牛島くんと愉快な仲間達


 お昼時の食堂は沢山の人で賑わっている。普段あまり足を踏み入れることがない場所に新鮮味を感じていると、向こうのテーブルから「おーい! 若利、こっち!」と山形くんの呼びかける声が聞こえた。

「みんなお待たせ〜! 今日はなまえちゃんも一緒に食べるけど良い?」

 覚さんの言葉にテーブルを囲っていた男子生徒が一斉に私を見つめる。座っていても伝わってくる体格の良さに、思わず足が竦んで牛島くんの後ろに下がる。……こ、怖い。特にあの、奥に座る眉毛が凛々しい弁慶みたいな人……。

「あぁ、構わないよ。みょうじさんだよね? 男だらけでむさ苦しいけど、良かったら一緒に食べよう。あ、俺は大平獅音っていいます」

 弁慶みたいだと思ったその人は、牛島くんの後ろに居る私に向かってニコリと笑いかけてくれた。人は見かけによらないとはこのことだな。見た目と喋り方と名前のギャップを感じ、大平さんに対してそんな印象を抱く。

「あ、ありがとうございます。私、みょうじなまえっていいます。いつもはお弁当なんですけど、今日は牛島くんと覚さんが誘ってくれて。バレー部の集まりなのにお邪魔しちゃってごめんなさい。食べたらすぐに帰ります……!」
「隼人が言ってたみょうじさんってこの子か!」
「そう。みょうじさんが食堂に居るってなんか新鮮だな! 俺も英太も大歓迎だぜ! すぐ帰るなんて言わずに、まぁ座れよ」

 座るよう促してくれる山形くんにお礼を言って席に着くと、「みょうじさんは食堂初めて?」と大平さんが微笑みながら尋ねてくる。なんか、迷子の子に優しく声をかけるお巡りさんみたいだな。

「あ、はいっ。人が多い場所が苦手で……。大平さん達はいつもここで?」
「うん。バレー部の3年生は大体ここに集まってみんなでご飯食べてるかな」
「そ、うなんですね。みんな、仲が良いんですね」

 柔らかい口調で語りかけてくれる大平さんにたどたどしく返事をしていると、山形くんから英太と呼ばれていた灰色の髪色の人が「てかさぁ」と口を開く。

「みょうじさんなんで獅音に敬語なんだ? 同い年ならタメで良くね?」
「あっ、えと……」

 確かにそれはそうなんだけど……。牛島くん以外の人と話すなんて滅多になかったから、緊張がそれを許さない。なんと返そうかと答えあぐねていると「セミセミ〜、なまえちゃんは人見知りなんだよ〜」と覚さんが助け舟を出してくれた。

「セミセミってなんだ! やめろ! みょうじさん、俺の名前は瀬見だから! セミセミじゃないから!」

 必死の形相で訴えてくる瀬見さんに気圧されつつも名前を必死にインプットし「わ、分かりました……!」と頷きを返す。

「人には人のペースってもんがあんだよ。なぁ、みょうじさん? あーでも、ゆっくりで良いから、敬語外してくれると嬉しいかな。あと、俺の駄洒落にもうちょっと笑ってくれても良いんだぜ!」

 ドヤっとした顔で見つめてくる山形くんの言葉には「う、ううん?」とどっちつかずの返事をしてしまう。分かったって言っちゃうと今後愛想笑いし続けないといけないし、嫌だって言ったら山形くんを傷付けちゃうかもだし。どう返そうか頭を悩ませていると大平さんが「隼人、困っているからやめなさい」と間に入ってくれた。

「隼人くんは雪男だもんね〜」
「おい、どういう意味だ」
「言えてる。隼人の駄洒落って面白くもねぇのに本人爆笑待ちみたいな顔するんだよな。そっちのが何倍も面白いんだよ」
「英太まで……! 獅音は面白いよな? な?」
「……ノーコメントだ」
「オイ!」

 流れるように交わされる会話が面白くて、つい声を上げて笑ってしまう。みんな思っていたより気さくで、初めましての私にも優しく話しかけてくれる。牛島くんの周りは、良い人で溢れてるんだなぁ。私には作れなかった関係性を築いてる牛島くんを羨ましくも感じて、牛島くんの方を見てみると、牛島くんも私を見ていた。

「良い仲間だね」
「そうだな」
「牛島くんが羨ましいよ」
「何故だ?」
「私にはこんな風に笑って過ごす友達が居なかったし、作ろうとしてなかったから。……だけど、こうやって牛島くん達と一緒に過ごしてみたら、友達ってやっぱり良いなぁって思う」

 私を見ていた視線を目の前ではしゃいでいるバレー部へと向けながら「みょうじが楽しいと思うのなら、いつでもここでご飯を食べれば良い」と言ってくれる牛島くん。その視線が優しくて、それでいてどこか誇らしげなのを見て牛島くんにとってバレー部がどういう存在なのかを知る。……やっぱり良いなあ。

「良いのかな。バレー部の空間に私が入っちゃって」
「構わない。皆、受け入れてくれる」
「ありがとう。……私、牛島くんと知り合えてなかったらこのまま暗い3年間を送る所だった。牛島くん、私と友達になってくれて本当にありがとう」
「……みょうじと2人でも構わないが。こうやってみょうじが笑ってくれるなら、みんなで食べるのも良いな」

 ほんとにね。私、牛島くんのこと好きだけど、バレー部のみんなも好きだ。

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