- ナノ -
好みはFFのアーロンです(きりっ


雪乃です。
以前あった事件のトラウマから人間不信気味です。雪乃です。手の傷はすっかり治ったけど、怖くて外うろつけません。雪乃です。先日二十歳を迎えました…大人の仲間入りです。

雪乃です、雪乃です、雪乃です………。以下、エコー。

ほんと、やんなっちゃうよねー。いやさ、警戒心が薄すぎる私が悪いんだけどさ。お昼時を過ぎ、あまり人のいない店でテーブルの片づけをしながら心中で零す。相変わらずシカクさんが来てます。でも、前のあれで自分の心のなかっていうか、ちょっぴり乙女チックなところを認識してしまったせいか、恥ずかしくて顔が見れない…。冷静になってみるとシカクさんへの怒りは理不尽なものだし、なんていうか…あーもーとにかく私が悪かったよぉ!二度とあんなことがないように祈ろう。

「おい雪乃、聞いてるか?」
「聞いてません」

シカクさんに顔を覗き込まれて、反射的に答えてしまった。ひでェな!と叫ばれるが、しすいません、考え事に夢中でマジで聞いてなかったッス。何?

「だからな、知り合いに温泉の無料券貰ったんだよ。折角だから、一緒に行かねェか?」
「温泉…ですか?」

何が折角なのかは分からないけど、温泉かぁ…。それってもしかして、ナルトが木の葉丸の家庭教師に修業をつけてもらって、自来也と会ったとこかな?温泉…温泉ねェ。ババくさいと言われるかもしれないが、私は結構温泉が好きだ。断然長風呂派。足の伸ばせる湯船マジ最高、である。うーん、悪くないね。…でも。

「おい、小僧。そりゃもしかして混浴じゃねェだろうな」

私達の話を聞いていたのか、店長のアサヒさんがぬっと現れた。おお、店長ナイス!それこそまさに私が聞きたかったこと!いきなり温泉なんて言われちゃぁ、そういう裏を疑ってしまっても仕方ないだろう。

「……そん!な、わけねェだろうが!」
「嘘吐くの下手か!何だその間と区切り方はよ!!」

分かりやすい…。前々から思っていたんだけど、シカクさんはオンモードとオフモードの落差が激しい。オフモードは流石シカマルの父!とでもいえばいいのか、面倒臭がりで気だるげで物臭全開だ。任務中はさらっと吐くことのできるであろう嘘だって、素人目に見ても分かるくらいぞんざいなものだ。こういうスイッチの切り替えの早さは、頭の良い人ならではなんだろうか。…そのー、オンモードの忍者バージョンはさ…、いつもと違ってキリッとしててちょ、ちょっとだけ恰好良いかなって思わなくもないんだけどさ。普段もそうしててくれれば少しは見直すのに。ジト目で見据えてやる。

「違う!ほんとに違うからな!マジで!下心なんてこれっぽっちも……ねェとは言わねェけど!」

自分に正直か!

「マジで混浴じゃねェから!お前が最近疲れてるみたいだからどうかと思って…違ェから!頼むからそんなゴミ虫見るような目で見ないでくれ!!」

見てないって。
………冗談はさておき。

「おー…久しぶりに来たが、結構繁盛してんじゃねェか」

やってきました、温泉街。もちろんシカクさんも一緒。店長も私もシカクさんがあんまりにも慌てふためくから面白くってついからかってしまったが、本当に下心を疑っていたわけではない。私のことを気遣ってくれたというのも事実だろう。色んな人に心配してもらっちゃうほど気落ちしてたこともあったからなー。まあ、基本楽観的な私でも嫌なことがあったら落ち込みもする。店長は「店はいいから、たまにはゆっくりしてきな。小僧、手ェ出すんじゃねェぞ」とよく分からん釘を刺しつつ送り出してくれた。ほんと、申し訳ないです…。

早速、とばかりに温泉に入ろうと歩き出す。いや〜、それにしても壮観!流石にこうもアニメで見たものそのものがあれば、嬉しくもなるなぁ。そっかそっか、ナルトはここで自来也に会ったのね!丁度あそこに座り込んで女湯を覗き込みながら、にやにやと笑み崩れているガタイのいいおじさんのように………ん?おい。

「シカクさん。…あの人…、」
「ん?…覗きかぁ?随分堂々としてんな。…おい、アンタ」

まさかとは思うけど…いや、まさかね。最近はとんと原作キャラに会ってないけど、驚異の遭遇率を誇っているからってまさか。流石に治安を守るため、シカクさんはその不審人物に近づいていく。職質である。…ちょっと違うか?ま、いいや。すると相手の男の瞳が振り向きざまにきらりんと光る。シカクさんは何かを察したのか、素早い動きでその場を離れた。すると、先程までシカクさんが立っていた場所に筆が刺さっていた。…いやいやいや、おかしいっしょ。どんな筆だよ。

