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 夏休みも8月になって、夏休みが終わるまであと数日となった。あれから、影山くんとは一切連絡を取っていない。私は宿題をしたり、勉強したり、クラスの友達と遊びに行ったりとあの時影山くんに話した通りの夏休み生活を送っていた。
 
 本当は夏休みの間も影山くんとやり取りする事あるのかなぁ、なんて期待を抱いていたけどバレー尽くしの影山くんになんでもない内容のメールを送るのは、なんとなく気が引けて、結局私の方からメールを送る事が出来なくて、影山くんからのメールを待っていた。だけど、今の所影山くんからの連絡は何にもなくて、もう私の事なんて頭から抜け落ちちゃってるんじゃないかな……なんて不安が頭をよぎる。

「影山くん、宿題ちゃんとしてるかな…」

 ぽつりと言葉を吐き出してみても、ガランとした自室にはその言葉を拾ってくれる人がいない。言葉が宙に舞ってそのままどこかへ消える。

「会いたいなぁ……」

 夏休みに入る前に撮ったあの写真は捨てられずに、今でも私のスマホの中にある。それを時々眺めては会いたいという気持ちを募らせていた。あの写真を見ても会いたくなるだけなのに。そう分かっていてもついつい見てしまう。こんなの影山くんにバレたら盗撮だって、怒られちゃうかな。……いつかはちゃんと消さないと。そんな事を思いつつも私の指はまたあの写真を見る為に動いていた。

「……もうちょっと格好良い所撮れば良かったかな」

 私のスマホに居る影山くんはいつもの影山くんといえばそうなんだけど、独特な方の影山くんだ。寝顔も可愛いんだけど。あのキリっとした表情も見たいなぁ。そんな我が儘な事を画面を見つめながらぼんやりと考えているとピコン、とメッセージの通知をスマホが告げる。
 メールとは違った通知音に心なしかガッカリしつつも、緑色に光る画面を開くと1年3組のグループメッセージからの通知が届いており、送り主である子の内容を読むと夏休みも残り僅かなので最後の週にクラス会をしようという内容だった。
 そのお誘いに何人かの生徒が直ぐに肯定の意を返しており、私も“参加したい!”と画面をタップさせて、参加の旨を伝える。すると直ぐに何人かの既読マークが付き、主催者である子から“なまえ、影山のアドレス知ってたよね? 参加するかどうか聞いてくれない?”とお願いをされる。私はそのお願いにドキリと脈打たせながらも“分かった”と直ぐに返事を打つ。

「影山くん、来るのかな……」

 そんな不安が口を吐いて出る。こういう集まりとかよりもバレーの練習して方が有意義だって考えの持ち主だろうから、聞くだけ無駄な気もするけれど、聞かないのも悪いし、なにより、影山くんに連絡する理由が出来た。その事に胸を高鳴らせながら久々にメールボックスを開く。私のメールボックスは影山くん専用といってもいいくらい、“影山飛雄”の名前で埋まっている。その事に胸をまたときめかせつつも、新しい内容をそこに刻む。

―影山くん、バレーお疲れ様。今度、クラスの皆でクラス会を開こうってなってるんだけど、影山くんもどうかな? バレーで忙しかったら、私が皆にうまく言っておくから、無理はしなくて大丈夫だよ。時間がある時にでも返事下さい

 何度も確認してゆっくりと送信ボタンを押す。何週間ぶりかに送ったメールに指が震える。送信してしまったそれはもう誤字をしていたとしても取り消しの効かないモノになってしまっている事は分かっているけれど、それでも送信ボックスに増えた内容を何度も確認せずにはいられなかった。

「っ!」

 そんな事を何度も繰り返していると思いのほか早くにメールの受信を伝える通知音が鳴って肩がビクつく。目を閉じて肺に深く空気を取り込んでから受信ボックスを開く。そこには頭に浮かべていた人物からのメールが届いており、開くのさえ緊張する。

―みょうじは行くのか

 質問に対して返ってきた内容が質問だった為、ほんの少し拍子抜けしてしまう。

―うん。行くよ。夏休み、暇だし

 こんなに長いと感じる夏休みは初めてだなぁ。なんてぼんやりと考えているとまた直ぐに返事が来る。

―みょうじが行くなら行く

 その内容を見てまた胸が高鳴る。私が行くならって……。影山くん、それはどういう意味なの? それを尋ねる勇気もなければ自信も無い。だけど、影山くんに夏休みの間に会える。その事は単純に嬉しい。にやける顔を誰も居ない事をいい事にそのままにさせて“分かった! 日時とか分かったらまた連絡するね。じゃあ、バレーの練習頑張ってね! おやすみ、影山くん”と画面をタップさせてメールを送る。

 夏休みって本当に長い。早く、クラス会の日にならないかな。……というか服、どうしよう。最近買い物してなかったし……何を着て行こう?

 そんな事を考え出すと机に座ってなんていられなくて、クローゼットの前へと移動して色々な服を取り出して鏡の前に移動してああでもない、こうでもない、なんて1人ファッションショーと繰り広げるハメになったある日の夏休み。
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