まばたきの度に侵食

「これは……?」
「うーん……これはちょい派手な気がする」
「そっか……これはちょっと地味やんな?」
「せやな……。それやったらこっちのが俺は好き」

 企てた意地悪どこ行ったん? てくらい俺はみょうじさんと真剣に服を選んでた。だってみょうじさんとああでもない、こうでもないて考えるの滅茶苦茶楽しいわ。みょうじさんがこの服着たら、とか想像すんのおもろい。

「あ! これかわええ……!」
「ほんまや。これ似合うと思うで」
「ちょっと試着してきてもええ?」
「おん。行ってきぃ」

 手にしたのは青色のスカート。うん、かわええ。みょうじさん着たら似合うと思う。試着室に行ったみょうじさんを待ちながら店内をうろつく。みょうじさんを失った服屋は途端に居心地が悪い場所になって、訳もなくグルグルしてると1着のトップスに目が留まって、それを手に取る。
 この服、さっきのスカートに合うんとちゃうやろか……? 白いレースがええ感じ。しかもノースリーブ、結構エロい。……とかはまぁ置いといて。値段……まぁ、予算内や。

「すいません、これ下さい」

 気が付いたら俺はそれをレジに通しとった。まだみょうじさんがさっきのスカート買うとも分からへんのに。



「良い買い物が出来た。宮くんのおかげや。ほんまにありがとう」
「いや……まぁ、ウン……」

 結局、みょうじさんはそのまま青のスカートを買うて、満足げに笑いながらエスカレーターに乗っている。後ろで浮ついた声を出すみょうじさんに何よりやと思いもするし、サムの好みうんぬん差し置いて俺の好み押し付けてるやんって罪悪感も感じながら下るエスカレーター。

「宮くんもなんか買うたん?」
「え?」
「その袋。さっきの所やろ?」
「あぁ……。……ん」
「ん?」

 後ろ手で袋を差し出すと困惑した声が耳に入る。それでも顔は後ろ振り向かんと、手だけをもう1度差し出すと俺の手から袋の重みが消える。

「こないだ、風邪引いた時のお礼」
「そんな、ええよ。別に」
「貰えや。俺が持って帰ってもどうしようもあらへんし」
「……ほんまにええの?」
「ええって。その代わり! 大事に着ろよ!」
「うん、ありがとう。宮くんは優しいね」
「べ、別にっ、そんなんと……ちゃう。ただ……」
「?」
「なんでもない! はよ帰んで!」

 みょうじさんが着たら可愛ええやろうなと思った。とは口が裂けても言えへんかった。

 あーあ。コレ着たみょうじさんをサムは見れんのか。腹立つなぁ。大体、おんなじ顔なんやし、サムやないで俺のこと好きになってくれたら良かったのに。穏やかにもなれんし、嘘もめちゃくちゃ吐いてまうけど……。努力ならするのに。

「なぁ、みょうじさんはサムのどこがええの?」
「治くん?」
「だって好きなんやろ? サムのこと」
「うん。好きやで」

 エスカレーターを降りて歩き出すと同時に、いつぞやのモヤモヤが顔を覗かせる。でも今ならこれが何か分かる。これは嫉妬心や。あと、独占欲。みょうじさんが俺以外の男のことを好きて思うの、許せん。それが顔が同じの片割れならなおのこと。

「治くんのことも、真面目な私を馬鹿にせんと受け入れてくれるクラスのみんなも。大好きやで」
「……ん?」

 その言い方やとクラスのヤツらと治は同列な感じがするんやけど……?

「せやから私、合同クラス会楽しみなんよ」
「合同……?」
「えっ、宮くん知らんの? 今度のクラス会、1組と2組の合同なんやで?」
「はっ!? マジで!? 全然知らんかった!」
「じゃあ宮くん来おへんの……?」
「行く! 絶対行く!」
「……そか。良かった!」

 これってもしかして……。可愛いって思われたい相手……俺も有り得る……? 急浮上した人物候補に心がバクバクいいだす。だって、俺が行くて言うた時のみょうじさんの嬉しそうな顔……。期待してもええんとちゃうか……?

「あ、それと。私、宮くんに謝らんといけんことがあるんよ」
「え? なに?」
「私あんだけ宮くんに校則て言うてたやん? そやけどあの日宮くんに“私も気が付いてへんだけで、校則違反の1つくらい犯してるんとちゃうか”て言われて、改めて生徒手帳見てみたんよ」

 ほんまにはぐったんや……みょうじさん。マジで真面目やなぁ。今では可愛ええて思うてまう俺もだいぶ侵されてるな。

「1個してしもうてたんよ、ごめんなさい」
「? みょうじさんが……? なにを……?」
「その……下着の色、なんやけど……そこまで指定されてるて思うてへんくて……そこの部分、違反してました。ごめんなさい」

 つむじが見えるくらいに頭を下げて俺に謝罪してくるみょうじさん。……どこまでも真面目を貫き通してはるなぁ。このつむじ、押してみてもええやろか。

「折角宮くんとこうして仲良おなれたのに、私のが言ったこと守れてへんくて……その……宮くんこそ私のこと嫌いになるよな?」

 そう言ってチラリと顔を上げて俺の顔色窺ってくるみょうじさん。なぁ、今自分が上目遣いになってんの、気付いてる?

「……はぁ。……ほんま無理可愛すぎ」
「っ!? へっ!? な、なに……!?」
「そんなんで嫌いになる訳ないやん。もう無理やって」
「ほ、ほんまに……?」
「……なぁ。高校生の不純異性交友はあかんとか、生徒手帳に書いてんの?」
「こないだ見た時は書いてなかった……と思う」
「じゃあ校則は破ってへんよな?」
「へ? なにが……っ!」

 呆けてるみょうじさんを置き去りにして、みょうじさんの体を起こしてそんまま抱き着いて。その勢いのままみょうじさんの唇を奪ってやった。そら引っぱたかれる覚悟もしたけど、それ以上に自信のが上行ったから。
 みょうじさんかて、俺のこと絶対好きやん。そうやないとあんな不安そうな顔浮かべへんし。……あぁ、あかん。にやける。

「俺と付きおうて? みょうじさん」
「なっ……なっ……、」
「好き。もう堪らん好き」
「じゅ、順番が……っ」
「順番?」
「キスと告白の順番が……違うっ」
「えー。そんなん俺が守る訳あらへんやん」
「……っ、」
「それとも嫌やった?」
「いや、じゃないけど……!」
「うん。ならええやん」

 いやでもこういうことは……! とかみょうじさんは俺の腕の中でなおもキャンキャン言うてたけど、それには反応せんとぎゅーっと抱き締めてやった。そうすればみょうじさんも静かになって、最後には「……よろしくお願いします」て小さな声で言うてたから、これはもう俺の勝ち。

 大丈夫。彼氏として真面目に大事にするから。それでええやろ? 俺の彼女さん。



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