強さの礎



 新入生騒動を終え、東峰騒動を終えた後も澤村と菅原はずっと浮かない顔をしていた。そんな2人のことが心配だったけど、GWが明けると2人共晴れやかな顔つきをしていたから。私も凄く嬉くなったのを覚えている。

 数日前に放課後にあった委員会終わりに菅原と話した時、2人の最後の悩みが“正セッター問題”であることを知った。けれど、その問題も乗り越えてIH予選に向けてまっしぐらなのだと知ってからはバレー部の活動が楽しみで仕方ない。

 1年生の頃のIH予選は2回戦敗退。あの頃の烏野はそれが妥当で、“落ちた強豪に相応しい成績”と見られていた。
 あの頃の私は、バレー部のことを“負けばっかりであんまりおもしろくない”と思っていた。だけど今、バレー部のみんなと触れ合ってきたからこそ、あの時潔子が言った“悔しい”という思いが本物なのだと分かる。



 壮行会を終えてから数日。あの時の後輩たちの盛り上げに困惑する澤村を思い返しては笑いがこみ上げてくる昼休み。日直仕事で一緒に提出物を届けに行く廊下で「ふふっ」と笑みを零せば、「なに?」と柔らかく尋ねられた。

「いや、“IH仏血斬”って当て字よく考えたよなぁって」
「はぁ……ほんとに。アイツらそういう所だけは必死になるんだから」

 “まったく。ちょっとは試験勉強に注ぎなさいっての”と溜息を漏らす澤村は見るからに苦労人のソレだ。
 
「IH予選、応援行くから」
「まじで? それは心強い」
「今年は今までで1番期待してる」
「あぁ、俺もだ。……みょうじ、いつも応援ありがとな」
「えっ」

 知ってたんだ? という驚きを顔に出せば、「余裕がある時は大抵来てくれてたろ?」と確認を取られるから。確かにバイトと被ってない日は顔を出していたと心の中で頷きを返す。潔子や東峰とは試合終わりに話もしてたし、知っててもおかしくないけど。ちゃんと私の応援が届いてたんだって思えて、なんだか嬉しくなった。

「そ、それにしても菅原も強いよね。“1つでも多くコートに立つ為には影山が必要”って。強くないと言えないよ」
「あぁほんとに。俺も、負けてらんねぇ」

 ノートを両手で抱え、1歩1歩踏みしめながら意志を口にする澤村。その横顔をチラリと盗み見れば、揺るぎのない視線がそこにはある。……やっぱり、誰よりも強いんだよなぁ、澤村は。

「東峰が言ってた」
「ん?」
「“俺1人だったら諦めてた”って」
「えっ、旭が?」
「うん。何か、東峰の言ってること私分かる気がする」
「えっ?」
「これからもみんなを引っ張っていってね。主将」
「あぁ。……まぁでも。俺も、旭やスガが居たから諦めずに来れたんだけどな」

 少しだけ照れ笑いの表情でポツリと呟く言葉は、主将という立場を退けた澤村本人の本音。もう1度隣を見つめれば、心なしか澤村の背中も丸まっている気がして、ちょっとだけ親近感を抱く。

「さすがの澤村だって1人じゃ無理?」
「そりゃそうだべ。バレーは1人じゃ出来ねぇ」
「! そっか。そうだよね」

 からかうつもりで言った言葉に、反論するでもなく素直に受け止め認める澤村。その背中はもう丸くなんて見えない。あぁ、やっぱり。澤村は等身大のままで強い人なんだと思い知る。そしてその強さを支えているのは、東峰や菅原や、潔子といったチームメイトたち。

「なんか、いいね。バレー部」
「おう!」
「あははっ。誇らしげだねぇ」

 お互いがお互いを信じ合う関係性。チームメイトが居るって、素敵だ。
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