龍崎から貰ったボールで御門はドリブルで上がって来ていた。十分に上がった所で飛鳥寺へとパスを回し、それを見かねた浜野が奪いに行くが簡単に交わされてしまった。

「はえぇっ!」
「このっ…!!」

霧野もまたディフェンスに行くが、頭上にボールを上げられてしまい、浜野と同じように交わされてしまった。霧野を交わした飛鳥寺は佐々鬼にボールが渡し、佐々鬼もまたディフェンスに来た車田と天城を軽やかに抜かして行った。

「こんなディフェンスで俺達が止められると思っているのか!?」
「これがオペレーション“α1”!!本気になった帝国の攻撃だ!!」

佐々鬼が御門へとボールを渡し、御門は今まで手加減してやった、と言うように笑みを浮かべていた。そんな彼に信助は怯まず、走り出しボールを止めに入った。今になって緊張が解けた信助の相手への積極的なディフェンス。これ程頼もしい事は無い。
だが、そんな信助の意気は次の御門の行動により、遮られてしまった。

ピュゥウッ!!

『(あの指笛…)』

その時、御門がドリブルを止めて指笛を吹いた。悠那はそれに聞き覚えがあったのか、彼女の脳裏には数々見てきた指笛から始まる必殺技達。小さい頃は、そこから現れる彼等が可愛くて、よくはしゃいだものだ
。だが、今の状況によりそれは悪魔みたく思えてしまい、冷や汗が垂れてきた。そして、吹いた瞬間その場から七匹分の色を持ったペンギンがボールに一気に集まり出て来た。そこから絵の具のように溢れ出てくる色達。技自体見た事は無いが、それでもペンギンには見覚えがあった。

「“皇帝ペンギン7(セブン)”!!」

御門から放たれた必殺技は、虹と同じ七色のペンギンが高速で飛び交い、ボールに強力無比の力を与え、ミサイルのような勢いで信助に向かって飛んで来ていた。

「信助!!」
「うわあっ!!」
『うあぁぁっ!!』
「信助!!ユナ!!」

方向先はゴールだが、向かって行った先は信助。それをいち早く反応出来た悠那はギリギリで信助を横から押して巻き込まれるのを防ぐが、それは虚しく悠那が代わりに巻き込まれてしまった。

「“バーニングキャッチ”!!」

彼の必殺技に三国は自身の必殺技で対抗させるが、数秒地面に押し付けた所で、いとも簡単に“皇帝ペンギン7(セブン)”は三国の必殺技を破り、雷門のゴールに入ってしまった。

ピィ―――ッ!!

長いホイッスルと共に、電光掲示板には帝国側に1点と追加されてしまった。

『先制された…』
「ごめんね、悠那…僕の所為で…」
『大丈夫だよ。それよりさ、空に向かって跳んだ感想は?』
「…!」

悠那は点を取られた事より信助の必殺技についての方が余程印象があったのか、不安にさせないために笑みを浮かべて聞いてきた。そんな悠那の言葉に信助は驚くものの、少し考え始めた。そして、次には信助も照れたような恥ずかしそうにしながら、こちらを振り返ってきて笑みを悠那と同じように浮かべてきた。
白い歯を覗かせて見せた笑みは、本当に先程までの信助とは思えない程の輝きで満ち溢れていた。

「すっごく気持ち良かった!!」
『そっか!』

信助が笑顔でそう言ったのを見た悠那もまた、ニカッと笑いながら返事を返した。ぎこちなかったあのジャンプより、練習していたジャンプより、この試合でジャンプした時の方が、信助は高く飛んでいた。
この笑顔もまた、必殺技が完成して喜んでいた時と同じくらいに見えて、こちらも負けられないと言わんばかりに気合いが入った。タクティクスは相変わらずだが、それでも頑張ろうとこの時思えた。

「…アイツ、笑ってる…」
「自分達が押されてるというのに…」

そんな二人の様子を逸見、雅野、御門は見て少し驚いた様子で言葉を口にしていた。確かに自分達は一点入れた、と確認するように電光掲示板を見てみる。点数はやはり、こちら帝国が先制している。あの二人以外の雷門だってかなり困惑の表情を浮かばせている。
なのに、何故あの二人は笑えているのか、不明だった。

「監督から指示があった以上、雷門を潰していくだけさ」

あの二人が笑っていても、状況はこちらのものだ。笑っているのも今の内だ、と御門は怪しく笑い、ベンチに戻った。

「(鬼道…これは…)」

円堂は帝国ベンチに座っている鬼道を見た。視線に気付いていたのか、鬼道は口角を上げた。

「(円堂、これが帝国のサッカーだ)」

「化身だけじゃなく、あんな強力な必殺シュートまで…」
「こっちは“アルティメットサンダー”も未完成だド…」
「こんなの勝てっこありません…」
「くっ…」

フィフスセクターの下に居るという情報は本当だったらしい。タクティクスを成功させる事が出来なかった倉間は悔しそうに顔をしかめた。
相手は体力やスピードが自分達より上、化身を使える人も居て、強力な必殺技を持つ人も居る。
対してこちらはタクティクスを完成出来ておらず、神童も化身を扱えるのか分からない。皆の表情は険しく、どうしたものか、と悩んでいた。

『天馬』
「…え?」
『空、綺麗だね』
「…ユナ?」

急に呼ばれたかと思ったら、天馬は悠那の言葉に意味が分からない、という顔をしながら悠那を見た。悠那を見てみれば、彼女はこちらを向いてはおらずただ無表情で自分の真上を見ていた。それを近くで聞いていた先輩達も疑問符を浮かばせていた。
こんな状況に、何故彼女は呑気に空など拝んでいるのだろう。
すると、悠那はそれを察したかのように空を見上げるのを止めて、天馬の方へと向いてきた。

『この試合に勝ったら、今よりもっと綺麗に見えるかな』
「……」

その問いには誰も答えず、黙って空を見上げた。

空は、不思議だ。
見てるだけで心のモヤモヤを消してくれる。今よりもっと綺麗な空を拝む為、本当のサッカーを取り戻す為、この状況は必ず打ち破ってみせるよ、

有人兄さん。
私達は絶対負けない。


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