monday crack

 月曜日はいつもよりどんよりとした気持ちになるけど、今日はそんなの比じゃない。月曜日だからとか、そんなのも関係ない。昨日の今日だから、だ。

 自宅に招き入れた人物は何度もここを訪れている私の彼氏。いつもならもっと穏やかで甘い時間が流れているのに、今日は冷ややかで重たい空気が淀んでいる。

「……クマが出来ている」
「眠れませんでした」
「……そうか」

 クッションを胸と膝の間に挟み、それを膝ごと抱えこんで顔を埋める。風間さんはその様子をテーブルの向こうで見つめ、「すまない」と小さく詫びた。

「今からでも断れないんですか」
「……相手がどうしても、と言っているらしい」
「私の“どうしても”は聞き入れてもらえないんですか」
「なまえ。分かってくれ。相手はスポンサーなんだ」

 唐沢さんの頼み事だから金銭が関わってくることは分かる。ただその中身が大企業の令嬢とのお見合いだったなんて、さすがに想像出来ない。……大体、なんでよりにもよって風間さんに白羽の矢を立てるのかが分からない。唐沢さんだって私と風間さんの関係を知らないはずないのに。……唐沢あの野郎。……なんて、八つ当たりしたって意味ない。だって風間さんはその話を引き受けてしまったんだし。

「そりゃ私たちが活動する上で資金は大事ですよ? でも何も風間さんがそこまでする必要ないじゃないですか」
「……仕方ないだろう。相手方が俺を名指ししてきたんだからな」
「なんでですか? 風間さん、何かしたんですか?」
「何も目立ったことはしていない。偶然見学に来られた時対応したのが俺だったというだけの話だ」
「なに見初められてるんですか」
「俺にはどうすることも出来んだろう」

 なんか、さっきから“仕方ない”とか“どうしようもない”とか。なんでこんなアッサリしてるんだろう。あまりにも達観してて歯痒い。これは私と風間さんの問題なのに、どうして風間さんは勝手に割り切ってるんだろう。考えてみれば提案を受けた時も一旦持ち帰って私と話をするべきだったと思う。それもしないで事後報告だけを事務的に行う風間さんって、ちょっとどうなんだ?

「じゃあ、私だって合コンに行ってもいいですか」
「だめだ」
「どうして」
「お前は俺の彼女だからだ」

 本来ならとても嬉しくて、跳びあがるほどの言葉。今じゃなかったら絶対に宝物のように大切にしまう言葉なのに、この場においては着火剤にしかならない。

「はぁー!? それなら風間さんだってそうでしょ!」
「だから俺のは仕方なく、」
「じゃあ私の合コンだって仕方なくだったら良いんですか? 人数が足りなくてどうしようもなくだったら良いんですか?」
「なまえ、」

 ちょっと。今、今風間さん溜息吐いた?? 屁理屈を捏ねるなって顔してるけど、風間さんが言ってることだって一緒のことだと思う。私の理論をブラッシュアップしたら風間さんのお見合いになる、絶対。それなのに風間さんは私だけが聞きわけのない子供みたいに思ってる。
 自分だって彼女が誰かとそういう場所に行くの嫌なくせに。“だめだ”って即答する程拒絶するくせに。それだけ私に独占欲を抱いてくれるのに、どうして私の独占欲はワガママと捉えるのだろう。

「……今日はもう帰る」
「…………」

 クッションに落とした視線が上がることはないと判断したのか、風間さんがおもむろに立ち上がり玄関へと足を向ける。風間さんがこの部屋を出る時、お見送りをしなかったのは今回が初めてだ。

 じゃあな、も、気を付けて、もないお別れはこんなにも寂しい。
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