moyamoya

 3回目の邂逅は願い虚しくも割とすぐ起こった。放課後、部活に行こ思うて急ぎ足で通った渡り廊下。そこで清掃活動してるみょうじさんの姿を見つけた時はうげぇっと顔を歪ませてしもうた。せやけど今までとは違って俺が一方的に見つけただけ。それはラッキーやった。こんまま見つからんように忍び足に歩幅を変えて行ってしまおうて、思うてた筈やのに。

「……なんやの、あれ」

 みょうじさんに見つからんようにする為には俺はみょうじさんを見つめんとあかんくて、図らずも熱視線を送りながら歩きよった。その俺の視線にも気付かんと黙々と地面を箒で掃くみょうじさん。その横顔はちょーっとだけ、ええやん とかそない柄にもないこと思うたけど、下校中の生徒が捨てたゴミを何も言わんと拾った時、俺は歩みを止めて今の独り言を放った。そんで、気ぃ付いた時には俺の足はみょうじさんへと一直線。

 折角すれ違いで終われた筈の3回戦。それをまさか俺から仕掛けようなんて。ほんま何やってんの俺? そやけどこれは言わんと気が済まへん。イライラしてバレーが出来んくなるし、死活問題や。そんな言い訳を口ん中で言って歩いた先には、ゴミ箱に向かい合っとうみょうじさんの背中。

「俺には突っかかってきたクセに、ああいうのはなんも言わんのやなぁ?」
「! 宮くん。……だって、言ったって無駄やん」
「へぇ」

 肩がわずかにあがったかと思えば、ゆっくり振り返るみょうじさんとバチっと目が合うた。カーン、てゴングの音が鳴る予定やったのに、その音は聞こえへん。だって、みょうじさんが意外な言葉を言うもんやから。

「諦めたりすんねや」
「そら前は言ったことあるで。でも、その度に酷くなる一方やった。せやったら言わんが賢いてなるやろ」
「俺にはしつこく言ってきたクセに?」
「宮くんは言っても無駄やないて思うとった。……でも、それも私の勘違いやったみたい。もう言わへん」
「……いやまぁ。……分かってくれればええ」

 もう言わないというみょうじさんに手放しに喜んで清々するつもりやったのに。なんか分からんけど、気持ち悪い感触が背中に乗っかった気分。……なんやの、コレ。なんで今日はこない負けた気がしてまうん? 吹っ掛けたの自分なクセして負けた気がするとか。めちゃくちゃダサいやんけ。

「ほなさいなら」

 恥ずかしさを隠すように顔には愛想笑いを張り付けて部室に向かう俺を、みょうじさんはニコリともせんと見送ってきた。……あかん、この敗北感はあかん。



「こら侑! なにボケーっとしとんじゃ! 俺の愛犬のが動くぞ!」
「……っす」

 あかん、死活問題やんけ。さっき背中に乗ってきたモヤモヤが今も背中におる。そのせいで体が思うように動かへん。……なんやの、なんで。

「ツムがボールに反応せんとかキモイねんけど」
「うっさい。お前んとこの真面目子のせいや」
「マジメコ?」
「イントネーションちゃうわ。真面目子じゃ」
「いや知らんわ」

 休憩中にサムがニヤニヤした顔を俺の眼前に晒してくる。その挑発を受けて汗掻いたドリンクケースを頬に押し付けてグリグリしてやると「ヤメロ」と怪訝そうな表情で離れていく片割れ。ざまあみろ。

「金輪際俺の前に現れんなて真面目子に言うといてや」
「せやからそれ誰」
「お前のクラスにおるやん。黒髪1本縛りのモサいヤツ」
「……みょうじさん?」
「そう。ソイツ」
「みょうじさんがなんかしたん?」
「俺の髪色でウザ絡みされた」
「あぁ。みょうじさん真面目やもんな」

 汗をタオルで拭いて、ドリンクをがぶ飲みするサム。あぁやっぱりみょうじさんは真面目で通ってるんや。つーか、あんだけ芋臭くて真面目かましてたら友達おらんのとちゃうんやろか。

「みょうじさんて嫌われとうやろ?」
「いいや? 別に嫌われてへんよ」
「……嘘やん」
「なんで? 可愛いやん」

……可愛いって、あの カワイイ か?

「一生懸命生きてますーって感じ、見てて楽しいで。なんか腹減るし」
「…………趣味悪っ」

 サムは俺の毒づきすらさして気にも留めへん様子でコートへと戻って行く。……そういえばみょうじさんもサムのこと好印象みたいな口ぶりやったな。

……あぁ、また背中が重なった。この重いクセにモヤモヤとした掴みようのない感情は一体何やの。



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