- ナノ -
巻き込まれ属性


おっす!オラ雪乃!わくわくすっぞ!……このネタは前やったな。よし違うのにしよう。うーん…呼ばれてないのにじゃじゃじゃじゃーん!!……ほんとにそうだよ…。誰も私なんてお呼びじゃないのに、どーしてこんな目に遭ってるのか。今日は厄日だ。

「悪いな、姉ちゃん。恨むなら運の悪い自分を恨むんだな」

だが断る。恨んでやる。絶対あんたのこと恨んで祟ってやる。心底恨めしげな視線を送りながら、半ば諦めの境地に立っている。鬱蒼とした景色を茫然と見送っている間もずっと首筋に当てられた冷たい感触が現実を嫌でも突きつけてくるのだ。冷たい感触が何かって?知りたいのかいベイビー。もう完全におかしくなっちゃってるテンションは鰻登りだ。ふっ。知りたいのなら教えてあげよう。クナイだ。…クナイなんだ。…クナイなんだよねェ…。何回確認してもやっぱりそうなのだ。

―――そう。私は今、絶賛誘拐被害の真っ最中なのだ。

な、何言ってるのか分からないと思うが…とちょっぴりポルナレフを出しつつ、本当に分からないと思うので説明しようと思う。事件は大体一時間くらい前に起きました。私は仕事が終わって家路を急いでいました。すると何やらこそこそと道行く影が一つ路地裏の方へ。何だろうと好奇心をもって覗き込んだ私は、見てしまった。原作の第一巻のナルトの如く、見るからに機密っぽい巻物を懐に忍ばせ、辺りを警戒する人物を。…目が合った。

そっからは、まぁ定番だよね。ちっ、見られちゃしょうがねェな…なーんて小物臭のする台詞を吐きながら男は私にクナイを突きつけ、人質にして木の葉の門を潜ったのでした。めでたしめ…でたくないね。いや、すぐ殺されなかっただけマシなのかもしれないけどさぁ、全然楽観視できないよ。てかおかしいんだよ、ここの忍って。他里に侵入してるくせに嫌に目立つ個性的な服着ちゃってさ、暖色だし。目につくに決まってんじゃん、なんだよ見られちゃしょうがねェなって。見られたくないならもっと忍べよ!忍だろ!自己主張激しすぎだっつの!

里を出てから随分時間経ったよなー。ヤバいな、あんまり遠くに行っちゃったら誰も助けに来てくれないかも…。ん?てゆかこれ、誰か助けに来てくれんのかな?原作でクシナさんは四代目に助けて貰って運命感じちゃった☆って感じだったみたいだけど、彼女は人柱力だもんなぁ。価値のある人と、…自分で言ってて悲しいけど、私なんかだと助ける価値皆無だよねェ。一般ピーポーだし。くそう。

「お前、随分余裕そうじゃねェか」
「………」
「まさか助けが来るとか思ってんのか?無駄だぜ、あんな温い里、オレのことにも気づいちゃいねェよ」

いや、それはないと思う。さっきも言った(思った)けど、あんた全然忍んでないから。それで気付かないとかぶっちゃけありえない。バッレバレだよ。それと、火影様のこと舐めすぎ。確かにあの人エロ爺だけどさ、撲殺天使イタチ君のことといい、結構腹黒いことやってるから。あとなんだっけ……志村…志村けん?忘れたけどそんな感じの名前の人もいるし、どこも闇の一つや二つ持ってるもんだよねェ。というか、これでバレてないとかなったら、私は木の葉の危機管理能力を問うぞ!

