詰め込まれたかばんは無重力

「みょうじさんは今度のクラス会どうする?」
「あ、そういえば。あるんだったね」

 迅くんの言葉によって、近々クラスのみんなで遊園地に行こうという話が持ち上がっていたことを思い出す。今までのクラス会はバイトと被ってて行けなかったんだよな。

「迅くんは?」
「俺はパス。その日仕事だから」
「……ほんとに仕事してるの?」
「えっなんで」
「なんか全然働いてる感ない」
「お、俺の趣味はあ、暗躍だからっ」
「趣味悪」

 ぴえん、と泣き真似を晒す迅くんをシカトしつつ、スケジュールを確認してみる。その日は……休みだ、けど。

「遊園地って入場料いくらだっけ」
「んー、フリーで大体5,000円とかじゃない?」
「5,000円かぁ……」

 それだけあれば結構な日用品が買えるなぁ……。誰かと遊ぶのは嫌いじゃない。でもそれは、第一に自分の生活が安定していての話だ。生活と娯楽を量りにかけた時、重たいのは生活。

「私もパスだな」
「……そっか。嵐山はどうすんだろ」
「さぁ? 私達の中で1番忙しいのが嵐山くんだから」
「えー俺だって忙しいよ」
「はいはい」

 迅くんを往なし、次の授業の準備へと移る。……遊園地か。私結構絶叫系好きなんだよね。まぁ、それはまたいつか。



 日曜日。そういえば今日がクラス会の日だったっけと目覚めの1発目に頭に浮かぶ。不参加を伝えたのに、無駄に早起きまでしちゃって。実は結構行きたかったんだよなぁ、なんて。寝起きから自分に呆れつつ、ベッドから起き上がる。

 カーテンを開けて日差しを取り入れてみるけれど、あの日感じた木漏れ日のような温かさにはいまいち物足りない。でも、前よりは色んなことを感じられるようになってきたのかも。

 ある人を想えば色んな感情が体を覆うから、思わず緩む口角に手を当てた時。携帯がピピピと音を鳴らし、着信を知らせる。相手は――「えっ嵐山くん!?」今しがた思い浮かべていた相手だ。

「おはよう、みょうじさん。朝早くにすまない」
「どうしたの? なにかあった?」
「遊園地、行かないか」
「へっ? 遊園地?」
「あぁ。実は俺も不参加の予定だったんだが。仕事に空きが出来てな」
「そう、なんだ。で、でも……」

 嵐山くんと遊園地。そのワードを頭に浮かべると、途端にワクワクとした感情がそれを囲う。けど、すぐさま5,000円というワードがそれを阻止にかかる。

「実はあそこの遊園地、ボーダーと提携してCMをやっているんだ」
「……あ、そういえば。嵐山くんやってたね」
「あぁ。それで、その兼ね合いで俺の手元に2枚チケットがあってだな」
「へ、」
「良かったら、それを使って、一緒に……どう、だろうか」

 嵐山くんの中でよっぽど“バカにするな”と言った言葉が刺さってしまっているらしい。学校以外での誘いとなると、こんなにもおずおずとした物言いになるのがその証拠。そのことに罪悪感を抱くのと同じくらい、断れない気持ちが強くなる。

「私でよければ、是非」
「! あぁ! すぐに迎えに行く!」
「す、すぐはちょっと待って!? 私今寝起きだから!」
「そ、そうか。悪かった。コロの散歩でもしているから、ゆっくり準備してくれ」
「あ、ありがとう」

 そして、“嵐山くんの為に”っていう口実のもと、私はその誘いを受けるのだ。




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