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 ボコボコにしてやるよ! という宣戦布告を受け辿り着いた施設。そこで色んなスポーツやゲームをして、その度にチーム替えをして楽しんで。ボコボコにされた記憶はないけど、頬っぺたを筋肉痛にはされるくらいたくさん笑った。
 一通りのゲームをこなし、最後に辿り着いたのは卓球台。これが終わったら私たちは全部のゲームを制覇したことになる。ここに来る前はボーダー隊員の中に私が混ざると……なんて心配してたけど、そんなのは杞憂だったし、ヒカリちゃんユズルくんのおかげでパワーバランスも良い感じになったと思う。

「チーム戦やろうぜ!」
「6人だから3チームだね。じゃあユズルとヒカリちゃんで1ペア。ゾエさんと鋼くんで1ペア。なまえちゃんとカゲで1ペア。これで良い?」

 ヒカリちゃんの提案にゾエが素早くチーム分けを行い早速始まる試合。はじめは「卓球ぅ?」と鼻で笑っていたカゲもいざ試合が始まれば目をらんらんとさせ、「ぶっ潰したらぁ!」と意気込んでいた。
 白熱した試合展開を何度か繰り広げ、迎えた最終決戦。ちなみにこの試合に負けたチームは最下位となる。対戦チームはカゲ・私チームとユズルくん・ヒカリちゃんチーム。全勝したゾエ・村上くんチームは高みの見物を決め込んでいる。

「おいみょうじ! ぜってぇ勝つぞ」
「うん……!」

 ちなみに、いつの間にか最下位になったチームが全員にジュースを奢るというルールが取り決められている。言い出しっぺは確かカゲだ。言い出しっぺの法則通りにならないようにする為にも、この試合は絶対に負けられない。

「よっしゃ〜! ユズル、良いぞ!」
「ヒカリはもっと球拾って」
「たまには譲ってやってんだよ」

 対戦相手として対峙するユズヒカチーム……というより、ユズルくんの独壇場になっている。ユズルくんはスナイパーだから、こういう反射神経を使うスポーツが得意なのだろうか?

「なまえはもっと腕振れ!」
「こ、こう……?」
「あー、惜しい!」

 敵であるはずのヒカリちゃんがいつの間にか私の横に来て、一緒にラケットを持って素振りを行う。試合そっちのけで2人して素振りに夢中になっていると、「おいみょうじ! 試合放棄すんな!」とカゲの怒声が飛んできた。……危ない、まだ試合の途中だった。もしかしてこれ、ヒカリちゃんの策略……?

「なまえちゃんにアドバイスしてるけど、ヒカリちゃんが1番下手だよ〜?」
「う、うるさい!」

 ……というわけでもなさそうだ。ゾエの野次に頬を染めながら向こう側へと戻って行くヒカリちゃんを含み笑い、最終試合に意識を向ける。カゲと勝利のハイタッチを交わせると嬉しいな。



「じゃあアタシは抹茶クリームフラペチーノにチョコレートソーストッピング!」
「オレはシトラスティーにユズソース追加。あ、アイスで」
「ユズルだけにユズ?」

 みんなのオーダーを必死に叩き込む私の横で「トッピングとかわけ分かんねぇことすんな!」とカゲが騒ぐ。それでも、みんなは構わず「サイズはトールで」「オレはショートで良い」などと注文を進め続けている。

 法則というのはやはり手堅く、勝利のハイタッチが出来なかった私たちは、代わりに罰ゲームのドリンク係を担うことになっていた。

「鋼もついて来い!」
「良いけど。注文係の為なら15分時間をくれ」
「……チッ」
「あはは、ズルはだめだよカゲ。一緒に頑張ろ」

 併設されているカフェまで行くことになっているので、そのお店のホームページを見ながらカスタマイズで盛り上がる面々。そのオーダーをスマホに打ち込んでいる途中で「もう行くぞ!」とカゲが歩き出すので、慌ててその後を追う。

「いやぁ〜……惜しかったね」
「みょうじこそズルしてたじゃねぇか」
「ん?」
「ユズルたちにわざと負けただろ」
「……真剣にやったよ? それで、負けちゃった」
「ハッ、そうかよ」

 とぼけてみれば、カゲはそれ以上の追及はしないでくれた。そのせいで私たちがジュースを奢るはめになっちゃったけど、カゲはそれを責めはしない。……そうだろうな、って信じて良かった。

「私のせいで負けちゃったから、お金は私が多く出すよ」
「勝負事に“誰のせい”もあるかよ」
「……ありがとう」

 カゲの不器用な優しさにじんわりと胸が温かくなるのを感じていれば、「行くぞ」とカゲに腕を掴まれ店の中へ。私の感情がどう刺さってるかはよく分からないけど、多分きっと痛くはないと思う。

「あ、待って。スマホ出す」
「ホットのブラックコーヒー3つとオレンジジュース2つ。……あと、ん」

 メモしていたスマホを取り出そうとしている間に注文を済ませ、その場を譲るカゲ。その視線に促されるように「じゃあ、ロイヤルミルクティーのホットをお願いします」と注文すれば再び横から腕が伸びトレイにお金が乗せられた。

「後ろの邪魔だ。行くぞ」
「あっ、えっ」

 一連の流れに驚きカゲを見つめると、カゲは再び私の腕を掴んで場所を移動する。そうして受け取り場所で飲み物を待つ間、「お金、返すよ」と言っても「良い」の一点張り。
 
「この前といい今回といい……。カゲには奢ってもらってばっかだ」
「別に、大したもんはあげてねぇだろ」
「そんな……、」

 そんなことないよ……! そう続けた言葉に迫力があったのか、カゲが一瞬たじろいだ。それも気にせず「カゲから貰うものが、大したことないなんてないから!」と続ければ、「わ、分かった! 分かったから!」と手で制されてしまった。

 だって、これだけは譲れないから。カゲから貰う物は、感情も、思い出も、何もかも。私にとっては手放しがたい宝物なんだよ。
この想いは何味ですか?


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