これが好きってことか


 窓口業務を終えた私と、防衛任務を終えた鈴鳴第一メンバー。いつものように結花ちゃんが台所に立って、その手腕を振ってくれて。そこに微力ながらの力添えをして、食卓に並べられた食事。それがいつもより豪華なのは、今日という日が12月24日だからだろう。それと――。

「なまえさん歓迎会、忘年会、新年会、それと……えっと、」
「クリスマスパーティーだね」
「あ、そうです!」

 太一くんの言葉に来馬さんが付け加え、このパーティーの中身が明かされる。鈴鳴第一は来馬さんと私以外は県外に実家があるので、年末年始は帰省することになっている。来馬さんも実家に戻るらしく、鈴鳴第一として集まれる今日に全部を詰め込もうということになった。

「なまえちゃん、年末年始1人で平気?」
「はい。留守は任せて下さい」
「一応ぼくも顔を出しには来るけど……年越しを1人でさせちゃうのが申し訳ないな」
「その分今日楽しむので、平気です」
「そっか。でも、寂しくなったらいつでも電話してね」

 あ、別にぼくじゃなくても、誰でも良いんだけど……! そう言って焦り出す来馬さんを笑って、「嬉しいです」と返せば来馬さんも同じように笑い返してくれる。頼りたい時に頼れる人たち。その人たちが居るだけで、年越しが1人だったとしても寂しくはないだろう。



「プレゼントターイム!」

 食事がある程度進んだ頃、太一くんが立ち上がって高らかに宣言してみせた。このパーティーが決まった時、太一くんが「じゃあプレゼント贈り合いましょうよ!」と提案したことでそれぞれがプレゼントを持ち寄ることになっていたのだ。

「じゃあぼくから。気に入ってもらえると嬉しいな」

 そう言って来馬さんが渡してくれたラッピング。中にはお揃いのニットが入っていて、そのニットにはそれぞれのイニシャルが色違いに刺繍されていた。というかこのニット、めちゃくちゃ良い素材が使われている。触り心地の良さにうっとりしていると、「じゃあ次はオレ」と鋼くんが名乗りを上げた。

「わっ、ルームウェア! しかも色違い!」
「すごい、もこもこ」

 結花ちゃんと2人してもこもこのルームウェアにはしゃぎ、今度お揃いで着ようと計画を立て。じゃあ来馬さんからもらったニットを着て買い物にも行こうとワクワクしていれば、「なまえさんたちは確か一緒に買いに行ったんでしたよね?」と太一くんから問われた。……そうだった、プレゼント交換会はまだ終わっていなかった。

「私と結花ちゃんからはこちらです!」
「マフラーと手袋だ」

 差し出したラッピングを開けた来馬さんがそれらを取り出し、「みんなイメージカラー揃ってるね」と笑う。確かに、来馬さんがくれたニットも、鋼くんがくれたルームウェアも、私たちのプレゼントも。全員、それぞれに贈る物の色が同じ。どうして揃ったのかっていう疑問は、マグカップを前に解消される。お揃いがまたたくさん出来たな。

「おれも! イメージカラーで買ってきました!」
「すごい、みんな色違い揃いだ」

 太一くんが得意げに笑って取り出す袋。それを受け取り中身を取り出してみると、確かに私の手元には緑色の人形が届けられた。この人形は可愛いような……ちょっと怖いような……? そんな感想を抱く私たちに、「これは魔除け人形です!」と太一くんが胸を張る。

「魔除け人形って……」
「え、だめですか?」
「いやだめじゃないわよ。ありがと、太一」

 結花ちゃんの言葉に一喜一憂する太一くん。その様子を微笑ましく思いつつ、全員でお礼を言い合う。この子が居てくれるなら、私は年越しを1人で過ごさなくて済みそうだ。



「あ、なまえさん。トレイ、おれが持って行きます!」
「ありがとう、太一くん……うわ!?」

 片付け中、机にあった食器をトレイに載せて運んでいると、バランスを崩しつんのめってしまった。瞬時に脳内に次に起こるであろう大惨事をよぎらせたけど、それは現実にならず。私のお腹に回された腕が、ぎゅっと抱き寄せてくれたおかげだ。

「なまえちゃん、怪我ない?」
「だ、大丈夫。お騒がせしちゃってごめんね、結花ちゃん」

 一部始終を見ていた来馬さんと結花ちゃんが溜息を吐く。……この感じ、普段太一くんがされてるやつだ。そのことに気付くと同時に、背中に逞しい気配を察知してそこで自分の体勢を認識する。そうすれば一気に襲ってくる恥ずかしさ。……もしかして、私、今……。

「なまえさん」
「ひゃいっ」
「……ふっ」

 腕をゆっくりと外され、慌てて2歩前に出る。そうしてくるりと振り向き私を抱き寄せてくれた鋼くんに「ありがとう」と告げれば、「怪我しなくて良かった」と微笑まれた。あぁ、その顔、恥ずかしいけど嬉しい。

「鍛錬していて良かった」
「……仰る通りです」
「ははは。体現出来たようで何よりだ」

 私を守ってくれる鋼くん。その優しさは、どこか鈴鳴のみんなを想う時の顔色と似ている。でも、ちょっとだけ違う。その違いは私だけに向けられているような気がしてしまうのは、自惚れなんだろうか。

「いつもありがとう」
「じゃあ、今度お礼を貰っても良いか」
「うん。何が良い?」
「買い物。一緒に行こう」
「……うん」

 そんなので良いの? なんて問いは愚問だって、きっとお互いが分かってる。

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