悪い子と悪い事

「宮くん! 奇遇やんなぁ!」
「う、ウン。な、なぁ〜!? ホンマヤナァー!?」
「宮くん、なんかおかしくない?」
「べ、別にぃ〜!?」

 みょうじさんのキョドるとこ、めっちゃ可愛ええんやろうなぁ。とか思うてたの、ほんの数分前よな?? そんで牛乳買うて、ついでやしスポーツウェアでも見てくか思うてスポーツ店が入っとうフロア歩いてたらみょうじさんとエンカウントって、やばない? 運命か??

 すぐに膝枕のことが頭に浮かんだけど、それを口には出来ひんかった。みょうじさんの目の前でそれを思い返したら俺のが恥ずかしくなってしまう。やばい、頬っぺたがめっちゃ熱い。ぼぼぼて音する。

「宮くんは試合終わり?」
「おん。まぁな。圧勝やったで!! キレキレサーブで1セット分は取ったで!」
「ほんまか?……まぁでも宮くんバレーだけは真面目なんやもん……ね……」

 好きな女には格好良お思われたいから、訊かれてもない試合内容をちょっとだけ盛って答えるとみょうじさんが可笑しそうに笑う。……かと思えばみょうじさんの顔も赤くなりだすから俺は首を傾げてみょうじさんを見つめる。

「……ごめん、宮くんの家行った時のこと思い返してしもうた……」
「……っ、あ。あー……膝枕な! なんかゴメンな!? 俺迷惑かけてしもうたみたいで……」
「へっ、あっ、ウン。それは風邪で弱ってたし全然ええけど……」

 膝枕はええけど……えっ、なに。それ以外になんかあかんことしたっけ!? もしかして俺寝惚けてキスでも迫ったんか!? それやったらヤバイぞ……。
さっきまで赤かった顔は温度を急降下させて青白く変わっていく。どないしよ、切腹して許される問題か……? やばい、みょうじさんに嫌われる……。それは嫌や……。

「“バレーだけは頑張るから、俺のこと嫌いにならへんで”って宮くんに言われたの思い出してしもうて……ちょっと恥ずかしくなってしもうた……」
「!?……俺、そんなこと言うたんか?」

 モロ本音やんけ……。それこそ今も思うてた……。うわ、ヤバイ。それはみょうじさんよりも俺のがハズイ。忘れて欲しい、本気で。

「あーホラ。俺、好感度気にしてるから! それで! それでやで! 別に深い意味は特にはあんまりそんなにほんまにないで!」

 めちゃくちゃな言葉並べて吐いた嘘。全部嘘や。好感度とかどうでもええし、深過ぎるくらい意味ある。それでもみょうじさんは真面目やから字面通りで受け取ってくれたみたい。

「なんや、そっか……私、ちょっと自惚れそうになってん。気にせんようにって思うて過ごしたけど、2人きりで会うとやっぱり思い返してしまっ………恥ずかしいな。へへ……」

 きゅううん、てなった。心臓が。縮こまった。めっちゃ可愛ええ……。健気か。恥ずかしそうに笑うみょうじさん反則過ぎんか!? つーか、こんだけ俺の好意駄々洩れてんのにそれには気付かへんのやな!? 鈍感ガールか!……あかん、俺もう告白したい。

「あ。……なぁ、訊いてもええ?」
「ハイなんでしょう!」
「宮くんはどんな服が好き?」
「え?」
「今度クラス会あんねやけど……私ジーンズしか持ってへんくて……」
「あぁ、別にクラス会くらいそれでええんとちゃう?」
「で、でも……折角校則に縛られへんのなら……可愛いって思うて貰える服、着てみたい……」

 可愛いって思われたいって言うみょうじさんの健気さにまた心臓がパンチ喰らったように暴れ出す。……けど、可愛いて思われたいのは一体誰に? クラス会……1組……

―あぁ、ウザイ。なんでアイツのことはそない簡単に信じるん。サムのこと好きなんか?
―だって……穏やかやし、嘘吐かん人て知っとうし……


「……あ、あー……サムか」
「?」

 心臓に比例するように膨らんどった気持ちを針でパチン刺された気分。そういえばみょうじさんサムのこと好きみたいなこと言うてたな。あぁ、なんや。そういう訳か。おもんな。

「ええよ、俺が一緒に悩んだる」
「ほんま!? ええの!?」
「おん。ええよ。ほら、行くで」

 こうなったらめちゃくちゃ似合わんヤツ選んで、クラス会でサムに幻滅されれば良い。わざとにサムの好みとは反対のヤツ選んだる。だって俺はバレー以外のことは真面目に出来ひんから。こういう意地悪だってしてまう。



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