「…何だよアイツ等、喧嘩してたんじゃなかったのかよ」

南沢と神童達の様子を横目に見ていた狩屋は少しつまらなさそうにそちらからそっと目を背ける。だが、そんな狩屋を霧野が呼んだ。

「狩屋、ありがとう信じてくれて」
「信じる?別に、信じていた訳じゃないですよ」

狩屋はそう言いながら霧野に目を背ける。しかしそんな狩屋のそんな態度には霧野はもう怒りが不思議と湧いてこなかった。むしろ微笑ましく感じてしまう。

「分かってる、お前はただ勝ちたかっただけだよな。でも俺には分かるんだ、
お前がサッカーが好きだって事が」
「!」

霧野のその言葉に、狩屋は少し驚いた表情をしたが、直ぐにまたニヒルを作って霧野に振り返った。

「いーんですか?そんな事言って?
……俺はシード。今度は何をするか分からないですよ?」

再び人を小馬鹿にするような態度。だが、その言葉にもまた霧野は怒りは沸き起こってはこなかった。

「お前はシードじゃない」

霧野の言い切った発言には流石の狩屋もまた少し目を開いていた。

「何でです?悠那や天馬君に言われたからですか?」
「…いや、それは関係無いさ」

霧野は狩屋の目を見る。
すると、狩屋は少し考えるように目を落とし、またニッと笑った。

「後悔しても知らないですよ」
「…!」

そう言い、狩屋は歩いて行く。霧野は少し目を見開き、静かに笑った。そんな二人のやり取りを見ていた円堂は満足そうに頷いた。

あとは、悠那だけ…

…………
………

ホーリーライナーに乗り、ジャージに着替えた雷門はこの会場まできたキャラバンで帰ろうと歩いていた。試合で疲れたものの、雷門の表情は明るい。もちろん、試合に勝てた事も含まれているが、何より南沢と和解出来た事が一番の喜びだった。

『(そういえば、結局話して貰えなかったな…)』

悠那にとっては実に腑に落ちない結果。逸仁が何故月山国光に居たのか、何故フィフスセクターを嫌っているのか。全てあの笑顔が自分自身に答えを聞かせまいと言われているみたいだ。隠されている。
やはり、人の事情なんてそう簡単に聞けないだろう。人には人なりの事情もある。それを無闇に聞くのも、今になっては気が引けてしまう。きっと試合前の自分は混乱しすぎたのだろう。もう、考えるのは止めよう――…

「っよ」

なのに、何故この人物は自分の目の前に再び現れたのだろうか。隣には無理矢理来させられたであろう南沢の姿まである。その二人の姿を見た瞬間、自分の中から呆れるような感情が湧いてくるのが分かった。
ほら、天馬達もビックリしている。

『どうしたんですか?』
「いや、悠那との約束を今言おうと思ってな」

っま、この状態だと公開処刑みたいになりかねないけど。と笑って言う逸仁。その言い草からして、これから爆弾発言をすると言っているみたいで、悠那どころか傍に居た南沢と天馬達もまた目を見開く。緊張感が直ぐにきて、ゴクリと息を飲む。

「まず一つ。そこのキャプテンさんや監督さんや剣城やらの人達は感づいていると思うが…
俺ァシードだ」
「「「!?」」」
『え…っ』

人差し指を立てて爽やかそうな笑みを浮かべて何を言うのかと耳を澄ませていれば、まさかの告白。彼が笑みな反面、雷門一同は口を小さく開けて呆然とする。それどころか、傍に居た南沢もまた驚くような表情をしている。その様子からして、彼は月山国光の人達にも言ってなかったという事が分かった。
悠那もどこかそう感じていた。彼は実はシードなんじゃないか、と。化身を扱えたり、誰よりも俊敏さを持っている。だけど、信じたくなくて試合中は考えないようにしていた。
だけど、

『どうして…』
「フィフスセクターは今でも嫌いだぜ?だけど、俺にはやらなきゃいけない事があってな…
まあ、訳あってまだ事情は話せないけど」

そんなとこかな。と急に笑みを浮かべるのを止めてこちらを見渡す逸仁。何を思っての表情なのか、今まで見てきた中でこんな表情をした逸仁は初めて見る。だからこそ、何となく違和感があって疑えなくなってしまう。今までの逸仁はどことなく“嘘っぽく”見えてしまっていた為、気のせいか彼の今の表情は寂しそうに見えた。

逸仁の言うやらなきゃいけない事。それは気になる所だが、「まだ言えない状態」な為、彼の口からちゃんとした理由を聞く為、自分はいつまでも待とうと思えた。
その時だった。一人だけ納得をしてなさそうな剣城は逸仁の方をただ黙って見やる。そして、静かに口を開いた。

