- ナノ -
男と女のあれやこれ


綺麗な花吹雪が舞っている。麗らかな日差しの中、一生の誓いを交わした二人は幸せそうな笑みを浮かべている。幸せそうで何より、と(心の中で)微笑みながら、隣に立つ人を見上げた。

「……納得いかねェ」

礼服に身を包んだらちょっとヤのつく自営業の人に見えるシカクさんは、目出度い席だというのにぶすっとした表情のままである。いやいや、拍手してあげなさいよ。祝ってあげなさいよ。その更に隣に立ついのいちさんも「右に同じ」と言って頷いている。いや、だから祝ってやれよ。長年の親友でしょーが。

「「何で一番最初に結婚するのがお前なんだよ」」
「いやぁ〜、二人ともごめんねェ?」

結婚式の主役が纏うべき白いタキシードに身を包んでいるのは、いのしかちょうトリオの一角を成す秋道チョウザさんである。照れ照れと笑顔を零しつつも、どうだ羨ましいだろうと言わんばかりの勝ち組オーラに、残りの二人は歯ぎしりしっぱなしである。このデブ!とお腹をどつかれて禁句を言われても、今日だけは幸せ満面なので鷹揚に許してあげる心持ちでいるらしい。本当にほっこり幸せそうである。彼は今日、三年間お付き合いしていた女性も目出度くゴールインを果たしたのだ。

「信じられねェ、どう考えてもお前は結婚出来ない組だろ」
「生涯独身だろ」
「何で俺等の中の誰よりも先に結婚してんだよ」
「俺、お前にだけは負けない自信があったっつーの」

そうかなぁ。チョウザさんは良いお父さんになると思うから、結婚向いてると思うんだけどね。実際原作でもチョウジに凄いじーんとくるアドバイスしてあげていたし。一番安定して順調なお付き合いしてたみたいだしね。招待状が私にまで来たのは驚いたけど、まぁシカクさんを通してそれなりに交流はあったので、私も今日ばかりはめかしこんで式に参列していた。

彼らは木の葉の名門一族の出身というだけあって、昨日のうちに和式の結婚式を一度盛大な規模で開いている。次代の当主の結婚式だ。そちらは厳かに格調高く、他国のちょっとした重鎮も訪れる程の堅苦しいものだったようだ。私が招待されたのは、今日行われた所謂身内や友人のみの内輪での披露目、みたいな結婚式の方だ。親しい人達だけを集めて気兼ねせず、その上ウエディングドレスも着れて一石二鳥というわけである。まあ、もういっこの方に招待されても困るしね。

てゆか、私とチョウザさんの関係って何?知人以上友人未満?…この世界は知り合い増えると危険度も増すからなぁ。それでも有り難く招待を受け、シンプルな紺色で少しタイトなドレスを着て、気合い入れて髪の毛まで軽くウェーブを掛けて巻いてみた。

しかし、私はいわばメインの引き立て役に過ぎない。花嫁衣裳に身を包んだチョウザさんのお嫁さんは幸せそうで、とても綺麗だった。気風の良い姉御肌である彼女は自分にも「来てくれてありがとね」とからっとした笑顔で挨拶してくれた。う〜ん、もう既にお母さんって感じがする。チョウジはこの二人の愛情を一身に受けて、あんな良い子に育ったんだなぁ。原作の片鱗を垣間見て、ちょっとだけしみじみした。

「おめでとうございます、チョウザさん。どうぞお幸せに」
「ああ、ありがとう雪乃さん。それはそうと、ドレスすごく綺麗だね。似合ってるよ」
『ありがとうございます』
「あってめ!嫁さん以外を結婚式で褒めるかフツー!」
「男の嫉妬は見苦しいよシカク。奥さんのことは昨日も今日も十分褒めたからいいんだよ」
「「うわ超ムカつく」」
「悔しかったら早く結婚すればぁ?」

ちょっとだけ同感だ、二人とも。チョウザさんは実にさらっと、何気ない感じで褒め言葉をくれるから、シカクさんといのいちさんよりも意外に恋愛上手な気がする。しかしそれでもラブラブオーラ全開にされると「爆ぜろー!リア充ー!」と言いたくもなる。

