- ナノ -

生か死か


*壱*


『っく、は…』

情けない声を洩らしながら、小さく呻いた。絞り出そうとしても上手く言葉を放てない。咽喉がカラカラで、ひゅうという音が微かに零れるだけだ。

『ぐ、っ…!ぃ、ぁっ…』

何度起き上がろうとしても、腕に力が入らない。地面に手をつき体を上げれば、その度に再び地に落ちる。先程からこれを、何回も繰り返していた。手足が、痺れる。指先一つ動かすことが億劫だ。空腹の限界はとっくに超えていて、もう感覚すらない。三日も何も食べていない。動けなくなるのも、当然だった。

ついていない…本当に。京も間近というのに、追い剥ぎに遭ってしまうなんて。江戸を出るときに持ってきたへそくり…本当に雀の涙程度の路銀を、根こそぎ奪われてしまった。

尊攘派の浪士だと名乗っていたな…見るからに貧乏人の私からも金を奪っていくなんて浪士という人間は、大層素晴らしい人格者達らしい。男装していた為犯されることこそなかったが、全然楽観視出来なかった。

『…く、そ…』

しきりに烏が鳴いているのが聞こえる。私が死ぬのを待って、死肉を食おうとしているのか。考えるとぞっとして、ぎゅっと歯噛みをする。

糞烏達め…弓が今ここにあれば、残らず射落として食ってやるのに。愛弓すら手元にないこの状況では、土台無理な話だが。それでも心の中で悪態を吐くことしか出来なかった。

『……は、ぁ…』

遠のく意識を繋ぎ止めようとしても、叶わない。朦朧とする意識の中では、思考さえも覚束ない。頭が、くらくらする。

…死ぬのか。やっと自由になれると思ったのに…こんな寒空の下、無様に野垂れ死んでしまうというのか。冗談じゃない…。

そう、思った瞬間。

「…おい」

声が聞こえた。こんな山中に人なんているはずがないのに、確かに。何者かの声が私の耳朶を打った。草を踏みしめる音、近付いてくる気配。少しだけ視線を上げれば、眼前に足が見えた。

「そこの野良犬。俺の声が聞こえているなら、返事をしろ」

馬鹿言うな。こっちは何日も何にも食べていないんだ。咽喉も渇ききっていて、返事なんて出来る状況じゃない。それくらい察しろ。声が出ないから、心中でそう零す。残り少ない気力を訳の分からない男に費やす必要はない。

私が黙っていると、男は忌々しそうに舌打ちをする。そして私の髪をぐいと掴むと、乱暴に上向けた。ぼやけた視界に男が映る。

「…女か」

男は顔を見た瞬間、そう言った。一目見ただけで、私の性別を見抜いたらしい。それがどうした。私は女で、あんたは男じゃないか。いちいち口に出して確認するようなことじゃない。

あまり迫力のない目で、男を睨み付けてやる。すると男は、少し面白そうに鼻を鳴らした。無駄に高価な着物に、腰に差した大小。己の価値を信じて疑わない、傲岸不遜な目付き。身分を笠に着て、鼻っ柱を高くしているとすぐに分かる。

…吐き気が、する。