「何だのお、お前。わしの取材を邪魔しくさりおって!」
「取材だと?ざけんな、女湯覗いて何がしゅ……ん?」
「おお?」
「………じ、自来也様?」
「お前、奈良のガキか?」

本人かよ…ちくせう!そうだと思ったよ!そんな気がしてたよ!!何なんだ!私は呪われているのか!平穏に暮らしたいのに、平穏がジェット機に乗って逃げていくんですけど!てゆか、自来也変わってないんだな…パターン同じじゃん原作と…エンジンかかってんなぁ。

「いやあ、驚いたのぉ。随分でっかくなりおって」
「はぁ。自来也様はお変わりなく。戻ってきてたなんて、知りませんでしたよ」
「そりゃあバレんようにこっそり来たんだからの」

う…アウェイだよ私…も、もー我慢出来ない!

「シカクさん…?お知り合いですか?」
「ああ、まーな」
「んん?何だこのめんこい子はぁ。お前のコレか?」

ちょいっと立てられる小指。シカクさんが何か言う前に速攻、コンマ2秒くらいで違いますと否定しておいた。シカクさんがちょっと泣きそう。でもね、私今めっっっちゃうずうずしてる!私が自来也の名前を知っているのは不自然だから、シカクさんに紹介してもらうしかないのがもどかしい。私はね、原作キャラには極力関わりたくないんだけども!だけども!!

「わしは自来也。蝦蟇仙人だ。ま、木の葉の三忍とも呼ばれとる」
「…自来、也…?……もしかして、本を書いていらっしゃる、あの…?」
「ん?知っとるのか?…だがあれは、言っちゃなんだが、その……」

官能小説を書いてることを女に追及されるのは流石に恥ずかしいのか、戸惑う自来也。ええい、そんなのどーでもいいのさぁ!咄嗟に自来也の手をぎゅっと握る私!

「……ファンです」
「………は?」
「お、おい雪乃…?」
「貴方の作品はすべて拝読させて頂きました。特にイチャイチャパラダイスというあの作品は素晴らしい名作だと思います。感動しました」

自来也だけは別なのさあああああぁあああぁ!!!会いたかった!超会いたかった!らびゅーん!!もー伝わるかなぁこの感動!原作に出てくるからって興味本位で見てみたらイチャパラの面白いこと、面白いこと!あの自他ともに認める助兵衛が書くんだからどんなお下劣ものかと思ったら、全然そんなことなかった!品位のないエロさもなく、笑いあり涙ありで普通に名作!いや神作!あなたが神か!もう私のバイブルだよ!

「い、いや…た、ただの官能小説であってだのう、そこまでのもんじゃ…」
「そんなことありません。精密な文章もさることながら、登場人物の心理描写を的確に捉え、作品の品位を損なうことなく完成させられています。まさに珠玉の一作です。ぜひ一度お会いしたいと以前から考えていました…会えて、本当に嬉しいです」

私がこんなにたくさんしゃべるなんて、世界の法則が乱れちゃうよ!でも止められない!初めは恐縮していた様子の自来也もあまりの絶賛ぶりに気を良くし、更には僅かに感涙していた。ちなみに、シカクさんはぽかーんとしている。

「わ、わしの作品をそこまで言ってくれるモンがおったとは……くう、作家冥利に尽きるとはこのことだ…!よし、気に入った!特別だ、姉ちゃん、わしが直筆サインをくれてやろう!それにほれ!これがそのうち出版する新シリーズだ!」
「本当ですか!」

わあああああい!イチャパラの中巻だぁ!!やった、やった!名前を聞かれたので、素直に答えておく。うーん、家宝にしよう。

「雪乃、と……。それにしても、お前さんみたいな別嬪さんに手ェ握られるたぁ、役得だったのお!」

別嬪さん、の言葉に一瞬固まってしまう。う…リアルでも言われたことないよー、そんな台詞…。何を隠そう、私は無類の渋いおじさん好きである。…ぶっちゃけ、今の自来也のルックスがどんぴしゃなのである。ド真ん中である。好みである。もう、自来也ったら!褒めても何も出ないんだからね!!私は乙女モードで熱くなる頬に手を当てた。

うしろでなぜか、シカクさんの絶叫を聞いた気がするけど、たぶん気のせいだろう。




前/18/

戻る