うずまき中心地

「なまえ! よく来たね。先生も久しぶり」

 あ・んと左右に書かれた緑色の門。出迎えてくれたテマリさんに声を弾ませ駆けよれば、「長旅お疲れだったね」と労ってくれた。

「あの。実は、我愛羅さんに指導して頂いたおかげで氷遁を少しコントロール出来るようになりまして」
「なんだ、そうなのか。それは良かった」
「なので、「悪い! 遅れたってばよ! ってあれ。我愛羅は?」

 黄色い髪をツンと立たせ、両頬にそれぞれ3本線が入った男性が門の向こうからバタバタと駆けてくるなり我愛羅さんの名前を呼び辺りを見渡す。「我愛羅さんは仕事が忙しくて……もしかして、ナルトさんですか?」と尋ねれば、男性の目線が私の顔に落ち着く。

「ん? もしかして、なまえちゃんか?」
「はい。みょうじなまえです」
「おぉ! 話には聞いてるってばよ! 俺、うずまきナルト! よろしく!」

 ナルトさんは目を細めて笑った後、「そっかぁ。我愛羅は留守番かぁ……」と今度はしょんぼりと寂しそうに項垂れる。ナルトさんは私の描いていた人物像とはまるで違ったけれど、何倍も親しみやすそうな人だ。

「我愛羅さんからコレをナルトさんに、と預かってきました」
「これってば砂の里名物のおしるこじゃん! さすが我愛羅だってばよ」
「ふふ。お二人は仲良しなんですね」
「あったりめーだろ! 俺と我愛羅は親友だ」
「……ふふっ」

 ナルトさんと接するだけで、不思議な力を与えられている気がする。力強くて暖かい、陽気なパワー。我愛羅さんがナルトさんを知って欲しいと言った気持ちが何となく分かる。きっと、我愛羅さんはナルトさんのこういう所が好きなんだろう。

「今日はよろしくな!」
「こちらこそよろしくお願いします、ナルトさん」
「ナルトでいってばよ。……えっと、白のこと知りてぇんだよな?」
「氷遁の……、」
「あ! てかさてかさ、その前に腹減ったろ? 木の葉名物のラーメン屋案内してやるってばよ」
「あ、ありがとうございます。ですが、先に火影様にご挨拶を」
「カカシ先生なんかあとでいってば。それよりまずはメシだ!」

 ナルトさんの勢いに押され、あっという間に門をくぐり里の中へと辿り着く。ナルトさん1人の登場で慌ただしくなった雰囲気にテマリさんが「アンタ、1児の父親になったんだろ? もっとしっかりしなよ」と溜息を吐く。「オレってばラーメン食べたくてつい……」と気まずそうに笑い返すナルトさんは、いつぞやのカンクロウさんと同じ反応だ。
 バキさんは2人のやりとりに苦笑いを浮かべ、「オレは先に六代目のもとに行ってます」と告げ姿を消した。これは逃げたという表現が正しいのかもしれない。

「私もシカダイ預けて来たし、一旦帰るよ。そうだなまえ、今日はウチに泊まりな」
「え、良いんですか?」
「あぁ。シカダイもなまえに会ったら喜ぶだろう」
「是非!」
「じゃあまた後で」
「ありがとうございます!」

 初めて訪れる里で初対面の人と2人きり。本来なら気まずさ漂う場面のはずなのに、不思議と嫌な気分はしない。それは多分、この里の雰囲気や隣に居るナルトさんのおかげ。

「2人でラーメン屋っつうのも、なんかダメなのかな……ヒナタは勘違いしねぇだろうけど、もしキバとかいのに見られたら……いやサイもシノも……面倒くせぇことになりそうだってばよ……」

 色んな人の名前を挙げては眉を寄せてゆくナルトさんは、確かに落ち着きがなくてちょっとだけバカっぽい。我愛羅さんとは正反対なナルトさんを見ていると、2人が仲良しな理由が分かる気がする。あべこべはデコボコや阿吽のようにピッタリとはまるものなんだろう。

「分かった! いっそのこと全員の所に行けばいいんだってばよ!」
「え?」
「そしたらなまえちゃんのことも紹介出来るし!」
「えっと、」

 ぱぁっと輝く顔を向けられ言葉に詰まる。木の葉がどんな所か知りたいし、ここに住む方たちとも仲良くなりたい。でも先に火影様に挨拶しないと――2つの気持ちが心の中で葛藤し、即答出来ない。

「バ、バキさんも火影様のもとに行ってしまいましたし……」
「あ、じゃあ先にカカシ先生済ませちまうか!」

 “火影様を済ませる”――平然と言ってのけるナルトさんに息を呑めば、「今の火影、はたけカカシはオレの上司だった忍なんだってばよ」と教えてもらって腑に落ちた。おそらくカンクロウさんと我愛羅さんのような関係なんだろう。ナルトさんなら血が繋がってなくても家族のような繋がりを築いてそうだ。

