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 温かい街――私の地元はそう言われることが多い。それについて、私は異議を唱えるつもりはない。なにせ、ヴィラン暴走のせいで家族を失い、まともな学も付けられなかった私を快く雇ってくれる人達がいるのだから。

 地元の商店街は小さい頃から馴染みにしていた通りだった。それこそ、職場としてだけでなく住まい先にもなっているこの酒屋も。母親と共に足繁く通った場所だった。

「なまえちゃん、お使いしよらすと? 偉かねぇ。コレ、オマケしとっちゃるけんね」
「なまえちゃんは今日も可愛らしかねぇ」

 なまえちゃん、なまえちゃん――。目を閉じると、今でも至る所から温かい声色で私を呼ぶ声がする。私は、ココが大好きだ。……それなのに。

「……なんで私ばっかり」

 瞼を持ち上げ広がる景色を捉えると、悲痛な声が喉から放たれた。どうして。なんで私ばっかりがこんな目に遭わないといけないのか。今では馴染んだ景色など塵と化している。
 つい先日、ここら辺一体でヴィランによる大抗争が起こりこの商店街はその被害者となった。その結果、商店街は見るも無残な形へと変貌を遂げ、ここに店を構えていた人たちはこれを機に店を畳むことを決めた。
 それは私を雇ってくれていた酒屋も例に漏れない。

「これからどうしよ……」

 元々、この商店街は高齢化を理由に店を畳むことを考えている人が多かった。だからこそ、今回の抗争は“丁度良かった”“死人も出ていないことだし、神からの思し召しなのかもしれない”そう呟く人も居た。
 もちろん、酒屋のお父ちゃんだって「俺もそろそろたいね」と前々からよく口にしていた。「なまえちゃんも今のうちから違う所探しよったがよかよ?」とも言ってくれていた。
 だけど、私はこの商店街が好きだった。ずっとここに居たいと思っていた。だから、その時が来るまでは精一杯ここで働こうと思っていた。

「まさか“その時”がこんなに早く来るとか思わんやん……」

 避難所でお父ちゃんお母ちゃんに「ごめんねぇなまえちゃん」と申し訳無さそうに謝られて「ほんとばい」とか、言えるはずがない。

「いいって! 私、彼氏も趣味もないし。その代わり、貯金だけはちょっとくらいはあるとよ?」

 とかうそぶいたけれど。実際はその貯金もあまり当てにはならない。お父ちゃんたちには「また来るけん!」と笑って告げたが、次行く時は泣きの表情を見せかねない。……それは嫌だ。ここまで面倒を見て貰ったのだ。これ以上心配はかけたくない。

「まずはバイト探すか。……はぁ」

 犠牲者は出てないけど、それでも。思い出の詰まった商店街を偲ぶために手を合わせてその場を去ろうと踵を返した時だった。

「ども」
「うわぁ!?」

 あまりにも近すぎる距離で顔を覗き込まれ、素っ頓狂な声をあげてしまった。そのまま後ずさった私を笑いながら、その男は「初めまして、かな?」と尚も距離を詰めてくる。……この男どこかで見たことあるような……。

「えっ、ほ、ホークス!?」
「おぉ。大正解」

 名前が知られれて良かったと笑う男は、全国各地で活躍するプロヒーロー、ホークス。確かビルボードも上位だったような……。

「え、ホークスが一体何の用で……」

 全国を忙しく飛び回るこの男は一体私に何の用があるというのか。全く状況が呑み込めていない私に「手短に言うと、アナタを雇いに来ました」と更なる爆弾を投下してみせた。

「…………はい?」

 たっぷりと間を空け、問い返しの言葉を発した時、私の体は既に宙を舞っていた。




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