▼ ▼ ▼

 お昼休み。それを知らせるチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出し、3年B組へと駆け込みボーダーメンバーに招集をかけた。王子くんはどこかに行っていたので、今回は摩子ちゃん倫ちゃんゾエに来て頂いた。

「何々。何この集まり」
「ご相談がありまして」

 倫ちゃんの言葉を受けて机に両肘を付き両手を口元に持って行けば、この集まりが一気に会議っぽくなる。私のいつになく真剣な表情に、摩子ちゃんが「どうしたの」と心配そうな顔色で尋ねてきた。

「私、ボーダーに入ろうと思って」
「良かった〜……。ゾエさん心配してたんだよ」

 ゾエとはさっきの出来事以降初めて会うので、今の言葉を聞いてゾエが椅子に深々と体を預けてみせる。その様子にお礼と謝罪を告げたら、「カゲと教室戻った時、大変だったでしょ?」と今度はやけに嬉しそうな声色へと様子を変えてみせるゾエ。

「え、どういうこと? なんでなまえと……あー」

 倫ちゃんの疑問符は最後まで紡がれることはなく、途中から何か察したであろう言葉は尻上がりに弾む。それを受けて広がるニヤニヤとした笑み。……この感じ、C組で散々頂きました。もうお腹いっぱいです。

「それで、いつから好きなの」
「摩子ちゃんが1番ぶっ込んでくる感じね」

 摩子ちゃんの言葉に撃沈しつつも、だからこそここに来たんだと気持ちを切り替える。こういう相談を出来るのは、ボーダーに属する女子たちだ。

「ねぇねぇ。いつからいつから!」
「ゾエさんも気になるけど……この恋バナに居ても良いの?」

 ゾエがちょっとだけ困った様子を見せる。その巨体を慌てて掴み、「お願いゾエ。居てお願い」と懇願するのは「カゲを1番知ってるのはゾエでしょ」――こういう理由だ。その言葉によってその場に居る全員が「なるほど」と納得をした所で、会議が始まる。

「まず。カゲに告白するタイミングっていつが良いと思う?」
「えっでもむこうはサイドエフェクト持ちだよね? もうバレてんじゃない?」
「さっきの感じだと、バレてる可能性はある」
「なまえちゃん、カゲと何話したの」
「ボーダーへの志望動機を話して、受け入れてもらった……的な」

 倫ちゃんの疑問に、その可能性はあると答えればゾエが根幹を尋ねてくるから。やり取りをざっくりと伝えれば摩子ちゃんから「面接じゃん」と至極真っ当なツッコミを喰らう。確かに、あれは面接といっても過言ではなかった。……前半面接、後半宣戦布告みたいなものか。

「タイミングも何も。好きなら言っちゃえば良いじゃん」
「それはゾエさんも思う。見てるこっちがもどかしくなりそうだし」
「問題はそこなんですよ。いや、告白を受けてもらえるかも問題だけども」
「えー、それは……まぁ。ゾエさんが断言するものでもないか」

 口をもごもごとさせるゾエは、腕を組みそのもどかしさを消化させようとしている。私の恋愛事情で他人を悩ませていることに、少しの申し訳なさとむず痒さを感じながらも「ボーダーに入るのを受け入れてもらえたからには、それなりに強くなりたいんだよね」と悩みの続きを打ち明ける。

「それで、私が悩んでるのは“強くなる”ってどの程度って話」
「それは……え。どう、だろ」
「普通はマスタークラスになったらとかじゃない?」
「それだと結構時間かかるんじゃ……」

 ボーダー隊員でさえ定まらない程度問題。……やばい、私このままだと一生カゲに告白出来ないぞ。

「ちなみに、影浦隊ってどれくらい強いの?」
「……この場合、どの順位を言えばいいのかな」
「最高で良いんじゃ……。あ、でもハードル上げるのもちょっと」

 3人の目線が中心で落ち合い、そのまま私へと向かう。……え、何。ここでも強さの程度が異なるの? その戸惑いを受け取ったゾエが「実はゾエさんたち、つい最近降格されちゃって」と驚きの事実を告げてきた。

「こ、降格って……えっ。何したの」
「隊長が上層部を……こう、あの、アッパーといいますか」
「アッパー!?」

 ゾエの拳が下から上へと突き上がるのを見て、やはり水上くんが言った騒ぎの中心にカゲが居たことを知る。だから水上くんは“カゲに聞いた方が良い”って言ったんだ。……でも、カゲのことだからきっと仲間の為にしたことだ。

「それって、ユズルくんの為?」
「まぁ、そうだろうね。本人は“俺がムカついたからだ!”って牙剥いてたけど」
「はは、言いそう」

 カゲを思い浮かべながら笑えば、「うわ、大好きじゃん」と倫ちゃんから小突かれる。……こんな風に茶化されると、やっぱり恥ずかしいな。

「ウチは降格されたし、カゲは減点もされちゃったけど。でもすぐ強くなるから。なまえちゃんも“どこまで強くなるか”で悩まなくて良いと思う」
「そうかなぁ……」
「うん。それで良いんじゃない?」
「私もそう思う。“強くなれた”って思えた時で良いと思うよ」

 摩子ちゃん倫ちゃんの言葉を受け、「そうだね……!」と言い切りの形にして言葉を返せば、3人とも嬉しそうに笑ってくれる。この3人に相談して良かった。この3人がボーダーに居てくれて、良かった。

「まぁそれに、そういうタイミングってこっちの都合関係なしにやって来ることだってあるしね」

 ゾエが意味深に笑い、摩子ちゃん倫ちゃんの顔もニヤニヤとしたものへと変わる。その様子に戸惑いを浮かべれば、「それで。なまえはどういう所が良いなと思ったの?」とニヤニヤを言葉にしてぶつけられるから。
 恋バナを楽しむのに、性別もボーダーも関係ないんだなと今更ながらに実感するのだった。
ボーダーレス・トピック


- ナノ -