恋にkirameki

 結局あの日、起きたらみょうじさんはもうおらんくて、代わりに布団が被さっとって寝汗掻きまくってた。そのおかげかもしらんけど、体調はもう万全。バレーかて思いっきし出来る。バレーが出来んのはやっぱりストレスやったから。あと、学校に行けばみょうじさんに会えるし。風邪なんか引くもんやないな。

「なぁツム。ちゃんとみょうじさんにお礼したんか?」
「……したけど? こないだ廊下で会うた時」
「ふぅん。なんか言うてた? みょうじさん」
「別に……なんも」
「へぇ、そうか」
「なに、なんやの? キモイ」
「べっつにぃ〜」

 こんな感じで、サムが事あるごとに俺のことをやけにニヤついた顔で見てくるからイライラする。なんやの、一体。隠しごとされてるみたいで落ち着かへん。



「そういえば。ツムのクラスはクラス会とかあらへんの?」
「ん? どうやろ」
「俺のクラスでは持ち上がっとうみたいやけど」
「ふーん。興味ないな」

 楽しい平日を終え、試合やった日曜日。言うまでもなく圧勝やって、なんかもう色々楽しすぎるやろってくらい楽しい毎日。そんな休日の帰り道でサムが俺に問うてくるのはクラス会とかいうクラスのイベント。
 クラス会なぁ。やってもやらんでもどっちでもええ。どうせ行かんし。そんなのに行くくらいならバレーする。せやから自分のクラスの催しモンなんか毛ほども興味ない。

「ツムらしいな」
「そうか?」
「お前、俺らのクラスやったら絶対参加したやろ」
「なんで?」
「みょうじさんおるから」
「……まぁ」
「ブッハ!! 素直か!」
「うるっさい!」

 そらもうみょうじさんのことが好きて気持ちは隠せてへんけども! そこをええ玩具見つけたみたいな顔してイジられんのはおもろない。ほんまに、覚えとけよ。サムにもそういうヤツ出来たら滅茶苦茶イジったるしな。

「なぁ、牛乳買うてきててライン来たで」
「あ、そういえば俺朝飲み切ったな」
「ほんならツムが行けや」
「嫌やメンドイ」

 俺がラインあんま見んからやろうけど、そういう買い物の指令は大抵サムに行く。そんでこうやって買い物の押し問答する。それから2人で行くこともあればジャンケンで決めることもある。今日はサムも腹ペコペコみたいやし、ジャンケンの流れやろうか。そう思って左手をグーにした時、サムが「なぁ」と悪戯に笑って口を開く。……猫だましはきかへんで。

「みょうじさんがお見舞い来てくれた日、あるやん」
「……おう」

 気張ってサムの行動を待ち構えとったにも関わらず、不意打ちを喰らったような感覚に陥る。いつだってみょうじさんの話題は俺にとって予想外や。握った手のひらを解き、サムの言葉の続きを待つ。みょうじさんがなに。気になる。はよ。
 そう急かす俺を見透かしたサムがもう1度笑って「あん時、ツム、みょうじさんに膝枕して貰うてたで」と信じられんことを言うてくる。

「……冗談やろ?」
「ハハッ、顔やばいって!」

 いやそらやばくもなるやろ。膝枕して貰うてたって……俺が? あのみょうじさんに?……嘘やん。だって覚えてへんもん。

「やけに静かになったなぁ思うて行ってみたらみょうじさんがソファでカチンコチンに固まっとってな。そんで近づいたらツムが膝に頭乗せて唸りながら寝ててん。それでツムの頭どかしてやったら一目散に帰ってった」
「なっ、うえ……なっ、なっ……」
「“親御さんおらん時にあがりこんでごめんなさい! 治くんも宮くんも暖かくして寝るんやで!”て言うてた」

 みょうじさんてほんまに真面目よなぁ〜なんてのほほんと言うてるサムはもう俺の脳に入ってこおへんかった。だって、俺、みょうじさんに膝枕して貰うてたんやで……? それが強すぎて他のワード入ってけえへん。つーか、布団被せたんサムか。あれは被せ過ぎや。……て、今はそんなこともどうでもええ。なんであん時の俺覚えてへんの。なんて勿体ないことを……。

「じゃ、その調子で牛乳もよろしく」
「……あっ!? オイコラ! ずるいぞ! オイっ!」

 呆けとう俺に口早に牛乳を擦り付けて帰ってったサムにようやっと我に返ってみたけど、サムはもうずっと先。……アイツ、不意打ちうますぎるやろ。くっそ。

「牛乳……買って帰るか……」

 まぁええ。なんか気分ええし。牛乳くらい買うて帰ったる。鼻歌でも歌えそうな機嫌で入った目の前のショッピングセンター。こんな軽やかに入店する客、滅多におらへんやろな。

 今度、みょうじさんにちゃんとお礼言うたろ。どうせ俺が覚えてへん思うて澄まし顔してたんやろなぁ。膝枕のこと言うたらみょうじさんどんな顔するんやろか。サムに見せたみたいな顔、してくれるんかなぁ。みょうじさんのキョドるとこ、めっちゃ可愛ええんやろうなぁ〜。



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