「鳴から聞いた」

 暫く無言で歩いた後、前を歩く雅さんの足が止まったかと思ったらそのまま前を見て喋りだす。私はその言葉を続きを心臓をバクバクと脈打たせながら待つ。

「“物静かな、ちょっと陰のある人”がタイプらしいな、俺は」

 そのどこか他人行儀な言い方に思わず目線を上げて雅さんの背中を見つめる。そんな私の視線を察知したのか、雅さんもゆっくりとこちらを向いて、目線が合わさる。

「そんなのは鳴が吐いた嘘だ。俺はそんな事言った覚えも無ぇし、そんなのは俺の好みでも無ぇ」
「……えっ!? そんな……だって、鳴くん……えっ。なんでそんな嘘を……」
「さぁな。ただ、アイツも反省してるみてぇだし、許してやってくれ」
「だって……! 鳴くんのせいで私、ずっと悩んだんですよ? 雅さんの好みが全然私とは違うくて! じゃあちょっとでも近付こうと思って意識するけど、なんか無愛想な人になっちゃって! 皆に申し訳なさしか感じないし! それに、全然……楽しくなくって……」

 込み上げてくる感情を言葉にするだけじゃ間に合わなくて、瞳から涙となって落ちていく。……あぁ、もう。顔ぐちゃぐちゃだ。こんな顔、雅さんに見られたくない。

「あのな、言っておくが、俺は好みのタイプなんて考えた事無ぇ。しいて言うなら好きになったヤツが俺のタイプだ」
「う、ん? じゃっ、雅さ、ん……今、すきなひと……いるん、ですか?」
「あー、まあ。そう、だな」

 濁しながらもその存在を肯定した雅さんの言葉にまた涙がどっと溢れてくる。なんて日だ。まさか失恋までしてしまうなんて。

「……なんでそんなに泣くんだよ」
「だってぇ……わ、わたしっ、今っ、し、つれん、したからっ、」
「してねぇよ」

 雅さんの言ってる意味が理解できなくて、喉をひくつかせながらもう1度雅さんと目を合わす。その時に見た雅さんの顔は普段のゴリラ顔からは想像出来ないくらい、優しい表情を浮かべてて。穏やかな、まるで愛おしい物を見るような表情だったから、涙で濡れた瞳が大きく開いて、また1つ涙が頬を流れていく。

「えっ……?」
「俺が好きなタイプは嵐みてぇなヤツだ。周りの事を巻き込んで、目の前の事一つひとつの事に一生懸命なヤツ。んで、毎日うるせぇくらいに明るくて、その勢いで周りを笑顔にする事が出来るヤツだ。……つまり、みょうじ。お前が好きだって事だ」
「えっ、えっ……あの、えっ、じゃ、じゃあ私と雅さんってその……両思い、ってヤツですか?」
「……お前は俺の事、どう思ってんだ」
「えっ、いや……それは……その」

 涙は既に途切れ、頬が熱を持っているのが分かる。

「嫌いだったら……あんなに絡みにいきません……」
「おう。俺も嫌いだったらあんなに面倒見ねぇ」
「嫌いだったら雅さんのタイプに近付こうなんて思いません……」
「俺もそんなみょうじを見て可愛いなんて思わねぇな」
「だから……つまり、その……私も雅さんの事が……す、きです……」

 涙の代わりに恥ずかしさが言葉を小さくさせる。雅さん事をいつから好きだったかなんて、分からない。気が付いたら好きだった。それを別に隠そうともしてなかったけど、いざ本人に伝えるとなるとこんなにも勇気が要る事なんだと今更ながらに思う。だけど、その恥ずかしさを越えてしまうとこんなにも晴れやかな気分になれるのかと、今目の前で笑顔を浮かべるゴリラ顔の愛おしい人を見て思う。あの笑顔に飛び込んで、受け入れて欲しい。そう思うのなら、飛び込めば良い。だってそうすれば雅さんはきっと、受け入れてくれる筈だから。

「雅さん! 大好きです!」
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