「最後はラーメンで締めだな」
「ふふっ。楽しみです」



「カカシ先生! なまえちゃん連れて来たってばよ」

 風影執務室と同じくらい立派な建物に通され、緊張の面持ちでドアの沓摺りを跨ぐ。おずおずと目線とあげた先、バキさんとナルトさんともう1人、口元を布で覆い、トロンとした瞳を浮かべる白髪の男性が椅子に座ってこちらを見ていた。あの方が六代目火影様――はたけカカシさん。ナルトさんの口ぶりからして優しい人なのだろうと思っていたけれど、実際目の当たりにすると優しいというよりかは脱力感漂う感じだ。とはいえ、今は火の国の隠れ里を治める長だし、緊張するものは緊張する。手が無意識のうちに腰に提げた瓢箪に向かう。

「お初目にかかります。砂隠れの里より参りました、みょうじなまえと申します」
「よく来たね。初めまして、はたけカカシです」
「火影様のご協力、誠に感謝いたします」
「そう畏まらずに。オレのことは“カカシ”でいいから」
「……ふふっ」
「ん?」
「あ、すみません。さっき、ナルトさんにも同じようなこと言われまして」
「あ、そーなの? なんか、恥ずかしいね」
「先生ってばオレの真似じゃん」
「はいはい」
「カカシさん、ナルトさん。改めて、お世話になります」

 2人の名前を呼んで礼をすれば、2人とも同じような顔で笑ってくれる。風影様も、火影様も自分の役職を鼻にかけるようなことはしない。こういう人が治める里は居心地がいいものだ。
 カカシさんに勧められソファに腰掛けると反対側に座っていたバキさんが「テマリは?」と尋ねてきた。「シカダイくんのもとに帰りました」と答えれば少しソワソワと落ち着かない様子。もしかしてバキさん、シカダイくんに会いたいのかな。

「よかったらテマリさんのもとへ行って下さい」
「しかし……」
「ま、オレも一通りの挨拶は終えたし。それに里内で護衛は不要かと」

 カカシさんの言うことはもっともだ。続けざまにナルトさんが「なまえちゃんに何かあったらオレが責任もって守るってばよ!」と言ってくれれば、この里での安全は確保されたも同然な気がする。我愛羅さんから借りている瓢箪もあるし。

「バキさんもたまには羽を伸ばして下さい」
「そ、そうですか?」

 道中でバキさんの仕事ぶりはじゅうぶん分かった。いつも一生懸命なんだろうなって分かるから、たまには――その気持ちが伝わったのか、バキさんは私たちに一礼をした後口角を上げながら執務室を去って行った。

「人は変わるもんだなぁ」
「え?」
「んーん。何でもない。なまえさんは雪一族の末裔だったね」
「あ! だから白にどことなく雰囲気が似てるんだってばよ。白のこと知りてぇのもそういうことか」
「ナルト。それは事前に説明したでしょ」
「え? そだっけ?」

 目を細め頭を掻くナルトさんに溜息を吐くカカシさん。このやり取りが妙に慣れた感じに見えるのは、2人の間で何度もこれが交わされてきたからなんだろう。さっきまで抱いていた緊張も忘れ、笑い声をあげているとナルトさんがじっと私の顔を見つめてくる。

「白もそうやって優し気に笑うヤツだったてばよ」
「そ、そうなんですか」
「俺が忍として初めてまともな任務を請けた時、戦った相手が白だった」
「あの、敵なのにどうしてそんな風に……」

 どうしてそんな嬉しそうに白さんのことを語るのだろう――それには「ナルトの忍道を与えてくれた大切な人達だったからね」とカカシさんが答えてくれた。

「白は再不斬という人を真っ直ぐに慕い続け、最期まで守り抜こうとする強い忍だった。2人は亡くなったけど、今でもたまに墓参りに行くんだよ」
「そうなんですね」
「俺もカカシ先生も、白や再不斬のことは敵だったけど大好きなんだ!」
「……いつか、お二人の墓に花を供えに行きたいです」
「おう! そん時はオレが案内するってばよ」
「よろしくお願いします」
「今は“ナルト大橋”のおかげで往来が楽になったしね」

 白さんとは会ったことないけど、ナルトさんもカカシさんも褒めていて何故だか誇らしい気がした。自分の血を憎んでいたけれど、この血のおかげで我愛羅さんやカンクロウさん、それに木の葉の方達と繋がれたんだって思える。その繋がりが独りでは手に余ると思っていた血継限界をも扱えるようにして。
 独りじゃないって分かったら、自分の血とも打ち解けられた気がして嬉しくなった。
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