一方フィールドでは、ボールがフィールドの外に出てしまう。そこで審判がホイッスルを鳴り響かせて試合を一時的に止まらせた。

「行け!霧野!」
「はい!」

円堂の指示に霧野は返事をし、妙な緊張感を抱きながらフィールドに入る。霧野の守るポジションはDF。だから天城や信助に目が自然といき、再び気まずさが自分に襲う。だがまず、最初に目に入ってきたのは自分が今まで疑ってきたであろう狩屋。その狩屋へ自分は伝えなきゃいけない事があるのだ。DFの要として、一人の選手として。この試合に勝つ為に。狩屋がこの試合に勝つ鍵になってくるのだ。

「狩屋!」

だが霧野のそんな心情を知ってか知らずか、当の本人は靴を地面に叩かせて調子を直していた。呼びかけても反応せずにそんな事をしているという事は霧野の話しを最初から聞く気はないという事に違いない。
だがしかし、聞く気はないとはいえ、こちらの声は狩屋の耳に届くのは間違いない。霧野は狩屋からの返答がなくとも気にはしなく、そのまま言葉を続けた。

「俺の指示通りに動くんだ」
「俺が先輩の指示を受けると思いますか?」

無視、というのはさすがになかった。やはり狩屋の中ではまだ霧野を先輩として扱われているらしい。だがしかし、その返答はいつもと変わらずに相手を嘲笑うかのような言いぐさ。
彼がこういうと言うくらいだ、指示は聞かないつもりだろう。その返答はもちろん今まで嫌な事をされてきた霧野だからこそ分かっていた事。だがしかし、霧野の中にはその狩屋に対してかなりの余裕があった。苛立ちもない。だから、霧野は再び言葉を続けた。

「受けるさ、お前が本当に勝ちたいと思っているならな。
お前にしか出来ない事だから俺は信じる。お前は必ずあのタクティクスを破る!」

そんな強い霧野の口調に狩屋は表情を崩さずニィッと笑って見せ、霧野を見やった。

「へえ、信じるんだ…すげぇや」

霧野を疑う目。それは以前まで霧野が狩屋を見る時にしていた目だった。ただし、狩屋の目は霧野を元々信ずにその状況を楽しんでいるようにも見える。
再び、霧野と狩屋の間に罅が入りそうになった時、二人の間に二つの人物が近付いてきた。

「狩屋!頼んだよ!」
「そうだ。頼りにしてるからな、お前のサッカーを!」

天馬と神童。
二人はいつもと変わらずの狩屋を信じている目。自分や霧野のする疑いの目では決してなかった。
純粋に自分自身を信じてくれている目。

「…!」

トンッ

「ぁ…悠那」
『勝とうね』
「!」

二人の目を見て内心戸惑っていれば、不意に背中を軽く叩かれる狩屋。ゆっくりと振り向いてみれば、そこにはふんわりと笑ってみせる悠那の姿。
そこで、狩屋は改めて自分の置かれた状況に目を見開かせた。

「(何だよ…勝手にプレッシャーかけてんじゃねーよ…)」

それでも断れないのはきっと、自分もまた心から信じられているからなのだろうか…

「ここで11人に戻して来たか…」
「警戒した方が良い、霧野の復帰には絶対に何かある」

一方、その様子を見ていた月山国光。
霧野がフィールドに入ってきた事で南沢は何かあるのを気付いたらしく、警戒の目をさせて盛り上がる雷門を睨み付けた。

ピ―――ッ!!

倉間からのスローインで試合再開。倉間は神童に回し、神童は速水に出す。だがしかし、月島にあっさりと奪われてしまった。

「“タクティクスサイクル”!!」

再び発動されたタクティクス。菱形から一列になる時だった。

「今だ狩屋!一列になる前に8番に突っ込め!」

狩屋は霧野の言葉に半ばヤケクソになりながらも冷静に一列になりかけの場所へ突っ込んで行く。素早い身のこなしに一文字、柴田、月島と順に抜かして行き、一番最後の逸仁にまであっという間に辿り着いた。

「!…渡さねえよ!」

逸仁はニヤッと笑い、南沢にパスを出す。
だが、させない!!と南沢にボールが回る前に霧野がセーブ。セーブされたボールを狩屋は受け取った。

「ほらよ!これで良いんだろ!」

体制を崩しながらも狩屋は霧野にボールを繋いでいく。どうやら神童や天馬、そして悠那の期待に答える為、試合に勝ちたいが為に動いた狩屋。そして何より自分の事を信じてくれたのが嬉しかったのだ。

「よし!悠那!」
『!、はい!』

霧野からのパス。悠那はそれを胸でボールを受け取り、上がって行った。

《タクティクスサイクルを打ち破ったあ!狩屋と霧野の見事な連携!》
「何という事だ…!」

月山国光陣のベンチでは驚愕の一色。
そんなのをよそに、悠那達雷門は上がっていく。

「よし、良いぞ!」
「させないぜ!!」

いつの間に上がって来たのか、悠那の目の前に逸仁が居た。顔を見合わせた瞬間、お互いに再びニヤッと笑い合った。

「“大森聖フォレスタ”!!」
『!』

逸仁は再びあの化身を繰り出してくる。悠那はそれを見て、ドリブルをするのを一時的に止めた。

「お前が化身使いだって事は知ってるぜ。出せよ」
『…そうですね』

悠那はそこまで言い、深呼吸をする。そして、意を決したのか両手を思いっ切り両腕を振り落とした。

『はぁぁああっ!!

“大空聖チエロ”!!』

そう叫ぶと同時に目を隠す仮面を付けた相変わらず微笑んでいる女性の化身が現れる。

『行きます!』
「来い!」

悠那はそう言って、逸仁の言葉と共にお互いに走り出した。

『「はぁぁああっ!!」』

お互いの化身がぶつかり合い。お互い引きを取らなかった。

――ドクンッ…

「…!」
『はぁぁああっ!!』

ぶつかり合いの時、逸仁は何かを感じたのか目の前にいる悠那を見た。悠那は気付いていなかったのか、そのまま力を押して、逸仁の化身を吹き飛ばした。

「(さっきの…)」
『“ウーラノス”!!』

逸仁を抜いた悠那はそのままシュートを打った。

「うおぉぉおっ!!

“巨神ギガンテス”!!」

兵頭も化身を繰り出し、シュートを止めようとした。

「“ギガンティックボム”!!」

ガンッとウーラノスを両拳に挟み出した。

『はぁぁああっ!!』
「うおぉぉおっ!!」

悠那は振り切れない足を押し返されまいと、弾き飛ばされまいと力を込める。兵頭はそのままボールを入れさせまいと腕に更に力を込めた。

『いっけぇ―――っ!!』

「…!」
「…!?」

悠那が力強く叫ぶと同時に剣城と逸仁には見えていた。大空聖ジョットの背後に、一瞬、一瞬だが確かに…

「あれは…?」

紅蓮の炎を連想させるような面構えをした男性の姿。それはベンチに居た円堂にもまた見えた。“ウーラノス”の威力が上がって来たのは気のせいではないだろう。


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