帝国戦の終了後、辺りが夕日で赤く染まり始めた頃に、優一の病室へ一人の少年が来ていた。
ここへ来るのは今日で二度目。中に居る優一に入る許可が再び得られたのは、やはり今日の試合があってからこそだ。

「勝ったな、見てたよ。……スゴいシュートだったぞ」
「…そうか」

その少年、剣城京介。
まるで試合に行く前の事は気にしていないような優一の言葉に、返事をする剣城だが、何故か顔は俯いたままだった。
やはり、京介には優一に対してどことなく気まずさを感じているのだろう。そんな京介を察したのか、優一はなるべく優しく彼に微笑みかけた。

「次は決勝だな、頑張れよ」

優一が微笑んでそう言うが、京介はやはり複雑そうな顔をする。
もちろん、優一に対する気まずさもあるが、一番の問題は優一の足。自分が雷門を勝たせたから手術費が払えなくなってしまった。
優一の足は遠回りして治す事になってしまった。その点では悔いは無いものの、どこか胸の中で引っかかっていた。

「…あんまり期待するなよな」

だが、それを押し殺し京介は優一に言った。もし、そんな謝罪を言ってみれば優一からまた説教を食らうだろう。だからこそ、京介は優一の期待に答えなければならない。
そんな京介を見た優一はクスリと笑った。

「それと、天馬君だっけ?彼も良い選手だな。気を抜いたらお前、ポジション取られるぞ?」

悪戯をする子供のように、少しからかいながら言う優一に京介は思わず苦笑いを零した。

…………
………

『壱片逸仁さん…』

不思議な人だったな。
いきなり話しかけられた時はどうしようかと思ったが、見た目によらずそんなに悪い人では無かった。それにフィフスセクターの存在も知っていて反対している。
少しだけ語る時は怖かったが、それでも雷門を応援してくれた事は事実。初めて他校の仲間(?)を見つけられた気がした。
いつまで入院しているんだろう。もう足の怪我は治っているものだからもう近いんだろう。
そう思った時だった。
不意に右側に誰かの影が悠那の顔を覆った。それに気付いて、右側へ顔を向かせればそこには自分の幼馴染である剣城。

「何してんだお前…」
『ハロー、何って河川敷で夕日を見てたんだよ』

たそがれてたのさっ!と悠那が付け足して言えば、彼に何言ってんだコイツという顔をされた。
あまりに反応が薄かった、いや予想はしていたが自分の言動に恥ずかしさが芽生えてしまい、悠那は剣城から視線を外して、目の前を流れる川へと移した。
川は夕日の所為で茜色へと染まっており、昼頃見る景色より少し違って見えた。

『京介こそ、こんな所で何してんの?』
「別に、何だって良いだろ」
『病院、行って来たんだ』
「…!」

はぐらかそうとする事は予想通り。だが、悠那は隣から匂って来た臭いを嗅いだ瞬間、彼はさっきまでそこに居たと確信出来た。
そんな事を聞けば、剣城は図星を付かれたような顔を悠那に向けてくる。病院の匂いは少しだけ苦手だが、最近ではもう慣れ始めていた。
確か、剣城兄弟は喧嘩をしていた筈。とは言っても京介は何も言っていないんだろう。

『仲直りしたかい?』
「……」
『っま、いいんだけど』

素直になりなよ京介ー、とふざけた調子で言えば剣城は「うるせぇ」と即座に呟いた。

「剣城ー!!ユナー!!」

と、そこに聞き慣れた声が二人の空間へと入って来た。聞こえて来た方へ目線をやれば、そこにはサスケを連れて走ってくるジャージ姿の天馬が。恐らく散歩だろう、サスケは二人の前まで来ると、直ぐに俯せてしまった。
お散歩タイムは少しの休憩になった。そんなサスケを見て苦笑していれば、天馬が腰に手を当ててムッとした表情をさせて悠那を見てきた。

「ユナ、一回帰って来ないと秋姉が心配するよ?」
『ごめんごめん』

お母さんみたいな言い方で天馬が言えば、悠那は苦笑しながらもサスケへと手を伸ばして触り出した。
手触りは初めてサスケを触った時と変わらない毛並みをしている。変わったのは年だろう、昔と比べればかなりおじさんみたいな顔付きになった気がする。うむ、犬の成長は早い。

「二人共、何話してたの…?」
「…何でも良いだろ、」
「(カチーンッ)」

撫でられるサスケを見てから天馬が剣城の方を向き、そう問いかけるが剣城は素っ気なく返してきた。
そんな彼を見て天馬は少しだけイラッと来ながらも、平然を保った。

「お兄さんのトコ行って来たの?」
「あぁ…」
『私もさっき行ってたの』

悠那の発言に二人は驚いたような顔をしてきたが、会えなかったけどね、と付け足せば剣城は納得するように表情を戻した。会っていたら優一から自分にそういう報告があってもおかしくない。だが、聞いていない以上会っていない事が分かる。
再びサスケに撫でるのを再開すれば、それが気持ち良かったのか、腹を見せてきた。こういう所も昔から変わっていない。

「今日はありがとう、帝国に勝てたのはやっぱりお前が来たからだって思ってる」

思い出したように、天馬は改めて今日の試合の事でお礼をすれば、剣城は照れる訳もなく、フンッと黙ったまま二人に背を向けて去って行ってしまった。
それを見送りながら残された悠那と天馬はお互い顔を見合わせたあと、苦笑をしあった。

『素直じゃないなあ、嬉しい癖にさ…っね、サスケ』
「ワフッ」

視線をサスケに戻して腹を撫でながら言えば、返事をするかのようにサスケは鳴いた。
十分に撫でた後、悠那は傍に置いた自分の鞄を持ち上げて立ち上がった。

『っさ、帰ろっか』
「そうだね」

悠那がお腹を撫でるのを止めれば察したのかサスケはお腹を見せるのを止めてゆっくりと体を起こした。それを見た二人は再び笑いあって、一緒に木枯らし荘へと帰ろうとした。
歩き始めた悠那に続いて歩こうとした天馬だったが、一歩踏み出した所で止まってしまった。
どうしたのだろう、と悠那が天馬に振り返れば、笑顔でこちらを見ている天馬と目があった。すると、天馬はこちらに手を伸ばしてきた。

「鞄持つよ」
『え、いいよ、サスケ連れてるし』
「体力作りだと思ってやれば何とかなるさっ」
『…じゃあ、お願いしよっかな、』

悠那は天馬の言葉に甘え、鞄を渡せば天馬は軽々と持ち、サスケと共に歩き出した。
悠那の傍まで来た天馬はそこで立ち止まって、改めて悠那を見た。

「行こ、ユナっ」
『!…うん、』

こちらを見た天馬の顔が、夕日に照らされて不覚にも格好良く見えてしまった。私は何だかそれが悔しくて意地悪っぽく言った。

『先に言ってるよー!』
「ええ?!ち、ちょっと待ってよー!!」

一人だけ走って行こうとした悠那だったが、一番先に木枯らし荘に着いたのはまさかのサスケだった。

…………
………


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