暗殺一家によろしく
- ナノ -
私の旦那が究極のモテ男だった話する?




へーい、バンビーナ!たまにはチャラい挨拶でこんにちは!ユキノだよっ☆大分前になるけどさ、松●主演でバンビーナってドラマあったじゃん?あれ主人公が方言使っててさぁ…方言に萌えを覚えてしまう系女子の私にはドンピシャだったんだよねェ…特に好きなのは博多弁と京都弁。はんなりしているのとか、〜〜〜たい!とか良いよね…。

なんてお決まりの萌え語りをさせてもらいましたが、私達シルバニア・ファミリーの生活は順風満帆です。イルはすっかりシルバさんに懐いて、よく遊んでもらっている。私としても一安心だ。元々人見知りはしない子だったけど、いきなり現れたお父さんにも物怖じしないで良かった。

「おとーしゃん、これは?」
「車だ」
「じゃあこれは?」
「船だな」
「ふねー」

しかも意外というかなんというか、シルバさんって結構子煩悩なんだよね。今もイルを膝の上に乗せて。本を読んでくれている。正直、物凄く助かる。やっぱりこの年頃の子って好奇心旺盛で、どちて坊やみたいにこれ何これ何って私に聞いてくるんだよね。でも私はご飯作ったり洗濯したりと色々やること多くて、手が回らなくて今までは困ってた。その役目は今やシルバさんのもので、私が家事をしている間はイルの相手をしてくれるので大助かりなのである。子育てに協力的な夫って最高☆

『シルバさん、イル、ご飯ですよ〜』
「あーい」

ふえェ…相変わらず可愛いよおイルたん。世界一可愛くないですか?どうかな?どうかな?どうかなぁ?クルミちゃん!イルミンなんだけどォ!!…ふざけるのはこのくらいにしよう。落ち着け私。ひっひっふー。

今日のメニューは和食なのだ!イルはカレーとかオムライスが好きなんだけど、シルバさんは和食好きなのだ。確かに私はお母さんだけど、たまにはつ、つつつつ、ツマ?妻として?夫の好きなものも作ってあげないとね、うん。案の定、食卓に並べられた料理を見て、シルバさんが嬉しそうな顔をした。可愛い…今日も私の推し二人が可愛くてご飯三杯はイケます。

『どうでしょうか…少し味が薄いですか?』
「いや、美味い。お前の料理は何でも美味い」
「うまいー」

いやんシルバさんったら!褒めても晩ご飯しか出ませんよぉ〜もう!えへへへ〜、シルバさんはちゃんと言葉を尽くしてくれるので、料理は作り甲斐がある。私は褒められて伸びるタイプだしね。木に登るレベルで煽てられちゃう。そう?美味しい?美味しいって言って貰えると嬉しいな〜。

シルバさんと暮らし始めてから数ヵ月、私は最近レストランでの仕事の頻度を増やした。今まではイルの送り迎えとか、家事とか、一緒に過ごす時間とか、色々あってバイト程度の時間しか働けてなかった。でもシルバさんのお蔭で生活に余裕が出来て、仕事と子育て、そして家事の両立が楽になってきたのだ。

『イル、ほら、零してる』
「ん〜」

そして、シルバさんもまた、働き始めた。私達の住んでる街は港街だから、船を使った交易が盛んだ。船は毎日のようにやってくる。そのため、荷卸しなどの力仕事は日雇いで人足を募集しており、シルバさんも始めはそれで雇ってもらっていた。まあ、確かにシルバさん、試しの門5くらいまで開けるらしいからね。あ、多分、念なしで。それが四年前のことなので、今はどうなっているのか見当もつかない。マッスルお化けだよ。お願いマッスル!

で、話の続きね。最初は日雇いだったんだけど、シルバさんがあまりにも力持ちで、百人力くらいの力を出すもんだから、どこの船も専属で雇いたがった。そのうえ、一度性質の悪い強盗まがいのことをする輩が港にやってきた時、シルバさんはひょひょいっとそいつらを伸してしまったらしい。荒くれ者ばかりの船乗り同士が喧嘩した時も、仲裁立って丸く収めてしまう。力持ちで、腕っぷしが強くて、でもそれをひけらかさないで、真面目な働き者で、おまけに超絶男前と来た。ここまで言えば分かるよね?

『シルバさん、お代わりはどうですか?』
「ああ、もらう。ありがとう」

あっという間にシルバさんは港の人気者になった。今では漁協に別口でお金まで貰って、用心棒的なこともしているようだ。男も惚れる男の中の男、いや漢、そこに痺れる憧れる〜を体現してるわけだね。うん。

………いやちょっと待ってェええええェえええ????ちょちょっちょっと待って、お兄さん?!シルバさん、あなた人たらし過ぎでしょ!豊臣秀吉もびっくりだよ!たった数ヵ月で何数年住んでる私よりも街に馴染んじゃってるのかな?!泣くよ?!どーせ私はコミュ障ですよっ!!

