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 村上くんと考えた“色んな感情を飛ばす作戦”。それを決行するチャンスは、思ったよりも早く訪れた。

「んじゃ、グループ作って実験開始」

 先生の指示によって生徒それぞれが仲良しグループで輪を作り始める。そうして4人1組のグループが出来上がっていく中、カゲと目が合った。一緒のグループになれたら――と一瞬思いはしたものの。カゲたちはボーダー隊員で1つのグループになるよなと思い直し、私も別の子たちとグループを作ろうとした……ら。「追い出された」という驚きの言葉と共にカゲが近付いて来た。

「お、追い出されたって……」
「アイツらなんか企んでやがる」

 アイツらと言いながら親指で後ろを指差す先には、確かに何かを企んでいそうな顔が数体。その中で1人だけ困った表情を浮かべている村上くんがふぅっと息を吐きながら、私に片手をあげてきた。……あぁ、なるほど。私たちのチームはまだ3人だから、1人入れてってことね。それは別に良いけど、ボーダーチームでちょうど4人なのに。どういう流れでカゲは追い出されたんだろう? “企み”がなんなのか気にはなるけど、そこを詳しく訊いたら噛みつかれそうだから、黙っておこう。

「じゃあ一緒にやろっか」
「……おー」

 テーブルで向かい合って座ると、カゲが私の後ろに居るグループに中指を立てる。これは小競り合いでもしたなと苦笑しながら見つめていた時、行き道に話した村上くんとの会話がフラッシュバックした。……これ、今なんじゃない?

「……あ?」
「どう?」
「どうって……何が」

 じぃっとカゲを見つめ、感情をぶつけてみる。怒りの感情はイマイチだったので、今度は悲しみをぶつけ中。
 一生懸命気持ちを作ってぶつけてみても、カゲの表情は変わらず。……カゲのサイドエフェクトって、不発な時もあるのだろうか。反応のなさを不思議に思っていれば、何故かカゲが「ふっ」とおかしそうに笑いを零した。

「おめー、やっぱ下手くそだわ」
「……! 下手くそって、私の感情のことだったんだ!?」
「やっぱりな。鋼になんか言われたんだろ、オイ」

 村上くんの方を向いてガンを飛ばすカゲ。このままだと村上くん1人にカゲの怒りが行きそうなので、「違う違う。私がカゲのサイドエフェクトのこと知りたいって言ったの」と白状する。

「俺の?」
「うん。村上くんに聞いたんだ。カゲが感情受信体質だって」
「……チッ」
「それで、“感情が分かる”ってどんな感じなのかな〜? と思って。そしたら村上くんから“カゲに直接ぶつけてみたら良い”ってアドバイスを貰ったから。試してみた」
「試すも何も。感情は作れるもんじゃねーだろ」
「……そうみたい。今カゲに教えてもらいました」

 というか。私の感情は下手くそらしい。……えっ、感情が下手って何? 自分の気持ちにリンク出来てないってこと……? それって、二重人格ってことか? 

「ふっ。……みょうじのは下手っつうか……変なカンジだな」
「へ、変な感じ……?」

 カゲの瞳がじっと私を捕らえる。きっと何かを伝えようとしてくれているんだと思い、その目を見つめ返しても何かを受信することは出来ず。こういう時はカゲのサイドエフェクトが羨ましいなと思う。

「なんかこう……他人の感情とか意識がチクチク刺さんだよ」
「ほぉ……。チクチク」

 チクチクといえば、こういう感じ? とシャーペンで手の甲を2、3回軽く突いてみる。……これ、結構嫌だな。

「あー待て。別に全部が全部っつーわけじゃねぇ。刺さり方にも違いはある」
「刺さり方に違い……?」

 カゲの言葉に顔をあげれば、鼻先に緩やかな衝撃が走った。……またやられた。鼻を抑え、カゲを睨みつければ「みょうじのは、そういうヤツ」とニヤリと笑われる。

「……痛くはないってこと?」
「あー、まぁ……痛くも痒くもねぇかもな」
「ちょっと。その言い方は痛くも痒くもありますが?」
「ケッ」

 むっと頬を膨らませれば、「怒ってら」と鼻で笑われてしまう。どうにか仕返しをしたくて、少しでも鋭く刺され! と念じながら感情を飛ばしてみても、残念ながら矢のように尖ることはなく。逆に勝ち誇ったようにドヤ顔を決めるカゲからは、痛いくらいの感情が刺さってくる気さえする。
 悔しいと思う気持ちはカゲにとって美味しいエサのようなので、ふぅっと心を落ち着かせる為に目を閉じた瞬間。

「おいおめーら! うぜぇ感情飛ばすな!」

 と目の前に座るカゲの怒号が飛んだ。それにビックリして後ろを振り向けば、向こうのテーブルでさっき以上にニヤニヤと笑う人達の姿。今度は村上くんの顔もニコニコと嬉しそうだ。……みんな、カゲに怒られてるのに。すごい度胸だなぁ。

「面白いな。人が慌てる姿を見るのは」
「いやぁ。ほんまおもろいわぁ」
「あぁ、確かに。面白い」

 村上くんたちが笑えば笑う程、カゲの目がつり上がってゆく。……私1人じゃ無理だけど、数で押せばカゲの感情を動かすことも出来るのだ。みんな、頑張れ。

「おいみょうじ! お前はあっちの応援するんじゃねぇ!」
「えっなんで」
「……なんでもだ!」
放った矢が別の的を射る


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