暗殺一家によろしく
- ナノ -
号泣させる準備は出来た




ボーンジョルノ!!ユキノなのだ!イタリア料理店ってボンジョルノだとかボナペティとかいう名前の店多いよね!分かりやすくていい。私は海外の料理ならイタリア料理が一番好きです。チーズをたっぷりかけたパスタとか、想像しただけで涎出ちゃうよね!ボンゴレのスパゲッティもいいよね。ボンゴレといえばやっぱりリボーンが浮かぶんだけどね。それがあさりって意味なのを知ったのは大分成長してからだったから、びっくりしたのを覚えてる。

何でイタリアの話をしたかは単純!私が今いる国が、イタリアっぽい国だからである!!うん、それだけ。安直でごめんね。ツボネさんから貰った航空券でカキン帝国まで来た私は、そのままバスを何個か乗り継いで、この国に辿り着いた。いや、どこ行こうかなーって迷ってたんだよ。そしたら飛行船で隣になったおばさんに、ご飯が美味しい国ってどこですか、と聞いたらこの国をオススメされてね。じゃあいいかなーって感じで、滞在先が決定した。

今いるのは、イタリアっぽい国の中でも端っこの方にある港町だ。ナポリみたい、と私は勝手に思っている。みんな知ってるかなー、よく独唱とかで歌われているサンタルチアって曲あるじゃん?あの歌ってナポリの民謡なんだよ。歌の訳し方も色々あって、ナポリって歌詞に出てくるものもある。基本的に海の美しさを歌っていて、その海とはナポリの海のことなのだ。ユキノちゃんのちょっと豆知識。

一目見た瞬間、美しい海と温暖な空気、風光明媚な景色に心奪われて、よし、ここに住もう!と決めた。だが一筋縄では勿論行かなかった。この世界は子どもでも国民番号がついて、国際人民機構にデータ登録されるほど生体データが発達した世界だ。戸籍持ってないって、何気なく入った店で言っちゃって、すごい目で見られてそのことを思い出した。そうだった。マリさんにも戸籍なし=流星街出身ってことだから、軽々しく言うなって言われてたんでした。でもそんなゴミ見るみたいな目しなくてもいいじゃんね。傷付くわー、まじつらたん。

その辛い教訓を生かし、不動産屋で家を借りる時は何も言いませんでした。うん、聞かれなかったから言いませんでした。私も悪い女になったもんだ。その為に、お金さえ払えば誰でも貸しますよって感じの地域密着型っぽい不動産屋で家を借りたのだ。お金ならあるよ!働いて得たお金と手切れ金(笑)がな!!

ってことで、一人で住むには十分過ぎる我が城を手に入れた私は、次は職探しを始めた。ハウスキーパー的なのも全然出来るとは思うんだけど、そういうのってやっぱり紹介状が必須で、雇って貰うことが出来なかった。ので、普通にレストランで働くことにした。坂道の途中にある海の見える小奇麗な街のレストランって感じのとこで、ご夫婦で経営されている。なんと賄い付き!大好きなスパゲティを食べられるのだ!控え目に言って最高。

こりゃ幸先良いぞ、と私の異世界生活は改めて再スタートを切った。

「ユキノちゃん、これお願い」
『はい』

奥さんは、異国から出稼ぎに来た(と思われてる)私にとても親切にしてくれて、雑貨や食材はここが安い、余った料理を持って帰って良いと、何くれと世話を焼いてくれる。旦那さんはめっちゃ寡黙。てゆーか無口。働き出してから一か月経つけど、未だに「ん」以外の声を聞いたことがない。何か喋れよ。ぐーちょきぱん店の旦那さんでももっと愛想あるぞ。でも料理の腕は最高だし、喋らないだけでこちらを気遣ってくれているのは分かる。うん、別に支障があるわけじゃないのだ。奥さんとツーカーで、言わなくてもほとんど伝わるらしいから。

「あら、もうこんな時間。ユキノちゃん、片付けはいいからもうお上がりなさい」
『ですが…』
「最近暗くなるの早いから。ね。女の子一人じゃ危ないわ」
『分かりました。ありがとうございます』