「そうだ、ユキノ。明日から何日か航海で出てくる」
『あら?またあの人のお手伝いですか?』
「ああ」

シルバさんは最近、モラウさん?って人に頼み込まれて、何日か航海に出ることがある。その人、シーハンターなんだって。海の珍しい生き物をハントするために、腕っぷしの強い人に手伝ってもらいたいって、シルバさんは目を付けられたらしい。なーんか聞いたことあるような名前だけど、気のせいだよね?

『では、またお弁当を作りますね』
「ああ、頼む」

そう言うと、シルバさんは嬉しそうに微笑む。愛妻弁当が嬉しいんだって。可愛い。イルを預けている孤児院はお弁当を持参させなくちゃいけないので、一つも二つも一緒ということで、シルバさんのも作ってるんだけど…。実はこれ、たたお昼を持たせてあげるってこと以上の意味を持っている。

具体的にいえば―――女の闘い!マウント取り合戦なのだーーーーーー!!!

だってさぁ、シルバさんモテるんだよ!究極のモテ男なんですよこの人!既婚者で、しかも子どもまでいるってのに、言い寄る女が後を絶たない!こないだ見ちゃったんだけど、金髪美人が奥さんがいてもいいわ!って言ってしなだれかかろうとしてたんだよ!勿論シルバさんは避けて断ったけど!けど!良かないわ!あんたがいいだけでこっちはちっとも良かないわ!この街の女性はみーんな情熱的で積極的過ぎるんだ!

い、いや…シルバさんが浮気するって疑ってるわけじゃないよ?…めちゃくちゃ疑ってるやんって言った人、前出て?違うからね?違うけどぉ…やっぱ私なんかよりずっと美人でスタイル抜群の女性に言い寄られてたら不安になるじゃん?だから、お弁当を渡すのはこの人にはちゃんと家庭があるんですよーっていう私なりの宣戦布告!負けないぞって誓ったからには全力を尽くすの!

この中に、シルバさんが言い寄られてるの見て迷惑だって思わないやついる?シルバさんが女の人に口説かれてて、ひよってるやついる?いねェよなァあああァ?って感じです、はい。

『…闘うのよ』
「おかーしゃん、何とたたかうのぉ?」

やべっ、声に出てた。食事を終え、片付けをしていた私は、ついつい心の声を出してしまっていたらしい。いつの間にか足元にいた愛息子が不思議そうな顔をしている。気にしなくていいんだよー、イル。

「おかーしゃんもいっしょにねようよぉ」
『んー、イル、今日は先におねんねしてて?シルバさん、お願いします』

可愛いおねだりに屈しそうになるけど、まだ明日のお弁当の準備出来てないからなァ。そう思ってシルバさんに声を掛けると、彼はこちらに近寄って来て、後ろから私を抱き締めて来た。何事?!

「イルミもこう言っていることだし、たまには一緒に寝るのはどうだ?」
『で、ですが明日の準備が…』
「言い方を変えよう。…一緒に寝てくれ、奥さん?」

はううううううう!!!耳元で囁かれて、私はずきゅうん!とハートを射抜かれたような心地だった。その吐息交じりの艶のある美声は駄目ですって!耳が妊娠する!足元からは愛くるしい息子がねェねェと裾を引っ張って来て、イケメン夫にはぎゅうぎゅうに抱き締められるってどんな拷問かな?もちろん防御力2の私が耐えられるはずもなく、そうそうに白旗を上げる。するとシルバさんはにっと笑って、私とイルミを同時に抱き上げて寝室に向かった。

もう、イルミンったら天使…!シルバさんってばイッケメン…!……好きっ!!と、私は今日も今日とて、旦那様にメロメロで、愛息子にきゅんきゅんなのだった。

一週間後。夕方になって仕事を終えた私は、その足でイルを迎えに孤児院へ向かった。敷地内に入ってきょろきょろしていると、建物の中で遊んでいたイルがこちらに気付く。そして一目散に走り出すと、どーん!と私の足に激突してきた。うきゃー、なんかイル段々力強くなって来たなァ。そろそろお母さん耐えられなくなるかも。相変わらずの突進攻撃に息子の成長を感じつつ、良い子にしていた?と聞くと、イルはいっつもイイ子だよぉ、と返された。ぎゃんかわなんですけど?

「あ、今日もお母さんなんですね」
『はい。夫は今日帰って来るもので』
「まあ、そうなんですか!イル君、よかったねェ!」

うん!とイルも嬉しそうだけど、この孤児院のお手伝いさんも嬉しそう。女が出てますよ、奥さん。まァこの人も既婚者だからいいんだけどね。私だって店に好みのダンディさんが来たらきゅんとすることはあるし。別に全方位嫉妬するつもりはないのだ。敵は露骨にシルバさんにアピールする人だけ!

