めぐる

 嵐山くんと約束をした日から半年以上が経った。ここ最近は冬が運ぶ寒さに追い打ちをかけるかのような出来事が多発している。例を挙げるとすれば、中学校や市街地でネイバーが出現したことが記憶に新しい。しがない社会人である私が知っている情報よりももっと多く、色んな出来事をボーダーの人たちは対処しているんだろう。
 もう恨みなどない。恨めるはずもないボーダー。そのボーダーを、彼は今日も至る所で一生懸命に宣伝している。

 襲撃された中学校が第三中学校であることを知った時は“副くん佐補ちゃんの……!”と冷や汗ものだったけれど、被害者は出ていないと知って胸を撫でおろした。彼の家族の無事は、私の心の安寧に繋がる。卒業以来会わなくなったとはいえ、“好きな人の好きな人”の無事を願うことは止めることなど出来もしない。――もちろん、嵐山くんのことも。
 私は嵐山くんを見ない日なんてないけど、嵐山くんはどうだろう。私のこと、たまには思い出してくれてるのかな。私は、今でもキミのことが好きだよ。



 つい1週間前。ここ最近の中でも特に大きな出来事があった。それが“対近界民大規模侵攻三門市防衛戦”だ。この騒動は連日世間を賑わせ、先日行われた記者会見も荒れに荒れていた。民間人に被害はなかったとはいえ、ボーダー内では行方不明者と死者が出た。そのことを突いた質問が飛び交い、記者会見はボーダーをやり玉にあげるような内容だった。
 数年前の私が、そこに混じってやりたいと思った会見。今度は別の意味で混じりたくなった。ボーダーに居る人間がどれだけの思いで前線に立っているのか、それを分かろうとしていますか? そう記者の人たちに詰め寄りたかった。

 辛いことを誰かのせいにしたいという傲慢。気持ちは分かる。数年前の私がそうだったから。だけど、今の私が同じ気持ちにならないのは、ボーダーが――嵐山くんが居てくれたから。
 複雑な思いを抱えながら見つめた記者会見は、寝間着姿のC級隊員くんのおかげで胸のすく思いへと変わった。彼こそ私が見知ったボーダーだと安心しながらテレビを消し、すぐさま携帯を見つめてみたけれど、期待する着信音は鳴らなかった。



 記者会見から数日。彼専用の着信音は未だに鳴っていない。まぁ、鳴らない方が当然なんだけれど。

「無沙汰は無事の便りっていうしね」

 というか彼は、今日も今日とて元気な様子をテレビで知らせてくれている。……今日も来ないんだろうな。

 あれから数回行われたクラス会。就職の道を選んだ私も滅多に顔を出せていないけれど、今回ばかりはどうしても参加したかった。なぜなら会場があの日行った遊園地だったから。もしかしたら――そんな思いを潜めて。だけど、彼は今もこうして生放送に顔を出している。淡い期待をした自分がバカだったなと思いながらそっとテレビを消し、私は嵐山くんの姿から目を逸らした。






「みょうじさんも来てたのか」
「……うん」
「珍しいな。みょうじさんがこうしてクラスの集まりに顔を出すのは」
「……それ、私のセリフだと思う」

 か細い声で抗議すると、嵐山くんは「それもそうだな」と爽やかに笑う。それが、どれだけの時間が経とうとも変わらないものだってあることを証明しているかのようで。
 
 実際、彼は証明し続けた。私をフった後も、今も。

「今日は、どうしても伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?」
「あぁ。良かったら一緒に、どうだろうか」

 そう言って指さす先にあるのは、あの日2人で乗った観覧車。




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