お疲れ様でした、と言って、店から退勤する。買い物して帰ろっかなーと思いつつ、うーんと伸びをする。ほんとは全然働かなくてもいいくらいお金あるんだけどね。何かしてないと落ち着かないし…私の場合楽を覚えたら際限ないからな。自分を奮い立たせなくては。

でも何でかなー、最近やたら眠いし、身体が熱っぽいのだ。いきなり環境が変わったせいかな?おでこ触るとちょっと微熱あるっぽい。何とかは風邪引かないっていうじゃん?健康だけが取り得なのに、それすらも失っていいのか。いっこもいいとこなくなるぞ私。

今日は早く寝るかァ、と近所で買い物をして帰路に着く。その途中で、私は唐突に強烈な眩暈に襲われてしゃがみ込んだ。うェえ……何これ。やばい、吐きそう。うっぷ、と口を押さえて、近くの壁に手を付く。気持ち悪っ。まじ吐く…と込み上げる嘔吐感に耐えていると、頭上から声が掛けられた。

「大丈夫ですか?」
『…大丈夫、です…』
「!…あなたは…」

ありがとう、親切な人。この国に来てから人の優しさが身に沁みます。私の具合を案じてくれたのは、黒髪のすらりとした青年だった。眼鏡がインテリ風で素敵ですね。彼はなぜか、私を見て目を見開いた。???何だろう。

「具合が悪いんですか?」
『ええ、少し…。休めば、すぐ収まります』
「…病院に行きましょう。顔色が酷く悪いです」
『いえ…原因は分かっていますから』

病院!?そんな行くほどじゃないよ!単純に寝不足と環境の変化に戸惑ってるだけ!こう言うと自慢にならないけど、私は病院が嫌いです!あの独特の消毒液の臭いを嗅ぐと、予防接種で痛い注射をされたことを思い出して体が震える。会いたくなくて会いたくなくて震える。ガキっぽい言うな。

やだー、病院やだー、と首を振ると、親切な青年は何かを考えるような仕草をした。

「もしかして―――…妊娠、しているのですか」

……………………はァ????????

たっぷり数十秒は間を開けて、私はぽかーんとアホ面を晒した。な、何言ってんのこの人…妊娠?誰が?え、私?まっさかァ。呆気に取られている間にも、青年は「なら尚更きちんと診て貰うべきでしょう」と言いつつ、私を引き摺って行った。え、待って。病院やだってば。てか妊娠?え?してないよ。

「6週目ですね」

―――妊娠してました。てへっ☆

いや、てへじゃねェええええええェええええェーーー!!!おーまいごっとふぁーざー降臨よいしょーーーーー!!!!マジか!!マジカルリリカル!!こいつぁ驚いた!!予想外だったか?がら空きだぜ!!!と●丸くんに会心の一撃を食らった気分だ。

いやマジか……、え、いや、マジかぁ…と私はお医者さんのお話をほとんどまともに聞いていなかった。ご飯がどうやら体調管理がどうやらと色々言われた気がするけど、耳に入らない。ええええ…ま、待って、一回落ち着こう?ぷりーずうえいと。ほんとに妊娠してるの?私まだ十九なんだけど…。充分にヤンママと言える年齢だ。しかも結婚もしてないし。

相手は……、うん、そうだね。考えなくても分かる。私は今までただ一人にしか身体を許したことはない。だけどあれだけだよ?シ、シルバさんの一発屋…いややめよう。下品だったね。そんなことより、どーしよ…。衝撃的過ぎて、全然頭が回らない。働き始めたばっかりだし、頼れる人なんていないし、幸いお金はあるけど…。そっとお腹に手を当ててみる。ここに赤ちゃんがいるなんて、全然実感湧かない。私が、ぼうっとしたまま病院を出た。

外には、まだあの青年がいた。あ、待っててくれたんですかぁ。いい人だな〜〜。彼は、私を見てどうでしたか?と聞いて来た。どーですかって言われても…うん、一応順調らしいよ。と、答えてみる。心配かけたのは事実だから、それは言っておかないと申し訳ない。見ず知らずの人にも優しくしてくれる人だもん。でもごめんなさい。今はまともに会話が出来るような状態じゃないんですよ。私もパニックなのです。だって、子どもが出来てるなんて一ミリも思わなかった。

