- ナノ -
どーしようもない人

今日も今日とて、酒を呑みにやってくるだろう奈良シカク。先日告白されてしまったせいかどうもとっつきにくい。何だかなァ、これで上忍、しかも奈良一族の嫡子っていうから世の中不思議なものだ。別に実力を疑ってるわけじゃないよ?わけじゃないけど「雪乃〜付き合ってくれ〜」と気の抜けた声で呼ぶのを聞いてたら、何かそうは見えないって言うか。付き合わないってば。

『いらっしゃいませ』

…あ。もうすぐシカクさんがやってくる頃じゃね?とか思ってたら、店に入ってきたのは彼ではなく、これまた見たことあるなーと感じさせる二人組。一人は「デ…」といわれたら怒る少年に似ていて、もう一人は花屋の娘さんと髪の色がそっくり。…つーか、秋道チョウザと山中いのいちじゃね?若かりし頃だけど、間違いないよ。うわーこんな感じなんだァと感動しながら席に案内する。すると、

「なァ、雪乃ってのはあんたのことか?」

いのいちさんが、席に着くなり開口一番問い掛けてくる。人に名前を聞く前に名乗りなさいな、しっつれーなヤツ。私は予想付くけど、普通初対面の相手にそれは不躾じゃない?

『はい、そうですが。…そちらは?』
「あ、悪かった名前も言わずに。おれは山中いのいちってモンだ」
「おれは秋道チョウザ」

やっぱりねーそうだと思った。何しに来たのかなこの二人。お酒のみに来ただけってことはないよね。わざわざ私に名前聞いてくるわけだし。お、思ったけどいのいちさんって中々恰好良いなァ。いのは父親似なんだね。それを言ったら、チョウジもチョウザさんにそっくりなんだけどさ。ああ…これで四人も原作キャラに会っちゃった。火影にシカクにいのいちにチョウザ。私の平和な生活ががらがら崩れていくわ。

『注文を窺っても宜しいですか?』

とにかく、仕事しないと。聞けばチョウザさんは物凄い勢いでメニューを読み上げ、大量の料理を注文してきた。あ、この人はただ単に物食べに来ただけみたい。安心した。
厨房へ行って完成した料理を運んでいる途中で、見慣れたポニーテールの男が店に入ってきた。来んなって念じても来るんだこいつ。シカクさんは奥に座っている二人を見ると「何してんだお前等?!」と言いながらその席に近付いた。わーいのしかちょうトリオが揃ったよーなんて思わないからね。感動なんてしてないんだからねっ!(ツンデレ風に)

「いや、お前が言う相手がどんな人か気になってな」
「ここで働いてるって噂聞いたから、ちょっとね」
「ちょっとって…余計なこと言ってねェよな?」

悪戯っぽく笑う二人とは対照的に、何故か青褪めているシカクさん。二人の笑みが更に深まる。そーかそーか、そんなに言われたくないことがあるのか。

「三股掛けたことがあるとかか?」
「それともデートがダブルブッキングして修羅場になったこと?」
「他国の女が子供連れて貴方の子だって乗り込んできたことか?」
「…て、てめェらァっ…!」

わざとらしく色々暴露されていく女性絡みのネタの数々。怒るシカクさんは、ちらっと窺うようにこちらを見てきた。いや、別に私は何とも思わないよ?こういう場所で働いていると否応なく噂は入って来るから、奈良シカクが相当浮き名の通った男だ、ということも聞いている。女遊び、激しいらしいね。口説かれていることを知っている店の人には「気を付けなさいよ?」と心配されてしまったこともある。へーきです。アウト・オブ・眼中なんで。もし私がこの世界で付き合う人がいるとすれば、名もないモブさんでいい。

『ご注文は以上でお揃いですか?』
「雪乃、誤解すんなよ?今のおれはお前一筋だ」
『ではこちら伝票になります』
「…」
「シカク、完全に相手にされてないね」

付き合ってられるかっての。無視して全ての料理を運び終わると、さっさと奥に引っ込んだ。仕事熱心な私は、事務的な言葉しか店の中では基本交わさないのです。もちろんプライベートで彼に会うことなんてないから、つまりまともな会話を交わしたことがないってこと。

