cloudy tuesday

「どう思う!? 有り得なくない!?」
「意外と風間さんも子供っぽい所あるのね」

 日、月と続いた苛立ちを誰かに吐き出したくて同い年の望ちゃんを「話がある」と呼び出せば、望ちゃんおすすめのバーに連れて行ってくれることになった。

「おっ、この日本酒、美味しいな」
「ねぇちょっと。堤くん私の話聞いてる?」

 同じ諏訪隊で歳も同じの堤くんも色々と話し易いので、この場に招集したのは良いものの。堤くんはさっきからお酒に舌鼓を打ってばかりだ。そのことを詰れば「オレにはよく分からん。そういうのは加古ちゃんに相談してくれ」とあっけらかんと言い放たれてしまった。
 確かにこういう話は望ちゃんとした方が気持ちもスッキリするしな、と思い直し「それもそうだね、ごめん」と謝れば「まぁ愚痴を聞くことは出来るから」と口角をあげる堤くん。
 そういう割にはさっきからお酒ばかりに集中してますよね? という疑問は心の中に留め望ちゃんに向き直す。

「そういうわけで、私、合コンしようと思うんだけど。望ちゃん、どう?」
「その合コンだけど。いざ本当にするってなった時、なまえは逃げない?」
「うっ……」

 カクテルを流し込みながら視線をこちらへと流す望ちゃんの色気たるや。本当に同じ歳なのかと疑いたくなる。その色気に息を呑むのと別の理由でも言葉を詰まらせてしまった私に、望ちゃんは「意地張っててもいいことないわよ」と宥めるように言葉を継ぐ。

「分かってるけど……」
「分かってても嫌なものは嫌よね」
「そう! そうなの! それに風間さんが勝手に引き受けちゃったこともムカツク!」
「風間さんならそこらへんの心情、察せそうなのにね」

 察してもらえなかったから、今こんなことになっているわけで。その気持ちを視線に乗せて見つめれば、「色恋沙汰になると風間さんも冷静じゃいられないってことかしら?」と微笑まれた。もしそうだとしても、やっぱりちょっと複雑な気分。

「風間さんも板挟みになっちゃってるんじゃないか?」
「板挟み?」
「みょうじちゃんも大事。ボーダーも大事。それに、ウチだって組織だからそういう付き合いは大人になればなるほど増えるだろ」
「恋人か仕事か――的な?」
「そうそう。どっちも大事なんだよ、きっと」

 堤くんの言わんとすることも分かる。風間さんは誰よりも真面目だから、今回の話だって重く受け止めだろう。そして熟考した上で引き受けたはず。そういうのも全部ちゃんと分かってるけど。でも、どっちも大事なら、私のことだって大事にして欲しい。

「あれから連絡もしてこないのに……私のこと、本当に大事なのかな?」
「風間さんだって悩んでると思うけどな」

 堤くんはそう言って天井を仰ぐようにしてグラスを傾ける。堤くんが言うように、なんと送ればいいか分からないから送ってこないのだろうか。でも昨日の感じだと既に割り切っていたようにも見えた。実際の所は風間さんにしか分からない。……どうしよう、私、風間さんのこと分からなくなってきちゃった。

「やばい……泣けそう」
「大丈夫よ、なまえと風間さんならきっと」
「そうかなぁ……?」
「えぇ。今度チャーハン振る舞ってあげるから、元気だして」
「ありがとう。でも出来るなら創作じゃないやつでお願いします」
「あら、それは残念」
「オレは食べたいかも」
「本当? じゃあ明日にでも作ってあげるわね」

 あぁ、明日堤くんが死ぬ未来が視えた。それでも、私の明日は何も視えないままだ。
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