〜青春徒然番外篇〜 | ナノ







『確か氷帝ってこのへんだったと思うんだけどなあ………あ、あった』


7月某日。

暑さに茹だっていたのに加え、昨日の夜も蒸し暑さの所為でぐっすり眠れなかったため眠気に襲われていてぼうっとしていた僕は、国光に「見ていて鬱陶しい、しかも邪魔だ」と一蹴され、やる気が出ないのなら気分転換でもしてこいと休憩を与えられた(もっと詳しく言うと厄介払いされた)。
確かに今の状態で部活に出ていても迷惑なだけなのは重々承知だったが、それでも、元々運動神経の違いがあるとはいえ、頑張ってる部員やもう一人のマネージャーである葉樹を見ていると、どうも休むのは気がひけて。
そんな僕を見兼ねて、乾が提案してくれたのは「氷帝への偵察」だった。


『優しいよなあ、乾。態々気分転換の“理由”を作ってくれるなんて』


勿論、乾だけじゃなく青学、そしてテニプリの世界はみんな優しい。

国光は呆れながらも出かける前にスポーツドリンクを買い与えてくれたし、葉樹も今日の買出し当番を代わってくれるって言ってくれたし、秀くんなんか本気で心配してくれて安心させてあげるには少し時間がかかったし、リョーマはお気に入りだろうに、FILAの白い帽子を貸してくれた。
(無くさないでくださいよ、って釘さされたけど。)

他のレギュラー陣も心配してくれたし、荒井やまさやんなんかもなんやかんや気遣ってくれてたしね。
(まあでも荒井に「元気がない美香先輩なんて気持ち悪いっスよ!」といわれたのはムカついたからテニスボールを投げつけておいた)


みんな優しいよな、なんて思いながら意気揚々と出発したものの、重要なことを忘れていた。




『僕、一人で氷帝に来たことない………っ!!!』




なんて、今更焦ってもどうしようもないし(そもそも連絡しようにも青学テニス部は今まさに活動中だ)、偵察しにいく場所である景ちゃんたちに助けを求めるわけにも行かないよね〜。
仕方なく、道行く人に尋ね、やっとこさ辿り着いた氷帝学園。



『毎度ながら校門からすでに跡部のオーラを感じる嫌味な学校だな』



勿論、本気で言ってるわけじゃあないけれど、此処までくると窓ガラスのひとつふたつ壊してから帰りたくなるよねえ。
(絶っっっ対にやるんじゃねえぞ by跡部)



てか、テニスコートまでどうやって行くんだっけ?
うーむ、自分の方向音痴を舐めてたよ。



「何悩んでるの?」

『テニスコートまでの行きかたを考えてるんだよ〜』

「テニスコートに何しに行くの〜?」

『勿論偵さ……うわおジロちゃんっ!?

「(気付くの遅いC〜…)」


あっさり氷帝のレギュラーに偵察しに来たことをバラしてしまった…


「テニスコートならこっちだよ〜!」

『………え、案内してくれるの?』

「うん!偵察でも、美香に俺のテニス見て欲C〜んだ!」


そうやって悪戯っぽい笑みを浮かべるジロちゃん。


『っ、ジロちゃん可愛い!!!』

「う、わ!?」


あまりにも可愛かったから、ジロちゃんに抱きつく。
驚きながらも抱きとめてくれたジロちゃんの身体は思ったよりも逞しくて、こんなに可愛い顔をしていても男の子なんだな、なんて変なところで実感してみたり。

…まあ、おもいっきり外で抱きついたから、氷帝のテニス部のファンで、これからテニスコートに向かう途中だったのであろうお姉さまにちょっと睨まれてしまったがそんなことを気にする美香ちゃんではないのだ!



『っと、いけない!部活に行かなきゃだったね!』

「うん!でも、その前に、ちょっと寄りたい所があるんだけどE〜?」

『いいけど、何処に?』

「こっちだC〜!」



ジロちゃんに手をひかれるまま着いていく。
辿り着いたのは、木が茂っていて、風通しのいいところだった。


『うわ!此処、すっごく涼しい!』

「でしょでしょ〜?えへへ、此処は俺のお気に入りのお昼寝スポットなんだよね」


ゆっくりと寝たいから皆には秘密だよ?とジロちゃんに言われて、なんだか秘密を共有したみたいで笑みが毀れる。


『確かにお昼寝には快適そうだね』

「うん!美香にも教えたかったんだ!」


どういって笑うジロちゃんは、本当に可愛い。


『ありがとう、ジロちゃん』

「うん!

 ……でも、此処に来ると眠くなるんだよね…」


『狽ヲえっ!?部活は!?』

「ちょ、っと……だ、けだ………C…………」


そういい残して、僕の膝を枕に寝息を立て始めたジロちゃん。
ワオ、お休み三秒!!!




風が吹く度にふわふわと揺れるジロちゃんの髪を撫でる。


『男の子なのに柔らかい髪……。羨ましいぞジロちゃん』


ジロちゃんの柔らかい髪と、夏なのに爽やかに吹く風と、規則正しい寝息は、僕も眠りへと誘う。


うん、もともと僕今日は寝不足だったしね。



此処で寝たら、ある程度の時間でジロちゃんを起こす人がいなくなってしまう。
だから起きていなくちゃと頭は理解しているんだけれど、だんだん目蓋が重くなってくる。




『zzzzz…』
「zzzzz…」







気付いたら、僕も一緒に寝息を立てていた。
















(規則正しい寝息と爽風に誘われて)


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