を負っていたのだ。それなのに、その状態でサッカーをやっており、スライディングやら必殺タクティクスやらを決めていた。今思うと自分の背中がゾッと凍るような感覚して仕方ない。

「だけど、普通にプレイをしてる所を見て、あの子はスゴいと思ったよ?」

だからこそ監督と黒木は石に命令した。
“足を壊せ”と――…

「!?」

雪村はその言葉に更に目を見開く。そして、監督の方を見た。

「(フィフスセクターは、こんな事までやるのか…!)」

雪村が、本当に信じれば良かった相手を、知るのは後少し…

…………
………

雷門は急遽負傷した三国を下げて車田と交代させる。そして天馬をキーパーとして入れた。

「大丈夫、何とかなるさ。

…行きます!!」

ピ―――ッ!

と、長い笛と共に天馬はゴールからボールを蹴り上げる。そのボールは浜野に渡った。

「(形はどうでも良い、ゴールラインを割らせなければ良いんだ!気持ちで負けるな!)」

浜野から倉間にパスを出そうとした時、いきなり石が強引に走ってきてボールを奪いとった。

「どぉらぁぁああっ!!」

パワーだけではなく、素早さもあるらしい。霧野は石の迫力にも負けずに、自身の必殺技を出して止めようとする。

「“ザ・ミスト”!」

濃い霧が霧野の背後から現れ、徐々に石の周りを広がって行く。
だが…

「うらあ!!邪魔なんだよ!!」
「うわぁぁ!!」

濃い霧を石は強引に霧野ごと弾き飛ばした。しかし、突破した寸前に車田がスライディングで石からボールを引き離した。

「雷門のゴールは俺達が守る!」
「ふざけんな!アイツごとぶっ倒してやる!」
「(アイツ…?)」

車田の言葉に石は怒鳴り声で返した。だが、石の発言に剣城は疑問を感じた。
“アイツ”が三国なら少なくとも“アイツと同じように”ならまだ分かる。
しかし、今の発言は明らかに三国ではない。何故ならば三国は怪我をして既に倒れている。
じゃあ、一体誰を…?

剣城がそんな事を考えているも試合は進んでいく。雪村がボールを持ち込めば、今度は輝が雪村の前に立ちはだかった。

「行かせないぞお!」
「!」

いきなりの登場に雪村は隙を見せてしまう。輝はその一瞬を見逃さず、ボールを大きく蹴り上げた。

「何?!」
「俺が頂く!」

その先には先程三国を負傷させたであろう石が居た。
しかし輝は慌てる事は無かった。

「させんぜよ!」

錦が石の前に出てボールをキープし、そのまま駆け上がって行く。

「!、うがぁぁああっ!!」

石はボールを取られた悔しさと、上手くこちらに試合が運ばれないもどかしさで怒りに任せて声を上げていた。

「やったぁ!守りましたよ!」
「やるじゃねーかアイツ等!」
「かっこ良く撮れたっ」

雷門イレブン全員で必死のディフェンスをする。慣れていない天馬のキーパーを何とかサポートしている。皆は一丸となっているのだ。天馬をフォローし、天馬もまたゴールに迫っているボールを弾いていた。
今度は氷里のコーナーキック。氷里の蹴ったボールはゴールの前に飛ぶが、剣城が雪村以上に高く跳び、ヘディングでボールを遠ざける。
神童と狩屋のディフェンスを抜き、雪村はゴールに蹴る。天馬はそのボールを両手でかっしりと受け止めた。

「(守切るんだ!絶対に!)」
「くそっ!こんな素人キーパーに!」

雪村は本当に悔しそうに言った。素人とはいえ天馬は一応キーパーを経験した身。天馬もまた、飲み込みが早いのだろう。

「雪村、気付いてくれ。雷門のサッカーを…」

「オイ!ボールを寄越せ!」

石はドリブルをしている木瀧に追い付けばそう訴えてきた。

「待てよ!ここは一度状況を落ち着かせないと…!」
「ベンチを見てろよ」

パスを渋っていると次にくるのは石の言葉。木瀧が言われるままベンチに目を向けるれば、自分の監督と目が合った。

「石にボールを渡せえ!」

「…チッ、」
「それで良いんだよ!」

監督の指示に木瀧が渋々ボールを石に渡せば我が物のような顔でボールを蹴り始めた。

「入れさせないぞ!」

信助がヘディングでボールを弾く。しかしボールの勢いに押し負けてしまい、ボールが浮いた。その浮いたボールに雪村がすかさず飛び込んできた。

「はあ!」

そこに天馬もまた止めようと飛び付いて、ボールをしっかりと受け止めた。
天馬はしっかりとボールをキャッチすると、悔しそうにする雪村を一回見た。

「信助!大丈夫?」
「へっへへへー!平気だよー!」

信助は鼻の頭を小さく指で擦って得意げに笑って見せた。怪我もしておらず、気楽に笑ってみせる自分の友達を見た瞬間、自分に襲いかかっていた緊張が一気に解けた。

「うん」
「……」

そんな信助を見て、天馬はボールを抱えながら小さく頷いて見せた。
雪村はそんな二人を黙って見やる。

「どうだ!」
「こいつ等…」

雪村のパスをトラップした狩屋。白恋は一向に攻めきれずに焦りを感じていた。

「オラァッ!」

石のシュート。
そこへすかさず信助、霧野、悠那が立ち塞がった。だが、勢いが有りすぎたのか吹き飛んでしまう。
だが、威力を無くし零れ球を天馬は転びそうになりながらも必死にキャッチした。

「やった!」
『良かった…』

間一髪。悠那は膝を付きながら胸を撫で下ろす。だが、そんな様子が可笑しかったのか後ろに居た石がニヤニヤと口角を上げていた。

「ダセェ奴等だな!グハハハハハハ!!」
「笑うな!!」

『!』

ボールを間抜けながらも止めた悠那達を見て、指を指しながら豪快に笑う石。だがそれが許せなかったのか、それとも別の意味かは分からないが、雪村が石を怒鳴る。その言葉に悠那も思わず振り返った。

「そのダサい奴等から俺達はゴールを奪えないんだぞ」
「何だと!?」

雪村が石を睨みながらそう言えば石が反発しようとする。だが、白恋中の人達もまた石に負けじと睨み付けられ、石は思わず口ごもった。流石の石も、大勢に睨まれると怯むらしい。



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