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 アミューズメント施設に行くまでには電車を経由するわけだけど。駅に着くなり「2番線だ」と言って村上くんが駅構内を先導するもんだから、私は唖然としてしまった。村上くんってこっちに来てまだ1年も経ってなかったよね? それなのに私より地元の駅に詳しいって……。

「もしかして村上くんって、」
「ん?」
「鉄道オタク?」
「ははっ違うよ、そうじゃない」

 辿り着いた答えは笑い飛ばされてしまった。違うんだったらなおさら疑問が深まるんだけどな。……あれか、村上くんも今日を楽しみにしてて、めちゃくちゃ予習してきたとかかな。

「サイドエフェクト、持ってるんだ」
「あ、カゲの?」
「そう。俺の場合は“強化睡眠記憶”といって、1度眠ればほとんどのことを記憶することが出来るんだ」
「そうなんだ。……あれ、そのサイドエフェクトって私が欲しいって言ったやつに似てるね?」
「あぁ。そうだな」
「良いなぁ〜」

 村上くんの表情にほんのりとした戸惑いが生じる。この前もそうだったよなと不思議に思っていると「オレの能力はそこまで良いものとは思えない」と沈む声。その言葉にハッとし、「ごめん。無神経だった」と慌てて詫びを入れれば、村上くんの表情が少しだけ元に戻る。

「みょうじさんが気にするようなことじゃない。それに、こういう風に出掛ける時はオレにサイドエフェクトがあって良かったと思える」
「私考えなしで言っちゃって……本当にごめんね。カゲがそうなように、村上くんだって辛い思いしてるよね」

 サイドエフェクトを持ってる人は、便利な所もある分、他の人より辛い部分だってあるはず。そのことをカゲの1件で気付いたはずなのに。1人反省会を脳内で開いていると「おいみょうじ。鋼が困ってんぞ」という声が顔をあげさせた。

「あっ、ごめっ、」
「いや。本当に気にしないでくれ」
「おめーもおめーだよ。持って生まれたんだからもっと胸張れや」
「そう、だな」

 ほんのりと曇っていた空気を、カゲが振り払うかのように「辛気臭ぇ。うぜぇ」と暴言を吐く。カゲって意外と人のことちゃんと見てるんだよなぁ。

「おいみょうじ。おめーまた失礼なこと考えてんだろ」
「…………そんなことは?」
「あんだな。オイコラ」
「わっ違うって! 褒めてたんだって!」
「じゃあ口に出して言ってみろや」

 カゲから逃げるように村上くんの後ろに隠れると村上くんが「ははは!」と声をあげて笑いだす。……良かった、村上くん元気取り戻したみたいだ。

「わ〜仲良しだ〜」
「ゾエさんって、いっつも嬉し泣きしてるよね」
「なぁなぁ! 向こう着いたらみんなでプリクラ撮ろーぜ!」

 私たちが騒ぐそのすぐ後ろ。ゾエは私たちを見て嬉しそうに微笑み、ユズルくんはそんなゾエを溜息混じりで見つめ、ヒカリちゃんは行った先のことを話している。このメンバー、全員自由で一緒に居ると笑いが絶えないな。

「あー? んなもん誰が撮るか」
「えっ、良いじゃんプリクラ。私撮りたいな」
「は? んじゃみょうじとヒカリだけで撮れ」
「何言ってんのカゲ。どうせならゾエさんたちも一緒に入ろうよ〜」

 ね? ユズル〜と振られたユズルくんも満更ではなさそうだし、村上くんも「プリクラ……」と花を飛ばしている。……カゲ、多対一ですけど? 勝ち誇ったように見つめる私に対し、カゲは「……あるかどうかも分かんねぇだろ」と逃げの一手。

「確か2階にゲームコーナーがあったぞ」
「あんのかよ!」

 その逃げ道を塞ぐかのように村上くんが言葉を発すると、カゲが悔しそうに歯噛みする。これはもうカゲの負けだ。「クソが!」というカゲの言葉に全員が勝利を喜び分かち合う。……ねぇ、プリクラ1つでここまで盛り上がれるって私たちって何歳?

「あははっ、やばい。おかしい」
「笑ってんじゃねぇ!」
「ふふっ。でもそういうカゲも楽しそうだよ?」
「……チッ。うるっせぇ」

 カゲがマスクをぐいっと上げる。カゲがマスクをしてる理由はきっとサイドエフェクトが関係してるんだと思う。でも、今みたいにマスクを上げるのは自分の気持ちを隠したいからだ。カゲの耳が少し赤くなっているのがその証拠。カゲは不器用で、分かりにくくて、だけどちゃんと優しくて。時々怖いけど、可愛い部分もある。やっぱり、カゲは私に色んな感情をくれる。

「2階のどの辺りにあるか、着いたら確認しないとだね」
「大丈夫だみょうじさん。マップも大体頭に入っている」
「……ねぇ村上くん。こんなこと言ったら無神経かもしれないけど」
「ん? なんだ?」
「私、やっぱり村上くんのサイドエフェクト凄いって思うよ」
「どうして?」
「だって村上くん、すっごく頼もしいから」
「……そうか。オレも、みんなの役に立てるのは嬉しいよ」

 村上くんの周りに花が戻ってきたのを感じ、ほっとしていると「おい! さっと来やがれ! お前らのことボコボコにしてやる!」と歩みを速めたカゲから宣戦布告をされてしまった。ボコボコは勘弁願いたいなぁ。苦笑を浮かべながらカゲのもとへ歩き出した時、村上くんから「カゲはああいうヤツだけど、よろしく頼む」と何故か頭を下げられた。そのことにハテナを浮かばせながら、「じゃあ私も、カゲのことよろしくお願いします」と頭を下げ返せば、村上くんは再び声をあげて笑うから。

「え、これどういう意味?」
「ははは、なんでもない。行こうみょうじさん」
「う、うん」

 村上くんの言葉の意味は分からないけど、みんなが楽しんでいることだけは分かる。……今日撮るプリクラ、目につく場所に貼ったらカゲ怒るかな?
幸せを閉じ込め眺めたい


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