拍手夢
*名付け親*
『…怪我、もういいんですか?』
あんなに満身創痍だったのに、忍者って凄い回復力…と思いながら、
目の前で酒を煽るシカクさんに言ってみる。
「おう!」と笑みが帰ってきた。本当にもう元気そうだ。
でも…当然だけど、シカクさんの顔には二つの深い傷が残っている。
もう一生消えることはないのだろう。
それを見ると血に濡れたシカクさんのことを思い出して、ちょっと胸が痛い。
ついでに抱き締められたことも思い出して頬も赤くなる。
く…消えろ、煩悩め!
心の中で念じながら、可哀想なくらい皿を擦った。
『そういえば、シカクさん』
「ん?」
『あのとき私に術を使いませんでしたか?』
「あ、…あー、使ったな。悪かったな」
いえ、別に責めたいわけじゃなくて…
ちょっと今考えてみれば、あれって奈良一族秘伝の術だよね?
影真似の術…うわ、私影真似かけられちゃったの?!凄くね?!
そりゃ確かに死亡フラグの嵐を生み出す根源の忍術は、嫌だよ。
でも影真似の術は首縛りじゃない分にはそれ程危険な技ではない。
螺旋丸掛けて下さいなんて地球が死滅したって言うつもりはないが、
安全という面で非常に興味をそそられてしまうのがこの技だった。
忌避していても、やはりミーハーと言いますか。
「ありゃ、うちの一族秘伝の技でな。影で相手の動きを封じるもんだ」
『それで私は動けなかったんですね…』
あれ、言っていいのかなそんなこと。秘伝じゃないの?
まあ、影を使ってたとこ見たから今更か。
そう思っていたから、まさかシカクがこのとき、
「いずれうちの一族になるんだから問題ねェだろ」と
眩暈がするようなことを考えていたとは思いもよらなかった。
『…ほんと、凄いですね…影真似の術』
「あん?影真似?」
『え?』
何故か、シカクはきょとんとした顔をした。
なんかおかしいこと言ったかな?
「何だ、影真似の術って?ありゃ、影縛りの術っていうんだぜ?」
………や、やべええええェえええェ!!!!
そういやシカマルが音忍捕まえたとき、言ってたな!
「今は影真似って言うんだぜ」って!
うわあああぁ、つまり今現在はまだそういう呼ばれ方してなかったってこと?!
ぎゃー!!!やっちゃったー!!絶対怪しまれる!!
『いえ…影を使って操るなら、影真似なのかな…と思いまして』
新しい名前を使っているとき古い方の名前を言ったらまずいけど、
まだ影真似って名前自体がないならこの誤魔化しも通じる…はず!!
声が裏返ったが、何とか言い訳してみる。
ちらっと様子を伺うと、シカクさんは何故かうーんと考え込んでいた。
『…シカクさん?』
「影真似…影真似か!いいな、その名前。悪くねェよ」
『………は?』
ぽん!閃いた!みたいな動作をして笑うシカクさん。
え…どういうこと?
「影縛りって、何か古臭い感じがするだろ?
お前の言う影真似は、洒落が利いてていいんじゃねェか?
よし、これからは木の葉秘伝、影真似の術って名乗ることにするか」
『え。…あ、……考え直しませんか?』
ちょ、ちょっと待ってよー?!
別に影真似って名前にならないと歴史が変になっちゃうからいいけど、
そのきっかけが私の言葉っていうのがめちゃくちゃ気に入らないよ!
危うい!何が危ういのか分からないけど危うい!
このまま無理やり命名した者として奈良家に組み込まれそう!
か、考え直そうシカクさん。落ち着いて。
よし、三分間待ってやる。
…………時間だ、答えを聞こう!
「考え直さねェ。影真似の術、いいじゃねェか」
笑顔を見せるシカクさんの前に私はがっくりと項垂れた。
もう何も言うまい…。
な、名付け親になっちゃった…orz
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