それはそれとして、式は恙なく進んでいく。木の葉の里に洋装の結婚式があったことに実は驚きを隠せない。ここの世界観はどないなっとんじゃ?今更突っ込んでも無駄だと分かりつつも、疑問に思わずにはいられない。そして最後にお約束ともいえるブーケトスの時間がやってきた。なんか周りの女性たちが殺気立っているように見える。すごく……こわいです。いつもの間にか私の両脇を固めているミコトさんとクシナさんもめちゃくちゃやる気である。

「腕が鳴るってばね!」
「負けないわよ、クシナ」

いや、待て。待って?ミコトさん結婚してるよね?何で今更ブーケ狙ってるの?フガクさんが可哀想だよ。てゆーかクシナさんも取る意味ある?旦那まで秒読みの恋人いんじゃん!

「見せてやるぜ…軍師の一族の底力をな」

待って。あんたはほんとに待て。何でシカクさんがアップ始めてんの?何でスタンバイしてるの?そもそも女じゃないでしょーが。ほんとにやめろ下さい。軍師の力(物理)じゃん。脳みそ関係ねーよ。私が脳内で突っ込みをしているうちに、ぽーんとブーケが放られる。別に興味がないので成り行きを見守る体勢に入る。すると、

「奈良一族を…舐めるんじゃねェ!影真似の術!」
「させるか!心乱心術!」
「行きな、黒丸!」
「無駄だってばね!」
「甘いわよ、クシナ!」
「………」

って、多っ!!ブーケ狙ってる一団多っ!目が血走ってる、こわっ!!てゆか、何かすっごい聞き覚えのある声ばっかりだったんですけど?!黒丸ってあれですか、ヒャッハー!って言ってるナルトと同世代の男の子のお母さんが連れてる犬ですか?!それと凄い勢いでブーケに虫が群がってるんだけどまさか油女一族じゃないよね?!誰か違うって言って!

何このカオス、と思ったのもつかの間、ひゅんっとクナイが飛び、それと入れ替わるようにして金髪の美青年が華麗にブーケを浚っていく。おい。待て。もしや私が一番会いたくないと思っている木の葉の黄色い閃光(笑)様じゃないだろな。唐突に木の葉の英雄をディスっておく。悪気はないのよ。ただ彼って死亡フラグの塊のような人間だからさ、親子揃って。

「……ん!じゃあブーケを取ったから、俺が次の花嫁ってことに…」
「なるわけないってばね!!」

バキィッ!!

と、小気味いい音をたててクシナさんに蹴り飛ばされた四代目火影(予定)は、前のめりになって手にしていたブーケを手放してしまう。てか仮にも恋人に容赦ないなー、クシナさん。でもいっくらクシナさんが男前だからって、彼女が花婿で波風ミナト(仮)が花嫁になることは性別的に無理なわけで。ブーケを狙って秘術の乱舞をしていた面々の冷たい視線が彼に突き刺さる中、華麗なドロップキックのせいで宙に放物線を描いたブーケは、ぽすんと舞い落ちて来た。

……寄りにもよって、私の手の中に。

「………」
「……えと、……おめでとう?雪乃さん」

固まっていると、チョウザさんが控えめに声を掛けて来た。何でだよ。

「……返します」
「い、いや、いいよ、やっぱり女性が貰うべきだからね、もう君のものだよいたいいたいいたい、クシナ痛い、ごめん俺が悪かったって痛い痛い首絞めないで痛いよ」
「…はぁ」

どうも悪ノリしたらしく、ナルトの父親(未来形)はお仕置きと言わんばかりにクシナさんにヘッドロックを掛けられていた。私はそのシュールな光景をうわぁ…と若干引き気味に眺めていた。周りの人何も言わないんだけど、これって普通なの?何?私が可笑しいの?こんなバイオレンスなスキンシップ見たことないんだけど。私の中の四代目の印象は変なにーちゃんで固定されそうである。南無三。

……とりあえず、雪乃、花嫁のブーケ、ゲットだぜー。

目を逸らしたかった現実がチェーンソー持って追いかけてきそうで、溜め息を吐かずにはいられなかった。




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