『重なる奇遇』

 初めて梟谷で話した生徒の名前は赤葦京治くん。私が職員室前で田島先生っぽい人を探していると遠慮がちに声をかけてきてくれて。事情を説明すると田島先生を連れてきてくれた。先生から私をよろしくと言われた時はとりあえず引き受けた感が滲み出とって、初対面やのに笑いそうになった。

 私は、教室に入るなり物珍しさからか、色んな人から声をかけて貰うて、孤立するような事は無かった。教壇から見て1番右端に居る赤葦くんの事をチラリと見やるけど、赤葦くんは静かに教科書を引き出しから取り出しよった。部活とかせんと、勉強に集中するタイプの、大人しい人なんかな? ってそん時は思いよった。

 それが放課後、バレー部顧問の先生と一緒に体育館に足を踏み入れてバレー部員と顔を合わせた時、そこに赤葦くんが居って、ビックリした。しかも副主将て。まじか。
 赤葦くんの事をまじまじと見つめてみると、制服姿では分からんやったけど、足とか腕とかにはちゃんと筋肉がついとって、そこでようやく赤葦くんがバレー部である事に納得した。そういえば何回か試合で観た梟谷のセッターの格好によお似とうわ。まぁ、本人なんやから、当たり前か。

 そんな事を思いながら皆の自己紹介を聞いて、「皆さん、これからどうぞよろしくお願いします」とお辞儀をすると皆から野太く「シァス!」と返された。あぁ、この感じ、なんや懐かしいなぁ。懐かしさが私の口角を上げさせる。先生からの指示を聞いた後、バラバラと散らばりだす部員の中に居た赤葦くんを見つけ、声をかける。

「何か分からない事あったら、白福さんや雀田さんだけじゃなくて俺にも聞いて」

 そう言ってコートへと向かって行く赤葦くんの背中を見つめ、私も雀田先輩達の元へと歩き出す。話してみるとちゃんと愛想良く言葉返してくれるし、大人しいって訳でもないんかな? そんな風に、赤葦くんに対する印象を変えながら。



「なまえちゃん入ってくれて本当に助かった〜! これから、よろしくねっ!」
「てか、なまえちゃんってどうやって帰るの〜?」

 部活も終わりの時間となり、雀田先輩達からそんな声をかけられる。休憩時間に仕事を再開した私を心配して後を追ってきてくれた先輩達はどうやら途轍もなく優しいようだ。なんてええ人達なんや。先輩達の気遣いの言葉にジンときつつも「電車で帰ります」と言葉を返す。

「そっかー。駅だったら私達と逆方向だ……。帰り道分かる? 乗り継ぎ方とか……」
「アプリとかあるし、大丈夫です。色々と気を遣って貰うてすみません」

 朝は親に車で送って貰うたから、どうにかなったけど。帰りは親も仕事あるし、歩いて帰るしか無い。不安があるっちゃあるけど、何とかなるんやないかな。

「でも……、心配だなぁ」

 尚も心配そうな表情を浮かべる先輩達になんだか申し訳なさすら感じてくる。

「みょうじさん、俺も駅の方面なんだ。木兎さんの自主練に30分くらい付き合ったら俺も帰るから、良かったら送って帰ろうか?」

 どうしたもんかと思い悩んでいると、赤葦くんからそんな提案を受ける。

「ええの? 正直そうして貰えると助かる!」
「うん。じゃあ30分待って貰う事になるけど、良かったら見学でもして時間潰してて」
「ありがとう!」

 赤葦くんに助けて貰うのはこれで2回目や。それにしても家の方向まで一緒やなんて。どこまで赤葦くんと奇遇が重なるんやろう。不思議な縁やなぁ。


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