『“ウーラノス”!!』
「“ギガンティックボム”!!」

兵頭の化身と悠那の化身がぶつかり合った。

「ユナ!」
『いっけぇ―――っ!!』

悠那の足に力が篭もりだし、兵頭の化身は多少押され気味になっている。男性の姿はいつの間にか消えており、炎の氷がボールごと兵頭の化身へと向かっていった。

「〜〜っ!?

ぐぁぁああっ!!」
「「!」」
「ヒュー…」

ピ―――ッ!!

悠那の決めたシュート。逸仁の二度目の口笛の後から遅れてホイッスルが高らかと鳴り響いた。
決まったのだ。悠那のシュートで雷門は月山国光に同点へと追い付いた。それを合図にシュウゥッと、役目を終えたようにジョットは実体化から霧散して悠那の体内へと戻っていく。

『ハァッ、ハァッ……』

息切れをしながらジッと月山国光のゴールを見て、後ろでこちらを見て笑みを浮かべているであろう逸仁を見た。
想像通り、という事はこの事を言うのか。こちらを見ていた逸仁の表情は怖い程に綺麗な笑みを浮かべているのだ。

『ハァ…ハァ…』

息切れは先程より楽になって来たのか、激しく肩を上下に揺らしてはいない。それは十分に酸素を吸っていたからだろうか、それとも逸仁の笑みを見てからだろうか。どちらにせよあまり苦しくない。いつもは化身を出しただけでこんな息切れはしないが、今回はなんとなく苦しく感じてしまった。化身シュートを放った瞬間、自分に何か熱く重いものがのしかかってきたみたいに苦しかった。
もう一度、大きく深呼吸をして息を整えて再び電光掲示板を見上げた。

「やったあ!」

ベンチに居る葵と春奈は両手を取り合って喜んでいた。

「やっりぃ!ナイス悠那ー!!」
「…?」

浜野もまた喜び飛び上がっている中、傍に居た倉間は頭の上に“?”を浮かべて首を傾げていた。

「んだよ倉間〜!もっと喜べよ!」
「嬉しい、けどよ…?」
「……」

どうやら先程のモノは気付いた者と気付かなかった者が居たらしい。

「やったあ!悠那!」
『うわっ、信助…』

左側からの軽い衝撃が来た。かと思えば信助が悠那の肩近くに飛び付いて来ていた。天馬と神童、霧野もその後に続き、悠那に走り寄って来る。

「やったねユナ!」
『…うんっ』

笑顔で笑いかけて来た天馬に悠那も、若干疲れながらも笑顔で返した。

「…さっきの」

あれは明らかに悠那の化身とダブったのはもう一つの化身…?
いや、でもまさか…一人一体しか持てない化身を体の中にニ体も…
逸仁が暫くそう考えていると、再び悠那と目が合った。

「…侮れねえな」

そう呟き、少しだけ笑ってみせた。ただ、その笑顔はやはり何故だか恐怖を呼ぶモノだった。

『!』
「ユナ?」
「どうしたの?」

その笑顔を見た悠那は目を見開かせ、肩を少し跳ねさせた。それに気付いた天馬と信助、神童と霧野は吊られて悠那を見た。

『…何でもないよっ』

だがしかし、皆に心配かけまいとそう笑って見せ、自分のポジションへと戻っていった。そんな悠那を見て、天馬達は疑問に思っていた。

「よし!これで振り出しに戻ったぜ!」

『マサキ』
「…」

戻り際に、狩屋がこちらを見ているのに気付き、声を掛けてみる。すると狩屋は少しだけ目を見開かせ、余所を見て頭を掻きだした。

『ありがとう』
「!」

悠那はそれだけ言い、それ以上何も言わずにそのままポジションへと戻って行った。お礼を言われた狩屋は目を見開かせて、悠那の背中を見るなり拍子抜けたように口を小さく開ける。

「兵頭と逸仁の化身が、破られた…!?」

南沢は別の意味で驚いていた。あの兵頭や逸仁の化身が破られる事など自分が知る限り無かったのだ。

「見たド、南沢!これが俺達のサッカーだド!」

先程まで仲違いをしていた天城の解れないいつの間にか天城の何時ものような自信満々な笑顔に南沢は何も返せずにいた。

「っ…」

何が“俺達のサッカー”だ。南沢は右側の前髪を手でかきあげた。

「(俺は認めない…!お前等のサッカーなど!!)」

それは雷門の誰も知らない、南沢の内の激情だった…

「……」

…………
………

ホーリーロード全国大会一回戦、雷門中対月山国光は、谷宮の得点で2対2の同点に追い付いた。3点目を先に入れるのは雷門中か、それとも月山国光か。試合はそんな緊迫した状態で次のホイッスルを待った。

ピ―――ッ!!