「…俺は前まではシードでしたけど…あんたの事は知らなかった…」
「俺ァ剣城がシードだって事は知ってた」

いい質問したなあ、お前。と逸仁はくっくっと喉を鳴らして笑い出す。先程までのシリアスな雰囲気はどこへやら。敵ではない事は話しを聞いて何となく分かった。だがしかし、今の言葉を聞いて驚いてしまったのは事実。十分に笑った逸仁は、次にジャージのポケットから何やら四角い物を取り出した。
それは悠那にとってかなり見覚えのあるの物で、とても気分を不愉快にさせる物――…

「ライセンスカード。
結構便利なんだぜ、これ。っま、これでお前に俺の存在を隠してもらうよう頼んだんだよ」
「何で俺だけ…」
「その方が接触出来やすいだろ?」
「接触…?」

どうやら逸仁はライセンスカードを利用して、剣城だけには正体を明かさなかった。接触する為に彼は存在を隠し、シードという事も隠していた。
それは何故なのか、それは剣城の不機嫌そうな表情を見てなのか、逸仁は「悪い悪い」と付け足した。

「ほら、お前兄貴居るだろ?病院にお前がいつも優一さんに会っての見てさあ…
…なんか、気が引けたっていうか」
「(兄さんを知ってたのか…)…同情か?」
「そう聞こえたなら謝るよ。
俺にも下に妹が居たんだけどさ…分かるぜ?兄貴を守りたいってのは」

そう笑って見せる逸仁。言っている事が分からない。南沢も悠那も天馬達も、そして剣城も。だが、自分は同情をされたのではなく逸仁に自分と同じ気持ちになっていた事は分かった。
よくは分からないが、彼はちゃんと訳があってシードになってフィフスセクターの役割を果たしているに違いない。彼の目を、信じよう。

「あんたも、妹を…?」
「今ぐらいだと…中一だな」
「じゃあ、俺達と同い年だね!」
「うん!」

中一という単語を聞いた瞬間に盛り上がる天馬と信助。サッカーは出来るのか、どんな子なのか、など。普通の子供が考えるような事を話していた。そして、剣城もまた逸仁に共感を得る物があった。自分の兄弟は守りたいという意志。立場は逆とはいえ自分達は似ているのかもしれない。

「っと、そろそろ戻らねえとアイツ等にまた怒鳴られるな」
「…そうだな」

思い出したように言う逸仁に、南沢は何故だか申し訳なさそうな声色をしながら言ってきた。それがどういう意味なのか、天馬達にはよく分からなかったが、神童や逸仁にはちゃんと分かっていた。
逸仁は恐らく月山国光のチームメイト達に嫌われていた筈。だが、今はどうだろうか?逸仁を見ていた彼等の目にはもう敵意というより仲間という意味が込められている。それと同時に今までの彼に対する態度に申し訳なさが溢れていた。南沢もその一人。今日の試合で本当のサッカーを知った瞬間に、逸仁に感謝していた。一人じゃない、仲間が居てくれる事を。

「あ、そうだ」

数歩歩いた先で、逸仁は思い出したように小さく声を上げる。どうしたのだろうか、と逸仁の方を見ていれば逸仁が踵を返して悠那に向かって近付いてくる。
そして、次の瞬間…

「また会ったら、今度はまともな所でまともなサッカーしような。悠那」
『(あ…れ…?)』

不意に頭にのし掛かるような重さ。だけど重いっていうほど重くはなくて、今までにも感じた事のある感覚。ふと顔を上げれば笑みを浮かばせた逸仁の顔。鷲掴みされるような逸仁の手が次第に動き出しワシャワシャと自分の髪が乱れていく。
ちゃんとした笑みなのに、悠那には何故か違和感を覚えさせた。嘘吐きの笑みでもなく、嘲笑いの笑みでもない。何となく、違和感。

『(何か…知ってるぞ)』

懐かしさを感じるような、そんな感覚。だけど、これではない。自分の知っている笑みは、こう太陽みたいに明るい笑みじゃなくて、優しい笑み。木々や木の葉の間から差し込むような、優しい笑み…
あれ?“知っている笑み”って何だっけ?
いや、直ぐに考えるのは止めよう。この考え過ぎる性格の所為で何度か知恵熱を出した事があるじゃないか。きっとまた“気のせい”に違いない。

『はい!今度も負けませんよ!』
「俺達こそ、今度こそ勝つからなっ」

二人のやり取りを黙って見ていた一同。
そして、雷門一同と逸仁達はお互いに背中を向けて歩き始めた。


…………
………


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