「福ちゃん、悪いな。任せちまって」
「いえいえ! 逆に買い出しに行って貰ってすみません」

 そう言って頭を下げる福ちゃんはとても優しい。私が事情を話した時も嫌な顔1つしないで快く送り出してくれた。多分、福ちゃんは福の神か何かだ。

「ごめんね、福ちゃん。雅さんなき後の部活は大変だと思うけど……。よろしくお願いします」
「みょうじさん、それ言い方おかしいよ……。まぁでも、原田先輩はいつも練習量凄いから、偶には息抜きして貰いたくて……。こんな事言ったらおこがましいか」

 もう1度言う。福ちゃんは福の神か何かだ。

「雅さん、福ちゃんって神様か何かですかね?」
「何言ってんだ?」

 手を振りながらお見送りをしてくれる福ちゃんに手を振り返しながら、しみじみと感想を告げると怪訝そうな顔を返してくれる雅さん。雅さんももう少し福ちゃんの優しさ見習った方が良いですよ。なんて思うけど、練習時間を削って私の買い出しに付き合ってくれているのは紛れも無い事実なので、そこは感謝だ。

「雅さん、今日は買い出しに付き合ってくれてありがとうございます」
「急に改まって何言ってんだよ……」
「いやぁ、やっぱ雅さんの大事な練習時間削っちゃってるの、今更ながらに申し訳ないって言うか」
「そんなしおらしさ、みょうじには似合わん。買い出しも立派なマネージャー業の一環だろ。それに部員が手を貸すのは当たり前の事だ。練習も違う日に長めにすりゃいんだ。みょうじが気にする事じゃねぇよ」

 うわぁ、雅さん。ちょっと雅さん。いつかのカルロスくんよりもトキめいてしまいましたよ。

「おいみょうじ。そのだらけた顔やめろ。隣歩くのが恥ずかしい」
「雅さんの言動にトキめいてたのに、そんな事言われるのは心外ですね」
「は? どの言動だよ」
「もう教えません! ほら、さっさと行きますよ!」
「ちょっ、おいみょうじ!」



「こんなにテーピング要らねぇだろ」
「いいえ。要るんです。私の精神安定の為に」
「……意味分かんねぇ」

 そんな会話をしつつ、いつもより多くの買い出しを1つ1つ無事に終えて、残るは雅さんのレガースのみとなった。

「必要なのはこれだけか?」
「んー、後1つだけ!私用なんですけど……付き合って貰ってもいいですか?」
「私用ならまた別の日にしろよ」
「お願い!」
「……分かったよ。どこに行けばいいんだ?」
「やった! お礼に後でアイス食べましょ! 奢りますから!」

 私の提案を「そんな甘いモン要らねぇから、ほら、何階だ?」とかわしながらもフロアガイドに目をやる雅さん。なんだかんだいって雅さんはいつも私の言った事を叶えてくれる。こういうとこ、やっぱ頼りになるなぁ。そんな事を思いながらも、スポーツショップが入った3階へと誘導する事に成功する。



「ここです!」
「……? みょうじ、ここになんの用があんだ? スポーツウェアとか道具とかしか置いてなさそうだが」

 知ってますよ、雅さん。そんな事はインターネットでリサーチ済みですよ。心の中で雅さんの疑問に答えながら、ずんずんと奥へと進む私の後ろを雅さんは大人しく付いてくる。
 大人しくというか、展示してある最新のグッズとかに目を奪われてる様な感じかな。グッズとかウェアにキョロキョロと視線をはわす姿はやっぱり野球が好きな少年って感じがする。心なしか楽しそうに見えるから、それだけでも誘って良かったなって思える。

「これです!」

 野球用のレガースが展示しているコーナーへと足を運んで、色味などを選びだした私に雅さんが待ったをかけてくる。

「みょうじもキャッチャーを……?」
「んなワケないでしょう。ゴリラじゃないんだから、そんな見当違いな読みしないで下さいよ〜。雅さんのです! 雅さんの!」
「は……?」

 尚も口を開けたまま私を見て固まる雅さんに「だーかーらー!」と私が秘かに計画した真の目的を話す。

「雅さん、レガース壊れたって悩んでたでしょ? だから、皆に相談して、監督からもレガース買って良いって許可貰ったんです! どうですか? これが私の真の目的です! サプライズ出来ました??」

 そう言ってニッコリと笑ってみせると少しだけしかめっ面の様な表情を浮かべて顔を背けられる。……えっ、余計だったかな? あれれ?

「……雅さん、まさか……もう買った、とか?」
「いいや、そうじゃねえよ」
「え、なんかでも……嬉しくなさそう。余計なお世話でしたか?」

 雅さんの表情が芳しくないから、私の気持ちも焦ってきてしまう。どうしよう。先走り過ぎたかな……。

「……悪ぃ。こういう時、どんな顔して良いかが分からん。まぁそのなんだ……みょうじの気持ちは凄ぇ嬉しいよ。……ありがとな」

 そう言って無造作に私の頭に手を乗せて、レガース選びに参加する雅さん。なんだかその手があったかくて、私の心もポカポカと温まっていく。そのポカポカが顔にも移って、微笑みが零れ出る。

「えへへ、雅さんには青色のがいいんじゃないですか? 黒だと毛の色と同化しちゃうし!」
「お前俺の事なんだと思ってるんだ」
「えっ……ゴ、に、人間ですよ?」
「その妙な間と1度言いかけた“ゴ”の続きを言ってみろ」

 前にカルロスくんが何処に行っても楽しめるって言ってた事がある。あれは、私の事をからかって言った言葉だったけど、今ならその言葉の意味が分かる気がする。今こうして雅さんと一緒にレガースを選んでる瞬間がすっごく楽しいって思える。多分、雅さんとならこうやってずっと笑っていられる気がする。
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