君とぼくと不等号

 でっかい爆弾みたいなおにぎり2つだけじゃ足りひんくて、オマケにパン2つ腹に入れて最後にパックジュースで喉を潤しようやく得た満腹感。それに満足感を加えてほっこりしながら食堂を出て、口に咥えたストローで空っぽになったパックをポコポコ言わせながら廊下を歩く。5時間目は気持ちよぉ寝れそうやなぁて思いよったら、前から忘れかけとった顔が歩いてきて瞼が微かに開くのが分かった。

 今日もびっちり1本縛りしてはんなぁ、って俺からしてみればそんくらいの感想を抱くだけの人物。ちょっと関り(というかモメごと)あったなぁくらいの。そやから別に言葉を交わすでもなく通り過ぎようとした。まぁ愛想程度に頭は下げたけど。

「ちょっと宮くん!」
「……あら?」

 おかしいなぁ。俺にはもう用ないねんけど。想像通りにはいかんかった現実に、疑問を抱きつつも呼ばれた方へと振り返る。うん、やっぱりみょうじさんは俺に用があるみたい。……俺にはもう用ないねんけど。てかはじめからない。

「今日もモサいなぁ」
「髪色どうして戻さへんの?」
「だってこっちのが格好ええやん」
「でも規則が」
「うん。で?」
「で、って……」
「別にセンセイに言われた訳でもないのになんで気にせんとあかんの?」
「校則で決まっとうからやろ」

 なんで、どうして。メチャクチャ機嫌良かったのに、この女はこないダル絡みしてくんねやろ。昼休みくらい勘弁して欲しい。

「つーか。まず同じクラスのサム注意しろや」
「治くんはあれが地毛て言うてた」
「アホか。そんなら俺かて地毛や」
「嘘や。根本黒いし」
「アイツかて根本黒い時あんで?」
「治くんは、」
「あぁ、ウザイ。なんでアイツのことはそない簡単に信じるん。サムのこと好きなんか?」
「だって……穏やかやし、嘘吐かん人て知っとうし……」
「嘘吐かん? ほんまに言うてんの? 騙されとうで風紀委員さん。大体、双子で片割れだけ地毛は銀色て考えにくいやろ」
「そ、れは……、」
「それに金髪の地毛があり得んて、それこそ決めつけとちゃうんか? 北さんかてあない真面目なのに灰色やんけ」
「う……」
「アホらし」

 握っとったパックをぐしゃりと潰し、近くにあったゴミ箱に向かって投げた。せやけどパックはゴミ箱の縁に乾いた音を鳴らしてぶつかり、外側に不時着してしもうた。そのことにもイライラして思いっきり舌打ちしてみせる。みょうじさんは唇を噛み締めて溢れる感情をぐっと抑えこんどうみたい。
……そない悔しそうな顔するくらいなら、はじめっから吹っ掛けてくんなや。関わったってお互いにええことないやん。
 こうして2回戦も無事に和解を結ぶことなぞ出来ひんまま邂逅を終えた。どうか3回戦はありませんように、そう願いながら今度こそ進行方向へと歩みを進めた俺にみょうじさんはもう声はかけてこおへんかった。

……あぁ、そういえば外したパック。セッターとしてドンピシャに投げれへんかったのだけは心残りや。さっきの気持ち悪い感覚を思い返してゴミ箱に視線を戻し、その場で固まる。みょうじさんがべっこべこに潰れたパックを拾い上げて耳を引っ張って畳みよったから。……うわぁ、ほんまにド真面目。

 せやけど、どんだけ煙たがられても貫き通す所はまぁ……ええんとちゃうやろか。



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