day off with you

 久々に訪れた休息日。少し前までこれからどうしようと路頭に迷いかけていたというのに。今では予定がない日が随分と愛おしく感じてしまう程だ。勿論、それは働き口があるというありがたさのおかげで感じられるのだけれど。

「お父ちゃん! お母ちゃん!」
「おーなまえちゃん! 久しぶりやねぇ。元気やった?」
「うん! あんね、今私ホークスの事務所で働きよるんよ!」
「えっ、ホークスてあのホークス?」
「そう! あ、ヒーローのね」
「分かっとるくさ」

 次来る時は泣きの表情を見せるかも――と抱いていた不安も無事に砕かれ、こうして笑顔を見せることが出来ているのもホークスのおかげ。彼はまごう事無きヒーローなのだ。

「それにしてもあん人は凄かねぇ。有言実行っちいうか、早いっちいうか……」
「ん? どういうイミ?」
「なまえちゃん。今ホークスの所で幸せなんね?」

 お母ちゃんの言葉にハテナを浮かべていると、お父ちゃんが更に質問を重ねてくる。まぁ、幸せかそうじゃないかで訊かれたら「幸せよ」この言葉を選ぶ。

「住まいも事務所の宿舎やし、給料もちゃんと貰えよるし」
「そうか。ならよかばってん……宿舎ち、ちゃんと疲れとれるんね?」

 まぁ確かに本物の家と比べると、真に落ち着くことは出来ないけれど。宿無しより何倍もマシだし、それを言うなら――

「お父ちゃんだって状況は同じやろ? だけん、私頑張るけんね。稼げるようになったら恩返しするけん」
「なまえちゃん……」

 2人の目が潤む。「私らよか娘を持ったばい」なんて言葉を言われたら私だって泣きそうだ。私のことを“家族”として見てくれていることがどれだけ嬉しいか。私は、幸せ者だ。

「素晴らしい! これぞ家族愛、ってヤツですね」
「!?!?」

 3人で手を取り合っている所に、休日だというのに聞こえてきた馴染みのある声に目を見開いた。どうしてこんな所に……?

「お久しぶりです」
「え、なんで?」

 ホークスの登場に湧き立つ避難所。溢れる人に笑顔で対応しながらこっちにやって来たホークスはお父ちゃん達に会釈をして近くに座る。しかもお父ちゃん達も「おう、元気そうでなにより」と親しそうに話している。

 初めましてじゃなさそうなその様子に1人頭にハテナを浮かべていると、ようやくホークスが「前にこの避難所にお邪魔したことありまして」と事情説明を行ってくれた。

 ヒーロー活動の一環として、ヴィランの被害に遭った人達のもとへ出向いてボランティアなどを行っているらしい。そして、ホークスはこの避難所にも訪れたことがあり、その時お父ちゃん達と顔見知りになったということだった。さすがホークス。行うヒーロー活動の量が尋常じゃない。

「だって俺が行くだけでその人達の顔が明るくなるんです。行かない理由はないですよ」

 だって。それを本心から言えてるんだから、なんてったってホークス。ちょっと格好良い。

「にしても、今日オフじゃなかったです?」
「ええ。まぁ」
「オフにまでこんな活動を?」
「いえいえ。今日は私的な用でちょっと」
「私的?」

 私的な用だというホークスに首を傾げていると、ホークスはお父ちゃんに向かって「お願いがあります」と言葉を発する。

「俺にか?」
「はい。鷹守のお酒、あれはアナタが造ったものだと伺いました」
「あぁ……。まぁ、地元のモンと一緒にやけどな」
「それをもう1度造って頂きたい」
「あれを?」
「ええ。俺はあのお酒が大好きでね。それがもう飲めなくなるのはとても悲しい」
「それは嬉しいばってん――」
「モチロン――」






「じゃあそういうコトで。また詳しいことが分かったら伺いますね」
「おう。ありがとね、ホークス」
「イエイエ。お礼は俺が言う言葉ですよ」
「そんなら気をつけてね」
「はい! あ、なまえさんも帰るなら送って行きますよ?」
「えっ? あ、うん」
「それでは」
「じゃ、じゃあね! お父ちゃん! お母ちゃん!」
「また来んしゃい」

 ホークスに声をかけられ、ハッとしてお父ちゃんたちと別れを告げ歩き出す帰り道。ちょっと今まで繰り広げられていた会話の処理が追い付かない。どこまでがヒーローとしての役目で、どこからがホークスの私情なんだろう? この男が分からない。

「……このまま歩いて帰っても人に掴まりそうですし、空飛びます?」
「え?」
「こないだはゆっくり飛行散策ってワケにも行かなかったですし」
「確かに……。気付いたら空飛んどった」
「よし。じゃあ行きますよ!」
「おわっ!」

 こうしてこの男は、得体が知れないまま、得体が知れない行動を起こしてみせる。だけど、その得体の知れなさはどうしてだか私の心を浮つかせてみせるのだ。




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