別れの挨拶をした私とイルは、そのまま家に帰るのではなく、港の方へと向かうことにした。多分、そろそろシルバさん帰って来る頃だからなァ。今回は長いらしいとは聞いていたけど、多分一週間くらいらしいので、今日からは何日か港を覗いてみようと思っている。迎えに行ったことあんまないからね。

そうして辿り着いた港は、夕方でもとても活気がある。荷卸しの指示を出す声や、漁を終えて戻っていた人達、売られている魚を買い求めるお客達。朝と夕方には市が行われているから、年がら年中賑やかなんだよね、ここ。イルが迷子にならないように抱き上げて、辺りを見回す。お父さんどこかなァ、なんて言いながら。

すると同じようにきょろきょろしていたイルが、港の端を指差しておとうしゃん!と声を上げた。え、どれ?イルめっちゃ目ェいいなァ。私全然分かんない。豆粒みたいだよ、と思いつつも、指差された方向へ行くと確かにシルバさんがいた。隣には同じくらい大柄な男性。モラウさんかな?

……ってえ!ちょおおおっと!!いつの間にやら、港にいた女性達がわらわらとシルバさんの元へと群がっている。そして、シルバさんの腕を取ったり、身体にべたべた触ったりし始めた。ちょっとー?!その人私の旦那なんですけどー?!許可なく触らないで貰えますー!?絶対許可なんて出しませんけどっ!腕を取っている人がわざとらしく胸を押し当てている。あれじゃん!当ててんだよってやつじゃん!くっ、私にもっと胸があれば…!仕方ないでしょ!スレンダーとグラマラスは相容れないの!この世界の女性が異常なんだよ!私の胸だってないわけじゃないけど、決して大きいとは言えないのだ。

「おとーしゃん、にんきものだね」
『…そうね』

イル、キミは純粋だね…いつまでもそのままでいてね。キミのお母さんは心の中でキエエエエーって叫んでるけどね。うー、これはあの中に割って入るしかない、と覚悟を決めると、群がる女性達を振りほどいたシルバさんがこちらに気付く。そして、傍目にも分かるくらい嬉しそうな顔をした。ううっ…何あの顔ぉ…!ぱあって感じで、尻尾がフリフリされている姿まで幻視してしまった。小さく手を振ると、風のような早さでシルバさんがこちらへやってくる。目の前までやってきて、そのままぎゅっとイルごと抱き締められた。ひゃー。

「迎えに来てくれたのか?ありがとう、嬉しい。会いたかった」
『お、お帰りなさい、シルバさん』
「おかえりなしゃーい」
「ただいま」

海から戻ったばかりのせいで、シルバさんは何だか磯の臭いがした。シルバさんが対抗するように、ぎゅうぎゅうと抱き締めつつ、犬がするみたいにすんすんと私の首筋で鼻を動かす。ちょ、それやめて下さい…首元の匂い嗅がないで。その後は、マーキングするようにすりすりされた。もー、丸っきり犬みたいじゃん!恥ずかしいよぉ…。

『お仕事お疲れ様でした。狩りはどうでした?』
「お前とイルに会えなくて寂しかった」
『そ、そうですか』

真顔でそんなこと言わないで下さい!てか、違うでしょ!狩りの感想聞いてるんだよ私は!誰が狩りの最中のシルバさんの心境を聞いてるんだよ!相も変わらずの天然具合に辟易するけど、いっつもド直球の言葉をド真ん中に投げられてしまうので、私は三振三昧だ。

「おとうしゃん、おっきいおさかなつれたァ?」
「ん、大きくはないが珍しい魚が釣れた。見たいか?」
「見たいー」
「ならモラウに言っておこう」

ほぼ抱き合ったままの体勢でシルバさんがイルと会話する。抱き締める力もイルを潰さない程度なので、調整してくれてるんだろう。でも、人目が…そろそろ離してくれないかな、と思うんだけど、牽制のためにこれはこれでいいかもしれない。目が合うと、シルバさんは極上の笑顔を見せてくれる。

うーん、本当はね、嫉妬する必要なんて全然ないなァって分かってるんだよ。だってシルバさん、私が言うのもなんだけど、…私にぞっこんでいてくれるからね。あんな美人達に囲まれてても表情一つ変えないし、こうやって私達を見つけるとすっ飛んで来てくれるし。シルバさんのこんな笑顔を向けられるのも、私とイルだけの特権。

究極のモテ男に、こんなに愛されて、私の幸せのメモリはもうきっと使い切っちゃっただろうなァ、と私は幸せの溜め息を吐くのだった。



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