「ま、いい…ここまで来りゃ、撒いたも同然だ。おら、さっさと行くぞ!」
「っ…!」

いった!痛い!!髪の毛抜ける!ハゲる!!引っ張らなくても歩くっての!恨めしげに睨んでやると男の気に障ったらしく「何だその目はよお」と凄まれる。な、何だよ…怖くないかないぞ!あ、ごめんなさい嘘です怖いです!次の瞬間、バチンと右頬が嫌な音を立てた。痛い!!ぶったな!!お父さんにもぶたれたことないんだぞ!お母さんはあるけど!右の頬を打たれたら左の頬も差し出すようなドM精神なんて持ってないから、あんまりな痛みに悶絶した。

「人質だから殺されないと思ったら大間違いだぜ?お前なんか、簡単に殺せんだよ…こんな風にな!!」

振りかぶられたクナイをじっと凝視したままでいられたのは、現実味がなさすぎたせいだろうか。…いや。きっと違う。分かってるからだ。そして…信じてるからだと思う。きっと―――、

「っ、何だと!!」

ギインと金属音をたてて、男のクナイが弾かれる。そして地面に突き刺さる二つのクナイ。慌てたように男が投擲された方向へ振り返り、軽やかに一つの影が着地した。

………ほらね、やっぱり。肝心なときはいつだって来てくれるんだって、認めたくないけど、信じちゃってるん…だよ………ね……?

「…その人を離せ」
「な、なんだてめェ!木の葉の忍か…ガキがぁ!」


……
………シ……シカクさんじゃないんかい!!!!

私は心の中で絶叫した。降り立ったのは想像していたのよりもずっと小柄な人物で、おそらくまだ少年なんだろう。それを認識して数拍後、顔から火が出るような猛烈な恥ずかしさに襲われた。…きいやあああああぁあぁああ!!何これ!超恥ずかしい!何が信じちゃってるの☆だよ!!どこのヒロインだよ!!うわあああぁ、厨二くっさ!恥ずかしい!死ねる!勘違い乙(笑)だよ!!というかシカクさんもなんだよー!お前はおれが守ってやるなんてこと言っておきながら来ないのかよーーー!普通来るだろ!王道だろ!バカバカバカバカ、期待してた私が馬鹿だったよ!!やっぱり遊び人なんて信じらんない!もう二度と気許したりしないんだからなぁーーー!泣 羞恥に悶絶していた私はシカクさんの事情なんて一つも酌量せず喚いていた。

その間にも展開は進む進む。救世主である少年はやたら強かったらしく、あっという間に男を追い詰めてしまった。いいぞ、もっとやれ!そいつは私をこんな目(笑)に遭わせたにっくきあん畜生だ!あれ?!いやちょっと待って!殺る気か、殺る気なのか少年!ちょっとウエイト!!私の前でそんなグロテスクな光景見せないで?!さっき私がやられたみたいにクナイを突き刺そうとする少年を咄嗟に止めようとして、足を踏み出す。と、ぐきっと足首が曲がってはいけない方向に曲がり、転がるように進み出てしまった。

「なっ…!!」
「…っ、」

しがみ付くものを求めて宙を掻いた手が掴んだのは、こともあろうに……鋭利な危険物である、クナイでした。いったああああぁあああぁ?!これは痛い!そして酷い!!ああっ、血がどくどくと!!驚愕に目を見開く少年と敵である男の視線も痛い。そりゃそーだ、いきなり躓いたと思ったらクナイ掴むんだから馬鹿を見る目にもなるよね!な、なんか言い訳しなきゃ!!

「…もう、止めましょう。こんなことは…傷付くだけです」

私がな!!!いやほんと、私がいないとこでやってよぅ。もう私のライフはゼロだよぉ。精神的にも肉体的にもボロボロだよぅ。切実な思いが伝わったのか、クナイを離してくれた少年。男の方はがくりと項垂れて、ぽつりと呟いた。

「……あんたみたいな人がうちの里にもいりゃぁ…こんな思い、する必要なかったのかもしれねェな」

………???どういう意味かな??私みたいなアホがいる里なんて終わってると思うけど…自分と比べて心の安寧が得られる、とか?そう思い首を傾げる私の耳に、今もっとも聞きたくない声が聞こえてきた。

「雪乃!!」

あっ、シカクてめェこのやろー!!今さら来たって遅いんだからな!!文句を言ってやろうとしたけど、それは叶わなかった。そして私は、あまりの心身の疲労に、意識を落としていくのだ。

駆け寄って来たシカクさんの両腕にきつく抱きしめられて、息が止まりそうになりながら。




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