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 影浦隊入隊が無事に決まったのは良いものの。今はまだランク戦の真っただ中ということもあり、正式入隊はランク戦が終わってからということになった。
 形の上では“フリー隊員”となっているので、数人から“チームを組まないか”と声をかけられることもあり。その度に断りを入れていれば「もーじれってぇなぁ! 親睦会開こうぜ! そしたらなまえはウチのもんだってアピれんじゃん!」というヒカリちゃんの言葉によって、影浦隊が非番の日に親睦会が開かれることになった。

「お邪魔します」
「おー! なまえ、よく来たな」
「おかえり、なまえちゃん」
「おかえり……か」

 何度か足を運んだことのある影浦隊。そこでゾエから「おかえり」と言われ、じんわりと胸に込み上げるものを感じる。……ここは私の作戦室でもあるんだ。そう思うとなんか嬉しくて、目がうるうるしてしまう。

「みょうじさん、嬉し泣きしてる」
「え、そんな。ゾエさんそれ見て嬉し泣きしちゃうよ」

 入口でわいわいはしゃいでいれば、奥の長椅子に横たわっていたカゲが「うるせー」と言いながら顔を覗かせた。そうして影浦隊全員集合した所で、左手のスペースに移動し持ち寄ったお菓子やツマミを開けてゆく。

「ここまでしたらなまえも影浦隊に入るしかねーよな!」
「あはは、ありがとうヒカリちゃん。絶対に入らせて頂きます」
「じゃあなまえちゃん入隊を祝して! カンパーイ!」

 つい最近も聞いたゾエのかけ声。それに口角を上げながら一緒にコップを持ち上げ、ゾエ、ユズルくん、ヒカリちゃんと乾杯してゆく。最後にカゲに「よろしくお願いします」と向ければ、カゲも「ん」と言いながら自分のコップを寄せてくれた。

「よっしゃ! 今日は祭りだ〜! 楽しむぞ、なまえ!」
「うん!」

 ……これからはみんなと一緒に、もっと強くなって行けたら良いな。



「起きろ。帰るぞ」

 ゆさゆさと体が揺れる。その揺れが意識を呼び机に伏せていた体を上げさせる。そうしてゆっくりと目を開けば、目の前にはカゲしか居なくて。ふと周囲に視線を泳がせば、ここが先程まで盛り上がりを見せていた作戦室に違いないと確信する。
 
「ヒカリちゃんたちは……?」
「ゾエが送ってる」
「そっか。……ごめんね、後片付け出来なくて」
「別に。ここは普段から散らかってる」
「……へへ。私、どんくらい寝ちゃってた?」
「30分くれーだろ」

 スマホの時刻を見つめ、もうそろそろ帰らないとだと思えば「帰るぞ」と告げるカゲ。その言葉に謝罪は要らないと知っているので、「いつもありがとう」と伝えれば、何故かカゲは隣に腰を下ろした。

「カゲ……?」
「帰る前に……コレ」

 そう言って差し出されたのは1つのカプセル。何度も手にしたソレをカゲから差し出されたことを不思議に思い、まじまじと見つめていれば「やる」と押し付けられてしまった。受け取ったそれを慣れた手つきで開ければ、中には今まで1度も見ることのなかった形のロケットペンダンド。

「シークレットっつっても、ガキっぽいことには変わんねぇな」
「え、いつの間に……?」
「……気まぐれでやったら出た」
 
 私はあんなに回しても出なかったのに……。どうしようカゲ、これで全種類コンプリートしちゃったよ。……てかコレ……。

「私が貰っても良いの?」
「要らねぇなら返せ!」
「……要らねぇとは言ってねぇだろ」
「……チッ」

 カゲから貰った最後の1つ。これはまるで私の気持ちそのものだ。ねぇカゲ、私やっぱり待てそうにない。

「カゲ、」
「お前、鈍すぎ」
「えっ?」

 カゲの言葉に自分の言葉を止め、その目を見つめる。そうすればカゲは不機嫌そうに眉を寄せ「形の意味とかなんも思わねーのかよ」と問う。……形の意味……だから、私がカゲに抱いている形そのもの。……それを、カゲがくれた。このハートマークは、私の気持ちで……もしかして。

「好きって、言ってくれてる?」
「じゃねぇとこんなもん渡すかよ」
「……ふはっ。そっか……そっかぁ」

 私たちの気持ちはイコールだって、なんとなく思ってた。それを口に出してなかっただけで、今日ようやくそれを言葉にしようとした。……でもカゲは言葉だけじゃなく、形にしてくれたんだ。その意図を汲んだ瞬間、このロケットペンダントが宝石くらいの価値があるように思えてくる。

「大体、俺ぁ散々待ったんだ。だったら普通俺に言わせるだろ」
「……もしかして、あの時“待った”って言ったのはコレを渡したかったから?」
「……仕方ねぇだろ。あん時は持ってなかったし、」

 カゲの耳、真っ赤。……どうしよう、カゲが可愛くてしょうがない。これはあの時に待った甲斐があったな。

「カゲ、ありがとう」
「……言っとくけど、俺が先だからな!」
「うん」

 好きと告げる順番に意地を張るカゲが可愛くて可愛くて。照れ臭いのか、いつまでも目を合わせようとしないカゲに「カゲ、こっち向いて?」と願い出る。そうすればカゲはゆっくりとこちらを向くから。その顔を両手で掴んで、ぐっと手繰り寄せる。

「……っ、」
「大好きだよ、カゲ」

 鼻先に走った柔かい衝撃に目をパチクリとさせるカゲ。……あぁ、私はこんな顔をしていたんだな。この顔はなんというか……何度も見たくなる顔だ。カゲだけいつもこんな思いをしてたんだと思うとちょっと悔しさも滲むけど。ようやく仕返すことが出来たし、良しとしよう。
急所にはとどめのキスを


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