んー、やっぱ遊びなんだろうな。そんなに毛色が違って見えるのかな、私ってば。昔から友人に「あんたは何か普通の人と違って見えるわー」と冗談交じりに言われることが多かった。表情筋動いてないともよく言われる。自分では表情豊かなつもりなんだけど。とにかく、そんな性質はこの世界でも通用してしまうらしい。そのせいで奈良シカクに目ェ付けられたってんなら、迷惑極まりない性質だよねェ。私なんかより可愛い子なんていっくらでもいるだろーに。

「また来てんの?シカクの小僧っこ」
『ええ、そうみたいですね』
「うちの看板娘を狙うたァ、ふてェ野郎だ」

ご主人、私は看板娘になった覚えはありませんよ。シカクの小僧っこ…確かにご主人は四十手前くらいの年齢だから、二十歳そこそこのシカクさんは小僧かもしれない。あれ、そういえばあの人達正確にはいくつ?お酒呑んでもいい年齢なわけ?木の葉にはお酒は二十歳になってから、とか決まってないのかな。法律は、ないみたいだけど。

他にお客の入りもないので(真昼間から酒をカッ食らってるのはシカクとその周辺くらいである。健康的な生活をしろ)じーっと立っていると、何やら席の方が騒がしい。見てみれば、見事に酔いつぶれたシカクさんが机に突っ伏していた。あーあー、ぐてんとしちゃってまァ。いつもは一応セーブして呑んでるっぽいのに、友人がいるからって羽目外しすぎ。仕方なく水を持って、そちらに向かう。

『あの、水をどうぞ』
「あ、悪いね、雪乃さん」
「ほら、シカク起きろ。雪乃さんが来てくれたぞ」

あ、起こさなくていいっスわ。面倒臭いんで。水だけ置いて立ち去ろうとするが、ちょっと待って!とチョウザさんに引き止められてしまった。もー何さァ。

「あ、あのな…余計な世話かもしれないけど、シカクって本当に雪乃さんのことが好きみたいなんだ」
「おう。さっきはああ言ったけど、今はきっぱり女とも関係切ってあんた一筋。暇さえあれば雪乃が雪乃が言っててな」
『はァ』

そんなこと言われても。だから付き合ってやれって言うんじゃないよね?

「…だ、だから…そんなに悪いヤツじゃないってことを知っておいてほしいんだが」

ちょっと睨んだせいか、チョウザさんが大きな体を縮こめてしまった。ヤバ、威嚇してしまった。目付きの悪いことは自覚している。彼等は友人を思って言っているだけなのに、失礼だったな。反省しつつ、酔い潰れているシカクさんを見る。酒臭…。

「……雪乃……」

………これ、わざと?ほんとは起きてて狸寝入りしてるわけじゃないよね?寝惚けて名前言うとか…反則。ちょっと照れるわ。はあ、と短い溜め息を吐いて、シカクさんをちょいちょい突付いた。よし、起きない。寝てるね、こりゃ。

『…悪い人とは思ってませんよ。どーしようもない人だなァとは思いますけど』

遊びにしても何にしても、好意を向けられて悪い気はしない。冷たくあしらっても、この人は気にした風もない。図太い!しつこい!と辟易することもあるけど…何だかんだ言って、シカクさんと話をするの(一方的に向こうの話聞くだけだけど)嫌いじゃないんだよなァ。前も言った通り、ちゃんと良い人と思ってるし、どちらかと言えば好き。面白いし、それに…うーん。こんなこと言って良いのかな。本人に聞かれたくなくて寝てるの確認したけど、友人に言うのも恥ずかしいな。

『………可愛い人だなァって、思っちゃうんですよね』

今日も任務だったんですか?とかたまに気紛れで話しかければ、ぱあっと表情を明るくするところとか。あー可愛いってつい思ってしまう。年上の男の人に思うことじゃないよねェ。自分に呆れてシカクさんのつんつんした髪をちょいと撫でれば、ぐう、とお酒の臭いのする吐息が零れた。

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