孤独

コレ の裏話的なもの

「勇作殿」
「兄様」
「顔色が優れないようですが」

 心配そうな顔色などそれとなく作ってしまえば良い。声色だってその気になればそれらしいものが出せる。本気で心配している体を装って状況を把握しようとすれば、目の前の男は「なまえさんが心配で、」と憂いを見せる。その純粋無垢な心配を見せられた俺は、思わず舌打ちが飛び出しそうになった。

「何かあったんですか?」
「そ、それは……その、」

 言いにくそうに口をもごつかせている様子に、思わず口角が上がってしまった。この男が必死に隠そうしている出来事は、他でもない俺が仕組んだことだというのに。それなのになまえを想い庇おうとすらしてみせる男の純朴さが見ていておかしい。……この世にある穢れの全てを知らないような瞳を浮かべやがって。

「心配になるほど弱っているのであれば、手を差し出せば良かったでしょう」
「……っ、」
「……好いていたのではないのですか? なまえのこと」
「い、いやそれはっ……、」

 とにかく、また今度様子を窺いにでも行ってみます――そんなことを口早に宣い、加えて「相談に乗って下さってありがとうございました。兄様」などと清廉な言葉で結び立ち去ってゆく勇作殿。……どいつもこいつも。結局、自分のことが大事で清く在りたいってことかよ。

「……チッ」

 俺のことが好きだと言うのであれば。俺の為に自身の手すら汚せるはずだろう。そうすることに、なんの罪悪感も浮かばないはずだろう? なのに、どうして。他の人間はそうすることに戸惑いや罪悪感などというものに囚われるのか。……俺には分らねぇ。
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