「送って行きます」
『そこまでしてもらうわけには…大丈夫です。近いですから』
「もう乗りかかった船ですから」

言いながら、青年は私の荷物を持ったまま進もうとする。どっちですか?と言いながら道順を聞いてくる。いやぁ、自意識過剰だと思うんだけどさ、私だって少しは警戒するんですよ?確かに良い人だけどさ…送って貰うってことは、家を知られるってことじゃん。…うーん、もうしゃーないかぁ。純粋な善意だったら疑っても申し訳ないもんね。

「…この街に来たには、いつですか?」
『一月ほど前でしょうか』
「一人で?」
『はい』

てくてくと歩きながら何となしに会話をする。私の答えに、青年はちょっと考える素振りを見せた。何じゃらほい?

「………相手は、あの男なんでしょうね」

???? 相手って?…ん?お腹の子の父親ってこと?え、何?何で相手に心当たりあるの?………私、この人とどっかで会ったかなぁ〜〜〜〜?全然記憶にない。私じゃなくてシルバさんの知り合い?分かんないけど、向こうは私のこと知ってるっぽい。何だ、それで助けてくれたのか。でもごめんなさい、私あなたの名前も思い出せないや。

なんてことを正直に言ったら失礼な上傷付けるのが分かるので、とりあえず適当に笑って話を合わせておく。ははは。悟らせないことが優しさになることもあるよね。そりゃー相手はシルバさんだ。私はそこまで尻軽ではない。後にも先にも、あの人だけだよ。

「後悔、していないんですか。あの男は…裏社会を生きる男ですよ」

え〜〜〜〜、後悔?そんなこと聞かれてもなぁ。確かに子どもが出来ちゃったのは予想外だけどさ。後悔してるかって言われると…うん、多分違うかな。私は、もう一度お腹を押さえて考えた。元居た世界では無責任だとか、子どもが何を、とか言われちゃうのかもしれないけどさ。あの時は、そんなこと微塵も思わなかった。

シルバさんが自分には他にも何にも残らないって言ったから、意地になってたのは認めるけど。少なくとも…私に、シルバさんの存在は深く刻みついたのだ。あれが、最初で最後。不安や心配は死ぬほどあるけど、不思議と後悔はしてない。

『してません。自分でも、不思議なくらいです』
「ですが、貴方はあの男に会ったせいで、今ここに一人でいるのではないですか」

いや、そこはシルバさんのせいじゃないな。出て来たのは私だし。元々、一人だったんだから。寧ろ、シルバさんのお蔭で、マリさんがいなくなった後も私は一人ではなかった。

『一人ではありませんでしたよ』
「……あなたがそこまで庇う価値が、あの男にあるとは思えません。…もし、あの男とは違う、別の人に出会っていたら、あなたは幸せになれたはずだ」
『もしなんてありませんよ』

もし、シルバさんと出会わなかったら、私は生きてすらいるかも分からないんだから。そういうと、青年は少し眉を顰めた。

「そんなに……あの男が、好きですか」
『いいえ。―――愛してます』

その言葉は、思いの外するりと私の口から出た。そうだ。そうだね。

―――私、シルバさんのこと、愛しちゃってるんだなぁ…。

なんか、今さら実感した。私は恋愛経験が全然ないけど、それでも小学校とか中学校で、好きな男の子くらいいた。でも、シルバさんに対する気持ちはその時感じたどれとも違う。覚えのある感情が好きだったとしたら…うん。好きじゃなくて愛してるってやつだ。

青年は、長い長い沈黙の後でそうですか、と呟いた。私めっちゃ恥ずかしいこと言ったかな?なんか後になって照れて来た。そうしているうちに、家の前に着く。荷物を渡して貰って、お礼を言ったんだけど、彼は小さく頷いただけで去って行ってしまった。ほんとに親切なだけの人だった。名前も思い出せなくて申し訳なさすぎるわ。

私は、彼の背中を何となしに、見えなくなるまで見つめていた。


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