ホイッスルと共に月山国光からのボールで試合は再開される。柴田がドリブルでボールを運んでいった。

「柴田!」
《柴田!南沢へパスかー!?》

南沢は柴田に声を掛けるが、柴田がパスを出す前に倉間が柴田からボールを奪い去った。

「!」
「甘いんだよ!」
「……」

いや、今のは甘いとか甘くないとかの問題ではない。直ぐに理解したのか逸仁は柴田の方を見た。

「倉間!」
「月島!」

倉間の隣へと浜野が追い付く。南沢は素早く指示を出すが、月島が追い付く前に付く前に倉間のパスが浜野に通った。今度は浜野がボールをキープし始める。

「!、チィッ…」

それを見た南沢は自分も戻り出した。

「上がれ!浜野!」

神童の指示に浜野はそのままボールを持ち運んで行く。一文字が浜野に向かって走って行くが、あっさりと簡単に抜かれてしまった。

「!?(あの程度のドリブルに…!)」
「有り得ぬ…我等の力が通じぬなど…」
「…?」
「まだ気付かないのかよ南沢」
「…逸仁」

月島の言葉に南沢は疑問を感じ、月島を見る。そんな南沢に逸仁が近付いて来た。

「あんたと俺以外、タクティクスサイクルと兵頭の化身が破られてしまった事で…」

――みんな、動揺してんだよ

その逸仁の言葉に南沢はハッとしてフィールドに立っている選手を改めて見始めた。気のせいか、戦力を全く感じなかった。

「管理サッカーの脆さがこんな形で出るとはな…」
「脆さ…?」
「あぁ、確かに月山国光は強いチームだ。だが、」

――フィフスセクターの管理下の試合ばかりでは本当の意味で逆境に立たされる事は無かったんだ。

「それが逆境に立たされた…!」
「それで、月山国光の動きが鈍くなったんですね…」

逆境。
今まで勝ち進んで来た月山国光にとって、それは痛いプレッシャーだった。フィフスセクターに入って力を手に入れた…だが、問題はその後だ。

「チームの真価が問われるのは、逆境に立たされた時…」

鬼道の言葉に一乃達の表情が明るくなった。

「勝てますよね…!この試合!」
「あぁ!このままならな…!」
「……」

部員達が嬉しそうにしている中、円堂は黙ってフィールドを見つめた。月島達の表情を見た南沢は心の中で決意した。

「(駄目だ、コイツ等に頼ってたんじゃ勝てる試合も勝てやしない…)」

唯一まだしっかりしているであろう壱片。だが、コイツは革命を起こす雷門側の奴らを応援する奴だ…
期待は出来ない。

「浜野!」
「それ!」
「よし!完全にフリーだ!」

神童から浜野へと高いパスが渡ろうとした時だった。

「っ!!」

それを見計らっていた南沢はボールと同じくらいに高く跳んだ。

「「!?」」
《南沢がカットしたー!!》

神童へと繋がる筈のパスは南沢に寄って阻まれた。ボールを奪った南沢は一人で上がって行く。

「(この試合、俺一人で戦ってやる!)」

「はあ…」

分かってねえなァ…南沢

「天馬!倉間!」

神童は直ぐよう指示を出していく。

「(止められるもんなら止めてみろ!)」
「「!?」」

ドリブルのスピードを上げて二人の間を一気に抜き去った。

「行かせないド!“ビバ!万里の長城”!!」

上がってくる南沢の目の前に天城が立ちはだかり、必殺技で南沢からボールを奪い返した。転がったボールを信助がキープする。

「行かせるか!!」

南沢は直ぐに立ち上がり信助を追った。南沢は強引にもスライディングでボールを奪い返した。
その後も再び雷門にボールが渡るも、南沢はスライディング、ヘディングと必死にボールに食らいついて行った。霧野と速水の二対一でも負けじとボールをキープし続ける。

「(この試合、負ける訳には行かないんだ!ここで負けたら、雷門を辞めた意味が…!)」

たった一人でも、絶対に負けない…と

『なんだ…』

なんだ、なんだ…!
南沢先輩だって勝ちたいって気持ちあるんじゃん!

「あれが、あのクールな南沢さんのプレイ…?」

今まで見て来た一年も勿論だが、二年と三年には驚くような光景だった。

「南沢…」
「……」

――後は…仲間を信じる事、だな…

パシッ!

「!!」

南沢は隙を見せてしまったのか霧野にボールを奪われてしまった。

「悠那!」
『はい!』

霧野は少しだけ上がり、悠那にパスを出す。ボールを貰った悠那はそのまま上がって行った。

「…っ、」

――味方はまだ動かない…
だったら…

「すまねえな…悠那

“シャドークロー”!!」

足を思い切り蹴り振り、空間を裂く。爪で引っ掻いたように空間は黒く裂け、それは悠那の足元にあったボールへと一直線に向かっていく。

『うわあ!』
「ユナ!!」
「悠那!」

爪は悠那に当たり、ボールをそのまま奪い去っていく。あまりの威力に、悠那が吹き飛ばされていれば、ボールはいつの間にか逸仁の足元にあった。

「南沢ー、俺がいつ月山国光の敵になったって言った?」
「!…逸仁、」
『…っ、』

逸仁は南沢の驚いた顔を見て、フッ笑って見せて南沢に今奪ったままのボールを渡そうとする。だがしかし、それを霧野がカットした。

「俺も戦うぜ。当然だろうが」
「逸仁…!」

霧野が長船と金平の間を走り抜けた。

「…長船ぇ!」
「おぉう!」

それを見たディフェンダーの金平と長船は声を合わせて霧野に向かって同時に走った。二人に挟まれた霧野。長船と金平は足を力強く踏み込み、その巨体を加速させた。

「「“ツインミキサー”!!」」

左右から縦横無尽に繰り出される巨体なチャージに霧野はミキサーの如く吹き飛ばされてしまった。

「うわぁぁああっ!!」
「「!」」
「…!」

長船がボールに片足を乗せた。

「南沢!我等も共に戦うぞ!」
「お主のプレーで目が覚めたわ!」

長船と金平は南沢を追い抜く際にそう笑いながら言った。

「長船、金平…」
「皆の者!この試合、必ず勝つ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
「皆…」

流れが、変わりだした…

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