▼ ▼ ▼

 日曜日。集合場所となった公園が近付いて来たので、ちらりと時間を確認してみる。スマホの時刻は約束の時間10分前。これくらいならちょうど良いだろう。

「……あれ。カゲ早いね。1番乗り?」
「俺が1番近いしな」
「カゲって意外と人待つ方でしょ?」
「なんでそこに“意外”を付けんだよ」

 ギャーギャーと言い合いをしていると「カゲさん」と男の子が声をかけて来た。そしてその後ろに居る女の子が「よっ、ヒカリさんが来てやったぞ!」とはにかみながら顔を覗かせる。

「おう」
「あ、もしかしてなまえ? 初めまして! アタシはヒカリ! よろしくな!」
「は、初めまして。みょうじなまえです」
「んでこっちがユズル! アタシたち、影浦隊のメンバー!」
「なるほど……! 初めましてユズルくん」

 ヒカリちゃんの紹介を受けてユズルくんに会釈をすれば、ユズルくんもペコっと頭を下げてくれる。……ヒカリちゃんとは初対面のはずだけど、ヒカリちゃんはどうして私の名前を知ってたんだろう? その疑問は「おっみんなもう揃ってるね〜!」というゾエの声が掻き消した。

「影浦隊、全員集合〜」
「かげうらたい……」

 カゲの名前の後ろに“隊”が付くだけで異様な一体感が出るなと興奮していると「鋼は?」とカゲが口を開いた。……なんか、心なしかカゲが隊長っぽく見えるな。
 カゲに対して変な感想を抱いていれば、それを感受したのかじろっと見つめられてしまう。鼻ピンの気配を察知し慌てて両手を上げて降参ポーズをすると、鼻で笑いながら見逃してもらえた。……危ない、初対面の子たちの前で鼻ピンはごめんだ。

「鋼くんはあとちょっとで着くみたい。その前になまえちゃんにユズルたちを紹介しとくね」
「おいゾエ、それはもうアタシがやっておいたぞ」
「あっそうなの? さすがヒカリちゃん」

 ヒカリちゃんが得意げに笑い、ゾエは拍手を送っている。そんな2人を見つめ「ヒカリ、なんでオレらがここに呼ばれたか説明してないでしょ。みょうじさん、困ってる」とようやくユズルくんが私の疑問を取り上げてくれた。

「あー? そんなん呼ばれたからだろ」
「そうだけど。いきなり初めましての人たちが来たら誰だって戸惑うじゃん」
「えっと、あの、ユズルくん。お気遣いありがとね。でも私、戸惑うってほどじゃないから大丈夫だよ」

 ほらぁ! とドヤ顔を決めるヒカリちゃんと、溜息を吐くユズルくん。その様子を見て「隊員が仲良しでゾエさん嬉しい」と微笑むゾエ。それらをまるっきりシカトし、村上くんが来るのを待っているカゲ。……なんだこの隊、めちゃくちゃ楽しいじゃないか。

「ユズルくんとヒカリちゃんは何歳?」
「アタシが17でユズルが14。まだまだ手のかかるおこちゃまだよな〜?」
「うるさいヒカリやめろ」
「またまた〜! 照れやがって〜!」

 2人のやりとりがまるで姉弟のようで、思わず笑ってしまう。ここに呼ばれた理由はまだ分からないけど、この2人とは仲良くやれそうだ。

「影浦隊ってことは、このメンバーで防衛任務とかやってるってこと?」
「うん。ランク戦とかも全部、ボーダーでの活動はこのメンバーだよ。あでも、ユズルはスナイパーだから、訓練は別」
「スナイパー……?」

 ゾエの言葉に首を傾げれば、ボーダーにはいくつかのポジションがあって、ユズルくんはその中のスナイパーをしていることを知る。14歳がスナイパー……? 私の世界では決して結びつかないワードたちに驚いていれば、ユズルくんの頬が少しだけ赤くなる。……こういう所は14歳らしくて可愛いな。

「スナイパーの訓練ってどんなことをするの?」
「別に普通に……的を撃ったり相手を見つけて狙撃したり……」
「それは……普通なのですか……?」

 ユズルくんの言葉に驚愕しつつ「ユズルは天才だもんね〜」というゾエの言葉に更に目を開く。私の目の前に“14歳天才スナイパー”が居るのか。そしてその子が所属する影浦隊……。もしやめちゃくちゃ強いのでは?

「オレの場合は師匠が凄いだけだ」
「師匠?」
「鳩原先輩。オレの師匠」
「鳩原さんって、確か当真と同じクラスの……」
「そうそう〜。ユズルと同じスナイパー」
「へぇ! 全然イメージ出来ないかも」
「師匠は凄いんだ。オレなんて全然」
「ほぉ〜……!」

 ユズルくんがここまで言うんだから、きっと鳩原さんはもの凄いんだろうな。学校で見る時は“大人しい”っていうイメージだったけど。今度、話してみようかな。

「悪い、待たせた」
「あ、村上くん」
「おめー遅せーんだよ」

 時間ピッタリに現れた村上くんに歯を剥けるカゲ。その言葉を「悪い悪い」と躱しながら村上くんが「みょうじさん。もう影浦隊のみんなと自己紹介は済んだようだな」と声をかけてきた。

「うん。ヒカリちゃんに、ユズルくん」
「良かったな、カゲ」
「えっ?」
「みょうじさんのこと、心配してたから」
「心配……?」
「みょうじさんがオレら3人の中に入るのを気にしてただろう。だから年下の子を連れてきたらみょうじさんも楽しめるんじゃないかって」
「おい鋼。来て早々どうでも良いこと言ってんじゃねー」

 そう吐き捨て歩き出すカゲ。……カゲって、やっぱり隊長に向いてると思う。今日こうして集まったメンバーの理由が私にあると知って、思わず緩む頬。カゲが私の為に集めてくれた、お墨付きメンバー。

「みんな、今日はよろしくお願いします」

 ぺこっと頭を下げれば、各々から返事を受け取る。……ねぇカゲ。私、今日がもっともっと楽しみになったよ。ありがとう。

「……置いてくぞ」
「今行く!」

 駆け寄ってカゲの隣に並べば、カゲの視線はふっと逸らされる。それにも負けじと見つめ続けると「うぜぇ」と鼻ピンを喰らってしまった。だけど、その痛みはカゲの隣に居るだけで不思議と治まるのだ。
君の優しさを象る人たち


- ナノ -