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 最近、学校が楽しい。学校が終わって家に帰ってから“今日はこんなことがあった”“あれは面白かった”としばらく思い出に浸り、寝る頃には“明日はどんなことが起こるだろう”と胸をワクワクさせている。高校最後の年でこんな風に学校が楽しいと思えているのは、カゲたちのおかげに違いない。

 みんな、今何してるんだろう――その思いに反応するかのように、スマホの画面がパッと明るく灯りメッセージを届けた。

「えっ……カゲ!?」

 差出人の名前を見た瞬間、色々と考えていたものが吹っ飛んだ。その隙間を埋め尽くすかのように“なんで、どうして”が溢れてくる。……カゲと連絡先交換なんてしたっけ? え、てか“今週の日曜ヒマか”って。……今週の日曜日といえば4月最後の日曜日。全然空いてるし暇してる……けど、え。これって……。

―ゾエと鋼と遊び行くことになった。みょうじもどうだ

 “暇だよ”と送り返したメッセージのすぐ後に届いた吹き出しの内容を見て、ふぅっと安堵の息を吐く。……そっか、そうだよね。2人きりなわけないよね。心臓よ、鎮まりたまえ。

 カゲのメッセージに“行く!”と返せば、“詳しいことは明日”とこれまた端的なメッセージが届く。というか、ゾエも居るならゾエが連絡して来れば良いのに。……別にカゲから誘われるのが嫌なわけじゃないけど。むしろ……今でもちょっと心臓がドキドキしてる。これはあれだ――。

「ビックリしたからだ……」

 まさかカゲから連絡が来るなんて、思ってもなかったから。だからこんなにも心臓が早鐘を打っているんだ。……でも、じゃあどうしてこんなに口角がゆるゆるになってしまうんだろう? その答えだけはどうしても分からなくて。

 カゲとまた1つ仲良くなれたからだろう――という結論を出してみたけど、なんだかそれもしっくりとはこなかった。やっぱり私はカゲの言う通り“下手くそ”なのかもしれない。

「ふふっ。……早く日曜日にならないかな」

 だけど、“日曜日が楽しみ”って気持ちには自信を持てる。……あ、でも。明日は明日で楽しみだから、やっぱりゆっくりで良い。



「聞いたでみょうじさん。日曜日、遊び行くんやてな」
「うん。昨日カゲに誘ってもらったんだ。……そういえば、水上くんと穂刈くんは行かないの?」
「俺らはその日防衛任務やねん」
「防衛任務……! ボーダー隊員だ!」
「ボーダー隊員やで」

 在学中幾度となく耳にした防衛任務。このワードを耳にする度に“格好良いなぁ”と思う。私と同じ年齢の子が任務に就いてるだなんて。しかも“防衛”の任務。
 秘かに憧れていたワードを出してきた水上くんに目を輝かせれば、「みょうじさんって意外と中二病っぽいとこあんねやな」と笑われてしまった。

「そ、んなことは……! 絶対何人かはドヤ顔してるって」
「確かに。俺も初めて言うた時はドヤ顔決めたかもしれへんなぁ」
「ほらね」
「なんでみょうじさんがドヤ顔決めんねん」

 水上くんのツッコミに声をあげて笑っていると、「みょうじ」と短い呼びかけが飛んで来た。

「あ、カゲ。自販機帰り?」
「……昨日のヤツ、話まとめんぞ」
「あ、うん。じゃあ村上くんも呼ばないとだ」
「鋼は先にゾエんとこ行ってる」

 じゃあカゲは私を呼びに来てくれたんだ。そう解釈し礼を伝えると、カゲがまじまじと私の顔を見つめてくる。それを不思議に思い首を傾げ見つめ合えば、「素直にお喋り出来ひん――ってか」という水上くんの言葉が混ざる。やけにニヤニヤした声だなぁと思っていると、カゲの視線は水上くんへと動いた。対する水上くんは蛇に睨まれたかのように両手を上げてみせる。……水上くん、カゲのことよくもまぁイジれるよなぁ。その度胸が羨ましい。

「そんな怒らんといてやカゲ。俺らの仲やん」
「うるせぇ、うぜぇ」
「なんでやの。昨日はあんなに親密な時間を過ごしたやんか」
「……クソが」
「えっ。何々? 気になる」
「あんな、「おい行くぞみょうじ!」

 水上くんの言葉も気になるけど。ゾエと村上くんを待たせるのも悪いし。素直に掴まれた腕を引っ張られれば、「行ってらっしゃ〜い」と手を振る水上くん。凄い、カゲの睨みが全然響いてない。

「……ボーダーの人って、ほんとに仲良いんだね」
「別に、そんなんじゃねぇ」
「連絡、嬉しかったよ。ありがとう」
「……おー、」

 カゲは不愛想だけど、冷たいわけじゃない。その証拠に、今こうして私の腕を掴んでいる手だって、こんなにも優しい。そういう分かりにくい優しさに触れられているんだって思ったら、なんだか嬉しくなって。
 
「日曜日、楽しみだね」
「……おう」

 私は何度もその優しさに触れたくなるんだ。
愛の魔物をてなずけたい


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