打ち落とされた真実

「……えっ」
「あ、ごめん。つい」
「な、なっ、」

 わけが分からず混乱に陥る私と、舌を出してまるで悪戯が成功した子供のように笑う宮侑。……今までの落ち込んだ雰囲気はどこに行った。というかコイツ今……今っ! 宮侑の身勝手な行動を理解した途端、思わず近くにあったボールを掴んで投げつけようとした――けど、それを見越した宮侑が反対側からボールを握って奪い取り、近くに放った。綱引きならぬボール引きに負けた私は体勢を崩してそのまま宮侑の胸の中へとダイブ。ぎゅう、と力を込めて捕獲される状態に「離っ!」と慌てても緩まらない。

「なぁ。この前みんなが囃し立ててた野球選手のこと。なまえちゃんほんまに好きなん?」
「好っ……いや、今その話しとる場合とちゃう」
「いいや。今訊きたい。ほんまに好き? 恋愛的な意味で?」
「……それもなくはない。でも……それよりも尊敬の気持ちが強い……です、」
「うん。そんならええ」
「いや……はっ!? 待って!? 今アンタが私にしたことの説明を――!」
「それっておかわりってこと?」
「〜っ!? 調子乗んなアホボケカス!!」

 捕獲された腕の中でせめてもの抵抗として胸をポカポカ叩いても宮侑は楽しそうに笑うだけ。……こういう所だけはずっと嫌いだ。というか、宮侑はあの話気にしていたのか。全く触れてこないから聞こえてすらないと思っていた。

「な、い、つから……私のことその……、」
「今」
「今ぁ!?」
「うん、今。今好きやなぁって思うた」
「……脳直でキスしてくんの、やばない?」
「だってしたくなったんやもん」

 こいつは子供か何かか。付き合ってもない相手にキスして呑気に笑っていられるなんて。……やっぱり人でなし野郎だ。しかもその後に佐俣選手への気持ちを確認してくるだなんて、順番が逆過ぎて何をどうツッコめば……。

「好きか嫌いかでええねん。“尊敬”は恋愛感情の土俵に居らん。そんで、嫌いは好きに直通しとう。せやから“嫌い”の中に居られるんやったら、“好き”に振らせればええ」
「ずいぶん勝手な解釈やな」
「そうか? でもこの考えも俺の真実や」
「……もう分かったから。ええ加減離して」
「それで、今俺はなまえちゃんの中でどっちに居る?」

 肩を押したにも関わらず、ぎゅっと詰まる距離。近距離で見つめられ、思わず逸らせば「ふはっ」とこの状況を楽しむ笑い声。……腹が立つ。本当ならビンタ張ってやりたいくらいだけど、この距離感だとそれすら叶わない。というかそろそろ心臓が爆発しそうだ。

「もう……そろそろ、ギブ……!」
「いいや。この質問に答えるまで放さへん」
「アンタ、コンディション悪いんやなかったんか」
「それはこの話と関係ない。今は俺となまえちゃんの話」
「……っ、」

 言い切られ、今度こそ逃げ道をなくす。一体宮侑の自信はどこから来るんだとその目を見つめたのがいけなかった。目線が合わさった瞬間、その源が私にあると分かってしまったから。
 かぁ、と頬が染まるのが分かった。その頬を隠すように顔を逸らしてみても、「ははっ。やっぱなまえちゃんも俺のこと好きやん」と耳に触れながら宮侑は声を弾ませる。

「人のパパラッチ狙ったくせに自分は不慣れ過ぎん?」
「〜っ!」
「痛ったあ! 舌噛んだっ」

 どうしようもなくなって喰わらせた顎への掌底打ち。その衝撃に慌てる宮侑の腕が緩まったのを見計らってすかさず抜け出す。

「待って、なまえちゃんっ、」
「ボ、ボケナスッ!!」

 捨てセリフを吐いて体育館から逃げ、駆け戻ったホテル。……どうしよう、どうしよう……。




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